【短編】『侵略者』
侵略者
目を開けるとそこには私の知らない景色が広がっていた。やけにその景色はぼやけて、沈みかけている赤い夕日が海を神々しく照らしているように見える一方で、血塗られた海の上で巨大な円盤が地平線から顔を出しているようにも見えた。どこか遠い場所に突然飛ばされたかのように今自分が置かれた状況も今までの記憶も何もかもが不確実だった。一定の間隔で聴こえてくる波の音だけが混乱しつつある私の頭をどうにか落ち着かせてくれた。自分がどこかの砂浜で倒れていることは海の音と表面の肌触りからなんとなくわかったが、それ以外の情報は一切入ってこなかった。依然として目の前はぼやけたままで、私は徐々に明るくなる巨大な円盤のようなものを見ながら、これが世に言う黙示録というものかと思った。丸い円盤は大きな光を一瞬放つと即座に顔を隠してしまった。それと同時にあたりは暗くなり、波の音は一層強まったように感じられた。
しばらく何もせずただ波の音のする方を見つめていると、海が俄かに輝きを放ったように感じられた。とその瞬間海のあちこちで同じような輝きが見られ、私は何者かがなんらかの合図を私めがけて送っているのだと直感した。私は自分の居場所を伝えるべく制御の効かない体を必死に動かそうとした。がその重りはびくともしなかった。空を見上げると海と同じように小さな物体がそれぞれ光を送り合っていた。私はどうにかこの動けない状況を脱せまいかと頭の中で自分の体が動く様子を想像した。私は倒れ込んだ状態から体を起こし、裸足でゆっくりと波打ち際を歩き始める。徐々に足を動かすことに慣れていき一度大きく上空に飛び跳ねると、そのまま着地に失敗して地面に転がり込む。私は波に打たれながら空を見上げる。空には無数の輝く物体が私を迎えに来る。と妄想に浸っていると突然過去の断片的な記憶が脳裏によぎった。自分が何者かと楽しそうにかけっこをしている情景だった。それが誰であるかはわからなかったが、今まで一度も会ったことのない不思議な存在であることはなんとなく覚えていた。と次の瞬間私はその者と共に何かから逃げていた。何が追いかけてきていたのかははっきりとは覚えていないが、危険を察知して逃げていることは間違いなかった。そこから先は記憶が途切れていた。
海中と上空から信号を送り合うものたちをただ無力に倒れながら眺めていると、今度はそれらよりも少々強い光を放つ小さな円盤がどこからか姿を現しては上空のとある位置に止まった。気づくと信号を送り合っていたものたちはどこかへ消えていた。小さな円盤は何かを探しているかのように見えたが一向に動く気配はなかった。もはや一定の間隔で波打つ音とその円盤の光が私の中で普遍的なものとなりつつあった。気づくと円盤は少し離れた位置に移動していた。現状の視力では到底気付かぬほどとてつもなく遅い速度でそれは移動していたのだ。すると同じような光を放つもう一つの円盤がちょうど真下の海の中に現れた。私はその両方の円盤が完璧な位置を保って一定方向にゆっくりと移動していく姿から、先ほどの無数の小さく光る物体が実は空にしか存在せず、それらが海面にただ反射しているだけのことだったのだと理解した。私は少しずつ物事を物理的にそして論理的に知覚する能力を取り戻していった。
徐々にあたりが明るさを取り戻していくにつれてぼやけた視界に映る小さな円盤は姿を消していった。とその時、体ごと持って行かれてしまうほどの強風があたり一体を襲い、一瞬にしてぼやけていた視界が鮮明な景色へと反転した。どうやら私の上に長らく被さっていた布らしきものがどこかへと飛ばされていったようだった。そして、突如として私の真上に大きな輪っかを描いた半透明の機体が強烈な光を浴びて現れた。私はその機体を確認するや否やこれまでの記憶を全て思い出した。私は他の惑星から来た調査員の一人で、現地人とようやく仲を深めつつあった。そんな中、突如母船が迎えに来たと思えば、惑星の者たちを跡形もなく消し去ってしまったのだ。私はと言えば、なんとか襲撃から逃走している最中に気を失ってしまったらしかった。
私の姿を確認した母船はわざわざ真上までやってきては我々異星人特有の力によって体を浮き上がらせた。私の体はゆっくりと上空へと吸い上げられて行き、機内まであと少しのところで一度止まった。その反動で体は少しばかり回転し下を向いた。すると目の前に私の知っている懐かしき光景が映った。肉眼で見る惑星はやはり美しかった。
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