マガジンのカバー画像

400字小説

171
400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。2024年1月1日午前7時オープン!
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

【400字小説】左右

【400字小説】左右

横断禁止の四車線の車道を渡ろうとカズマは。
車が来ないから渡ろうとした、その時、
スマートフォンが鳴って確認するとナナからの着信だった。
出るなりナナは「今、大丈夫?」と訊いた。
その直後、中央分離帯の低い段差に
足を引っかけてしまい、見事に転倒。

そこへさっきいなかったはずの
白い軽トラックが向かってくる。
腕に鈍痛が走って、起き上がれない、
轢かれることを覚悟。

軽トラックも危険を察知、

もっとみる
【400字小説】水平

【400字小説】水平

天秤座のタカヒロは青葉市子に夢中で
B’zが好きなマユを愛してはくれない。
マユはバカにされてるのも知ってる。
ただ、愛することだけに徹する。

昨夜、マユはバンドの練習中に豚汁を差し入れて、
からかわれていたタカヒロが、
とりあえず「ありがとう」と言ってくれたことに昇天。

「メンバーもおいしかったって言ってた」という
LINEが来ないか期待、
でもいつまで待っても来ない。

豚汁の入っていた鍋

もっとみる
【400字小説】蓮

【400字小説】蓮

寺の大きな池にハツジマは酔っ払って飛び込んだ。
亀が驚いて大量に岸にあがる。
真夜中のことだったので、その気持ち悪さは見えなかったが、
ヘドロの汚臭がハツジマの鼻をもぐような痛さで捻り潰した。
酔っ払っていた意識もしゃっきり(した気が)。
真冬だから風が冷たい。
死のうとして池に飛び込んだことはアホである。
死への憧れだけが、風の強さに比例していた。

だけれど、寒くて死のことなど、どこへやら。

もっとみる
【400字小説】トレー

【400字小説】トレー

不思議に思っているのが、
水や空気を固めて持ち運んだりできないこと。
なぜ手のひらに収めてしようとするのに
できないんだろうって、ハヤオは考えちゃうよね。

ジローは当初、面白おかしく
ハヤオの哲学的疑問に対して
ウンウンと頷いていたのだけれど、
さすがにうざったくなっちゃった。

アルバイトで週に3日も会って、
その昼食中ずっと哲学されたもんじゃ、
たまったものではない。
今日もバイトの賄いをお

もっとみる
【400字小説】頭

【400字小説】頭

難解なレディオヘッドが好きな19歳のマキコには、
まわりにそんな友だちはいなかった。
聴き始めたのは父親の影響で
『クリープ』に強烈な衝撃を。
中2の時だから早熟だったと言える。

父からCDを借りるのが照れ臭くて、
Spotifyが素晴らしいことを
家族にプレゼンして、加入にこぎつける。
それから全アルバムを視聴、まんまと泥沼に。
近くのTSUTAYAが潰れたから
サブスクにしておいて良かったな

もっとみる
【400字小説】五輪

【400字小説】五輪

長野五輪、他人事で済ませていた
ヨシイは、長野県民なのに。

1998年、開催年だけは言える。
でも、誰が活躍したのかは
リアルタイムでは知らなかった。

あまのじゃくでテレビも持っていなかった、
当時、一人暮らし。
NHKの受信料を徴収されるのを拒んでいた。
実際、テレビ見てなかったんだもの。
それで徴収に来るおじさんと
喧嘩になることがあって、
仕方なく彼女のキヨミヤが間に入って、
白黒テレビ

もっとみる
【400字小説】棒

【400字小説】棒

昨夜、深い2時までSTAND FM.聞いちゃって
頭がボーッとしている。
気晴らしのために聞いていたのに
やめられなくて、逆効果。

睡眠が大事なのは身を持ってわかっているつもり、イズミ。
イケボに吸い込まれて聞き入り、
最後に時間を確認した
1時58分以降の記憶がない。

寝落ちしてしまって、猫の《ボーちゃん》に
起こされた、朝、5時。
もうスタエフはほどほどにしようって心に決める。

安眠棒っ

もっとみる
【400字小説】夕方

【400字小説】夕方

大学のジャズ研究部に入ってからというもの、
スピリチュアル・ジャズにハマってしまった。
そんなヤナギダはサックスを50万円で買った、
2年生の夏に、バイトでコツコツとお金を貯めて。

なかなかのイケメンだったが、
恋人ができなかったのは当然だろう。
暇さえあれば音楽のサブスクリプションを
聴いていたからだ。

ところが気まぐれで友人と
夏に海に行った際、逆ナンされて、
まんまと恋に落ちて、夜の営み

もっとみる
【400字小説】花

【400字小説】花

「ざまあ!」ってヨシダは花屋のオーナーが
事故死したことを知った時、
そんな言葉が頭を過った。
もちろん、口には出さなかったが。
それどころか、オイオイと嗚咽する始末。
助演男優賞モノだわって自画自賛。

オーナーが亡くなって、その日を境に
売り上げは右肩上がりだった。
現状維持を10年も続けていたオーナーの手腕も、
逆に言えば大したものだったのかもしれない。
でも、皮肉にも死すことで現状を打破し

もっとみる
【400字小説】林

【400字小説】林

林のなかでハヤシくんがしていたのは不法投棄。
ブラック企業で働かされているハヤシくんに
とっては断りがたい仕事。
言いなり、投げやり、結局は思いやりが自分に足りない。
廃タイヤを軽トラックから何十本と下ろして、投げ捨てる。

入社して8ヶ月。
体重は12㎏痩せた。
蝕むように削られるメンタル、
思いっきり食べることだけが
ストレス発散方法。

相当食べているのに、太るどころか、
転がるように痩せて

もっとみる
【400字小説】人

【400字小説】人

「レニクラ、ダサいけど『自由への疾走』の
リフはカッコいいよな~」

「『ロックンロール・イズ・デッド』もな」

結局、それなりにダサいくらいが、ちょうどいい。
ケンバもトキタも自分のダサさに気づいてない、
音楽評論家気触れ。

「ISSAもせつないだろうね、
何年も『U.S.A.』ばっか歌わされて、ダサいのに」

「ISSA、自分でダサいって、わかってんのか?!」

地下のバンド練習室でふたり、

もっとみる
【400字小説】撮影

【400字小説】撮影

カズキはポーズが多彩。
素人の友だちはもちろん、
モデル仲間からも一目置かれている。
所謂《ジョジョ立ち》をして
カメラに収まっても全く違和感がない、
それでいてオリジナリティ。
まるで東京スカパラダイスオーケストラの
個々のパフォーマンスみたいな感じ。
出る時は出る、引く時は引いて、
前面に出たメンバーをひき立てる、そんな。

しかし、実力は運を味方にするのもそれで、
カズキは売れないモデル。

もっとみる
【400字小説】雷

【400字小説】雷

ナミヘイという名前は、
平成生まれの時代遅れでも、
古めかしい。

命名は昭和生まれの化石みたいな
親だから、しょうがない。
明治生まれの祖父母は
とっくに亡くなって、諸行無常。

ナミヘイの人生の主人公はナミヘイだけれど、
それまで命を繋いで来た先祖がいて。
友だち、先生、親戚の人が
まわりで脇役に徹してくれているのも、
実感しなくてはならない。

人は一人では生きられないって、
最早、腐りかけ

もっとみる
【400字小説】力

【400字小説】力

『スターウォーズ』見たことがなくて、申し訳なさ子。
フォースってあの光る棒のこと?
タダオは丁寧にその質問に答える。
申し訳なさ子はタダオの紳士的なやさしさも好きだ。
学生の頃、「『スターウォーズ』、見たことないの?!」って
バカにされたのを今でも忘れられずにいる。
余計に『スターウォーズ』を見るのが怖くなった。
今でも思い出すとカフェインを過剰摂取した時のような
フワついた、気分の悪さを覚える。

もっとみる