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【20】 頭はほぼ剥げたままなのに、顔や脚から、剛毛が生えてきた。

恐る恐るホルモン薬を口の中に放り込んだのは、それから一週間ほど経ってからでした。

「薬を飲まない勇気と覚悟」を持てなかった私は、嫌々ながらも「飲む」という選択をしました。

(……これで5年間の始まりかあ……やだなあ)

うんざりしながらも、「飲む」を選択して、とりあえずスタートを切れたことで一歩前進しました。

飲み始めて数日経つと、早くもホットフラッシュが始まりました。突如じわりと汗が噴き出して、体中がベタリと不快に。
そして、関節がおかしくなりはじめました。カフェなどで、一時間ほど椅子にしばらく座った後に、立ち上がって歩こうとすると、カラダが固まってしまい、ロボットのようにギクシャクして前に進めなくなるのです。

急におばあちゃんになってしまったような気分でしたが、年齢的に「おばあちゃん」である実家の母も、ホルモン剤によって「朝、起きたときに、体がガチガチに固まって動かない」とぼやいています。

さらに、体毛にも変化がありました。

ゼロ状態だったまつ毛から「ぞわっ」という感じで、みっしり毛が生えてきたのです。
(やったー! ついに待望のまつ毛が生えてきた! しかも抜ける前より濃いんですけど!!)

と束の間、喜んでいたら、顔のもみあげのあたり、目の下あたり、口の周りに、濃いめのヒゲが生えてきました。
抗がん剤で、体中の毛という毛が抜けきり、陰毛までつるつるになっていましたが、一変し、今度は体毛がやたらめったら生えてきました。

(おいおい……私だって一応、女だよ)

つっこみを入れたくなるほどの、顔のヒゲやすね毛。

(女性ホルモンを阻害するって、こういうことなのね……私のカラダの中で、相対的に男性ホルモンが優位になっているから、毛がこんなに生えてくるわけか……でも頭はつるつるのままだね、これも男性ホルモンが多い人って毛が薄いもんね……なるほど!!って、納得してる場合か!!(涙))


そして外出した際に、トイレを我慢できずにチビるようになりました。急に尿意を催して、トイレまでの数分間がガマンしきれないのです。
女性ホルモンのエストロゲンがなくなったことで、膀胱の柔軟性が失われ、尿を貯めらなくなっているからだそうです。

急いで家に帰って、トイレに駆け込むも、どうしても間に合わずに若干の「ちびり」をしてしまう頻度が増えました。
夫には内緒でパンツを洗い、こそこそ着替えます(笑)

(ちびるって、こういう感じかぁ……)

テレビCMなどでやっている中高年女性用の「尿漏れパッド」の存在に、妙に納得したりしながら、肉体の変化に怯える日々が始まりました。

(あ~、最悪。ほんとに、最悪)


母も同じ種類の女性ホルモン阻害剤を飲んでいますから、同じ苦しみを共有し、慰め合う日々でしたが、母は「医者からもらった薬なんだから飲むわ」と割とあっけらかんと状況を受け入れているのでした。

一方で私は、
「絶対に飲みたくなかったのに、飲むハメになっている。私はかわいそうな被害者」
当時の私の気持ちを言語化すると、こんな感じでした。

母と娘で同時期にガンになってしまって以降、こうした母と私の「違い」は、日を追うにつれて、浮彫になっていきます。

病気に対して、自分の肉体に対して、命に対して、スタンスが違う。
治療に対して、医者に対して、薬に対して、スタンスが違う。

同じことでも、
「母にはさほどのストレスがないが、私には巨大なストレスとなってのしかかっている」

私だけが、感情の折り合いをつけられない。
どうしてこんなに母と私は違うんだろう。

この「どうして、こんなに、違うんだ?」というシンプルな疑問こそが、私を脳科学や心理学に傾倒させる動悸だったのかもしれません。

涼しい顔して、人生イージーモードで、明るく生きる母。
まったく、うらやましいよね……。
けれど、半分は「ああは、なりたくない」とも思っているんですよね(笑)

要するに「鈍感になりたくない」のです。
様々なことに「気づいていない」「考えてもみなかった」人で、ありたくない。
たとえ、ストレスや痛みを強く感じたとしても、
「多くのことに気づけている、敏感な私で生きていきたい」って思って生きてきたのです。

だから。
過敏な私だからこそ。
感じやすい、傷つきやすい、ストレスを受けやすい私、だからこそ。
私なりの「イージーモード」を手に入れたいのです、切実に。


大丈夫。
大丈夫だ。
あと少し。

あの頃の私よ、もう少し、もう少しだけ、この地獄を這いずり回れ!
自分が大嫌いで、情けなくて、みっともなくて、泣いてばかりいる私よ。
あと少しで、この地獄から、浮上できるぞ!!

……と、現在の私が回想しているのでした。

もし私と同じような人がいたら、ぜひ一緒に「生きやすく」なりましょう!

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