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【400字小説】花

「ざまあ!」ってヨシダは花屋のオーナーが
事故死したことを知った時、
そんな言葉が頭を過った。
もちろん、口には出さなかったが。
それどころか、オイオイと嗚咽する始末。
助演男優賞モノだわって自画自賛。

オーナーが亡くなって、その日を境に
売り上げは右肩上がりだった。
現状維持を10年も続けていたオーナーの手腕も、
逆に言えば大したものだったのかもしれない。
でも、皮肉にも死すことで現状を打破して、悲哀。

4人の店員は皆、花が好きだから、
花桶の冷たい水の交換も、
重たい花束の段ボール箱を運ぶのも苦にはならない。
自然に笑顔が溢れて、
ポジティブな雰囲気が充満する
花の香りとない交ぜになり、
店にはスタバのように
意識の高い空気感が生まれた。

朝、市場に仕入れに行ったり
仕事は大変になったが、
ヨシダは自由の意味を知った。
客のなかには「厳しい人がいなくなって
良かったね」と言う者もいたけれど、
死を祝福する自分を蔑む気持ちも生まれなかった。

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