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経営戦略総論(6):DX(デジタルトランスフォーメーション)

以前、情報システム(3):デジタルトランスフォーメーション|Nobu-san|note でDXについて取り上げましたが、今回は広く経営戦略の視点からDXについて考えてみたいと思います。

DX実行戦略:マイケル・ウエイド教授

国内のDXブームの中、いまも書店や雑誌に、あまた解説本や特集記事が出ていますが、どれも話としては上手にまとめられてはいるものの成功事例や失敗事例の紹介・つまみ食い的な感じがしていました。

経営的な視点から包括的に戦略の位置づけや検討すべき項目をまとめた
バイブルのようなもの、これぞ決定版!というものはないのか探していたところ、ようやく見つけました。

スイスにあるIMD(International Institute for Management Development)
にある、その名も
Global Center for Digital Business Transformation のセンター長である
マイケル・ウェイド教授を中心にまとめられた「DX実行戦略」です。

この書籍の中で、DXはこれまでのチェンジマネジメントの概念を超えて、
単なる新技術による業務プロセス改革(スマートX)でも、全社的な組織改革(包括的変革)でもなく、両者を兼ね添え、融合させた新しいタイプの
変革であると定義しています。

「DX実行戦略」より

そして、この大きな変革(DX)を実行するためには組織内外にある様々な機能やリソースを調和させながら変えていかなければならず、まさに様々な楽器のオーケストレーションが重要だと説いています。

インプレスDIGTAL X :デジタルビジネスを成功に導く「デジタルオーケストラ」【第10回】より
https://dcross.impress.co.jp/docs/column/column20171110-01/000613.html

注)引用したコラムや図ではデジタルオーケストラとなっていますが、
日本語版では「トランスフォーメーション・オーケストラ」と訳されています。カテゴリー分けも当初の2015-17年版と書籍に記載された2019年版では若干、異なっているようです。

これを見ると、単に最新のIT技術を導入すれば良いとか、ビジネスプロセスを変えれば良いというレベルではなく、顧客戦略見直しチャネル改革組織改革報酬制度、マインドセットまで含む、かなり大掛かりで包括的な変革であることがわかります。
DXにおいて「トップマネジメントのコミットメントが重要」であると
繰り返し言われているのは、ここからも明らかでしょう。

日本においても有力企業が集まり、2016年にDBIC(デジタルビジネス・イノベーションセンター)が発足し、DXの研究・普及を進めています。
活動の中では、実際に著者のマイケル・ウェイド教授が来日されて講演されたようです。日本企業向けた教授の以下の指摘は的確でしょう。

変革を阻害するものと、責任の所在
ウェイド:私はCEOが直接的に変革をブロックしているとは考えていません。CEOや役員クラスは投資家や顧客やライバル企業の目に常時さらされているので、変革の必要性がよくわかっています。
そのひとつかふたつ下のレイヤー、例えば部長クラスがコンクリートブロックのように変革をシャットアウトしていることが多いです。現場から良いアイデアが出ても、中間でブロックされて、何も変わらない
そして、その中間層の意識を変えたり取り除いたりするのが、皆さんのような経営層の仕事です。

DBIC 【レポート】マイケル・ウェイドIMD教授 より

また、ウェイド教授らの前書「対デジタル・ディスラプター戦略」
デジタルが様々な業界を飲み込んでいく様子をデジタル・ボルテックス
(デジタルの破壊渦巻き)と呼び、既存企業への大きな示唆になった書籍の一つだと思います。

IMD : Life in the Digital Vortex The State of Digital Disruption in 2017 より


DX実践手引書:IPA

一方、日本では独立行政法人のIPAが産官学共同で「DX実践手引書」をとりまとめ、2022年4月に公表しています。

この中では日本企業向けにDXの定義を少し拡げて、特定部門の業務改革からサプライチェーン改革までのデジタル・オプティマイゼーション、顧客体験やビジネスモデル改革、さらに社会全体の変革まで、DXによる変革・事例を変革規模別に整理しています。

図:変革規模のレベル定義 IPA「DX実践手引書 ITシステム構築編」より

さらに変革規模別に身につけるべき組織成熟度を整理し、変革時に必要な改革事項を上げています。

図:変革規模と組織成熟度 IPA「DX実践手引書 ITシステム構築編」より

若干、情報システム関連の項目と組織カルチャー系の項目が多いとは言え、このフレームワークは日本版トランスフォーメーション・オーケストラ
言って良いでしょう。

ちなみに、この報告書には「スサノオ・フレームワーク」を始め、
「八咫烏(ヤタガラス)人材」「割り勘効果」など日本らしいワーディングも出てきますので、興味があれば、ご一読ください。

「飛び道具トラップ」にハマらない

DXの「トランスフォーメーション」を大きな変革として狭義で捉えるか、IPAのように業務改革を含めて広義で捉えるかの違いはありますが、
私としては広義に捉え、定義論よりもDXで解決すべき経営課題の方が
重要だと考えています。

最近、日経クロステック/日経ものづくり編集委員 木崎 健太郎氏の
オンラインセミナーを受講したところ、日本の製造業へのDX調査結果から、
「なるほど!」と感じるまとめをされていたので、紹介しておきます。

「何をしたいか」が全て
・DXだからと無理に課題をつくってもPoCで止まる
「従来のITの延長はDXではない」批判はあまり気にしなくてよい
・気にすべきは「DXの目的」ではなく「以前からの経営課題」
・日本企業において「事業モデルの変革」や「新規事業の展開」が少ない
 という長年の経営課題はDX導入以前からの話。

日経クロステックセミナー 製造業DXの鍵は現場部門とDX推進部門のギャップ解消より著者抜粋

成功するDXを経営課題の解決と定義すれば、IPAのカテゴリーの中では初期レベルにあたる業務改革(デジタル・オプティマイゼーション)であっても、その企業にとっての重要課題が解決するのであれば戦略として全く問題ないでしょう。
むしろ、DXにおいてもデジタル活用やトランスフォーメーションすることが目的になり、デジタルで変わったこと・新しいことをやれば良しとされ、事業的なイノベーションや幅出し、成長や改善もなければ何の意味もありません。


最後に同じく日経クロステック編集委員で情報システム分野の識者 
木村岳史さんが独自の少しシニカルな視点で日本のDXブームに警鈴を
鳴らしている書籍を紹介しておきます。

この書籍の中で
「BT(Business Transformation)という魂を抜かれたDXの悲惨」
という一節があるのですが、何だか、この話、ERPブームの時に導入が
目的になり、日本企業ではBPRを伴っていなかった話に似ていますね。

経営戦略 総論(4)|Nobu-san|note と
 経営戦略総論(5):パストフル|Nobu-san|note の中で紹介した
「飛び道具トラップ」にいまのDXブームもハマってしまい、日本企業の
デジタル改革が終焉してしまわないよう祈っています。

日経ビジネスオンライン 逆・タイムマシン経営論 最終回 より
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00131/030200005/


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