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本棚の森 〜書評集〜

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動物本、動物園本を中心とした書籍のレビューをまとめました。
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#書評

あの日見たオランウータンの名を、豊島与志雄は知らない

あの日見たオランウータンの名を、豊島与志雄は知らない

"言葉を持つことだ。オランウータン、自分自身の言葉を持つことだ、そう私は繰返したのである"

豊島与志雄(1890〜1955)という作家がいる。

大正〜戦後にかけて活躍し、芥川龍之介や太宰治とも親交を結んだ。太宰が玉川上水で自死した時は葬儀委員長も務めている。ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』や、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』といった大長編

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【書評】雑木林の思想――河合雅雄『学問の冒険』を読んで

【書評】雑木林の思想――河合雅雄『学問の冒険』を読んで

独創と逍遥と。霊長類から見えてくる、「われわれとは何か」 2019年11月。SAGA(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)第22回大会観覧のために愛知県犬山市の日本モンキーセンターを訪問した折、センターの飼育スタッフの方から、印象的なお話を伺いました。

飼育されているサルたちの生き生きとした姿が注目を集める日本モンキーセンターの公式twitterアカウント(@j_monk

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【書評】Ordinary Whales ありふれたくじら vol.5 神を食べる:唐桑半島

【書評】Ordinary Whales ありふれたくじら vol.5 神を食べる:唐桑半島

すごい本に出会ってしまった。

リトルプレスと呼ばれる小規模出版の書籍に普段私はあまり手を伸ばさない。文学フリマなどの「同人誌文化」にこそ慣れ親しんできたが、「知り合いが出展している」から、という風に「ヒト」がフックになって関心を持つことが多かった。

是恒さくらさんの『ありふれたくじら』5巻とは、違う出会い方をした。下北沢の書店で、幻想的であたたかみのある表紙が目に止まった。こ

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【書評】筒井嘉隆『町人学者の博物誌』

【書評】筒井嘉隆『町人学者の博物誌』

この父にして、この子あり。縦横無尽、破天荒な活動の陰に緻密な洞察が光る、自然と人間を見つめる名エッセイ。

筒井康隆さん、の名を聞いて、SF小説の世界はもちろん、戦後の日本文学を代表する作家のひとりとして、疑う人は少ないのではないかと思います。『パプリカ』に『富豪刑事』、近年映像化された作品も記憶に残るものばかりです。

ところで、この筒井康隆さんの父親が、大阪で長く親しまれている天王寺動物園の園

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【書評】ヴァルター・ベンヤミン『ベルリンの幼年時代』より「川獺」

【書評】ヴァルター・ベンヤミン『ベルリンの幼年時代』より「川獺」

デジャ・ヴュ〔以前に見たことがあるという錯覚〕の記述は、しばしば行われてきた。いったい、この名称そのものは成功しているのであろうか?むしろ、流れ去った人生の暗闇のなかでいつの時か鳴りはじめたらしい音響が、こだまを呼び起こし、そのこだまにいまわたしたちが驚かされている、とでもいった出来事をさしているはずではないか。――ベンヤミン『ベルリンの幼年時代』より「ある訃報」

 先日投稿したnoteで、わた

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