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経営戦略総論(10):再興 THE KAISHA(3)

ウリケ・シューデ教授「再興 THE KAISHA」の3回目、最終回です。

第8章 〈ビジネス再興の実行〉行動様式の変革

後半の始め、第8章は「タイトな文化」を持つ日本企業の行動様式をどうのようにイノベーションやチャレンジ志向に変革していくかについてです。

前書「両利きの組織をつくる」も引用しながら、コングルエンス・モデルをベースに、多くの日本企業には「ものづくり」適合モデルから「飛躍的イノベーション」モデルへの変革の必要性を説いています。

そして、大手企業の間では「オープンイノベーションの推進」「オフィスの再設計」「職場での行動調整」という3つの変革レバーがすでに広まりつつあることが示されています。

「両利きの組織をつくる」より


第9章 〈雇用とイノベーション〉カイシャの再興

つぎにBCGのJ・C・アベグレンに「日本型経営の三種の神器」と言われた中から「終身雇用」の変化、団塊の世代の退職以降の構造的な人出不足による中途採用増加やウーマノミクス、そして、昨今の働き方改革について分析しています。

日本企業の人事・人材マネジメントの変化・検討すべき項目については、私も以前5回に渡ってnoteに書いてみましたので、良ければ参考にして下さい。

さて、本章では新たに付け加えるべき視点として
 ①企業における「兼業・副業制度」の導入
 ➁スタートアップへの本格的な官民支援
の2つが取り上げられています。

日本のスタートアップが大企業による買収よりも、IPOに偏っていることは以前にもnoteで述べましたが、本書でも同じ指摘がなされています。

著者は昨今の取り組みの中で、日本の複数の省庁・大企業が協力して立ち上げた「Jースタートアップ」を特に注目していました。

こういった大企業や官公庁をも巻き込み、副業といった新しい働き方も模索しつつ、シリコンバレーと違った日本流の「イノベーション・エコシステム」を作り出していくことがタイトな文化を持つこの国には合っているのではないか?というのが、シューデ教授のアドバイスになっています。

第10章 〈前に進む日本〉DXに向けたビジネス再興

さて、本書の最終章では、日本のDXについて著者なりの見解を提示しています。

デジタルの世界では「GAFAMやBATなどプラットフォーマー)を有する米中が儲けの大半を独占し、日本の出番は絞られていく」という懐疑的な意見が欧米の有識者の間でも多いようですが、著者は疑問を呈しています。

集合ニッチ戦略で製造業の強みに磨きをかけ、IoTセンサーや半導体関連分野、5Gなどの領域で優位性を有しているうえに、日本企業はさまざまな形でさらに大きなビジネス再興を目指している。

日立やトヨタ、ファナック、リクルート、ソニーなど現在進行中ではあるが、各社の次世代への取り組みは以前と比較にならないほど大胆で緻密な計画に基づいていると評価しています。

以前、経営戦略からDXについて書いたnoteの中で紹介した産官学共同で
IPAがまとめた「DX実践手引書」も、「とりあえずやってみよう!」というシリコンバレー流とは異なり、日本らしく計画立てた変革の進め方・ガイドブックの一例かと思います。

次に著者は「製造業の未来:デジタル現場」と題して、デジタルものづくりについて触れています。
これは以前、生産システム:デジタル・ケイレツで紹介した「製造業プラットフォーム戦略」の考え方にも通じる話です。


最終章の最後には「なぜ新・日本が重要なのか?」と題して、
半導体・コンピュータ・自動車・飛行機などハイテク製品を支える日本企業なくして、世界は成り立たない。

一方、日本のタイトな文化は安定・秩序・予測可能性を強く求める傾向にあるため、米国企業の変化の方向性とは異なる道筋・進め方になるだろう。

その結果、日本のリインベンションは漸進的にならざるを得ないが、働き方改革やオープンイノベーション、M&Aへの取り組みなど多くの面で着実に前進・変化していることを期待感を持って、本書で示すことが出来たと結論づけています。


解説 私たちにとって最高最良の姿見が登場! 冨山和彦

さて、本書の解説はIGPIの冨山和彦氏が十数ページに渡って寄稿されていますので、ぜひ最後まで読んでもらいたいと思います。
また、日経のサイトにも本書の推薦文を書かれていますので、こちらも参考にされると良いでしょう。


さて、私なりに本書を3回に渡って解説してみましたが、経営者や経営者を目指す方、経営企画や事業企画に携わっている方は、ぜひ、実際に本書を手に取って読んで頂ければ、きっと明日からの事業運営の参考になるヒントが見つかることと思います。


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