生産システム(4):デジタル・ケイレツ
今回は生産システムのアウトソーシング動向について、書籍や資料を読んで感じたことを書いてみたいと思います。
ものづくり白書
生産システムの動向については、毎年発行される経済産業省の「ものづくり白書」をよく参考にしています。
最新版(2021年版)ではニューノーマル時代の生き残りに向けて、
1.レジリエンス ―サプライチェーンの強靭化
2.グリーン ―カーボンニュートラルへの対応
3.デジタル ―デジタルトランスフォーメーション(DX)の取組深化
のそれぞれに対する各社の取り組みと課題、人材の確保と育成に関するレポートが中心となっています。
一方、水面下では2016年版で指摘されていたEMSやラインビルダーによるアウトソーシングの流れがここ数年でさらに世界の潮流になってきているようです。
製造業プラットフォーム戦略
最新のアウトソーシング動向について、昨年2021年9月に出版された「製造業プラットフォーム戦略」野村総合研究所 小宮昌人著を読んでいろいろな面で改めて驚くとともに日本の製造業の生末について考えさせられました。
本書ではグローバルクラスの製造業が多品種大量生産(マスカスタマイゼーション)をどのように実現し、さらにデジタルをフル活用している事例が数多く載せられています。
そこにあるのは日本企業のようにすべての生産プロセスを自社で開発・実装・運用するのではなく、必要に応じてEMSやラインビルダー、ITベンダーやロボットベンダー、IoTプラットフォームと強連携して、生産革新を素早くグローバルレベルで実現している姿です。
それを著者は「デジタル・ケイレツ」と名付けていました。
また、その根底には日本の生産システム開発のように品質・歩留まり・ライン停止などにおいて常に100%を目指すのではなく、ラインビルダーなどの力を借りて、まずは70%の完成度でもスピーディに展開すること。
デジタル化においても、大手ERPやPLMベンダーの標準プロセスの採用、デジタル・ツインに必要な3DモデラーやVR/ARを多少未成熟であっても積極的に使っていくのが世界の潮流になっているようです。
多くの製造業にとって、もはや製造ノウハウは企業秘密ではなく、デジタル化によって民主化され、製造as a Serviceとして広く提供されるようになっているとまで書かれています。
EMS、ラインビルダー
日本の製造業だけをみていると、なかなかこのような製造業の潮流について聞いたり、知る機会が少ないのですが、それもそのはず。
EMSの世界ランキングを見ても断トツ1位の鴻海(ホンハイ)から10位までに日本企業の名前は出てきません。
世界的な半導体供給不足の中、注目を浴びている半導体ファウンドリーについても、TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)や
UMC(聯華電子)など台湾メーカーが有名です。
最後にラインビルダーについて見てみると、日本では平田機工が有名なくらいで、ここでは欧州ベンダーの活躍が目立っています。
日本企業の「ものづくり神話」
私自身、多様な業種の製造工場を見学するたびに、顕微鏡レベルの品質管理と目を見張るような多品種少量生産の実現に、いつも驚嘆していました。まさに大学で30年以上前に習ったフレキシブル・マニュファクチャリングが実現されているんだなと。
しかし、長らく日本の製造業は世界でトップクラスの品質と生産技術を保っていたと信じられていたものが、生産プロセスの分業化・専業化、そしてアウトソーシングの流れの中で、世界のメガプレイヤー同志が手を組んだ「デジタル・ケイレツ」に弾き飛ばされそうになっているのかもしれません。
その結果、モジュラー型の電化製品やハイテク機器国内メーカが苦戦を強いられいます。
しかし、その一方で、半導体素材や製造装置を作る日本企業はコロナ禍でも好調を維持しています。
つまり、同じ製造業でも、こういった企業は世界の「デジタル・ケイレツ」の中にしっかりと組み込まれ、グローバル・ニッチ・トップとしてさらなる成長を遂げているということなのでしょう。