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【18】 母娘の抗がん剤治療中、世界にコロナがやってきた

秋に抗がん剤治療が始まって、年が明け、2020年。
すっかり脱毛し、ウィッグ生活に入っていた私は、冬場の強風に、頭を押さえて外出することが増えました。

外出するときのセットは、まずブラジャーにガーゼなどを折り畳んで膨らみを作り、左右のバランスを整えることから。すべての服を着終えた後にウィッグ、さらにウィッグがズレないよう帽子をかぶります。帽子をかぶると「ヅラ感」が少しやわらぐので定番となりました。

そして、免疫力が下がっている最中、もし風邪でもひいたら大変なので、マスクも必ずつけました。マスクは1年間の治療のために、ドラッグストアで「大容量タイプ」を購入しました。大容量タイプを買うなど、生まれて初めてのこと。
この先、「日本中でマスクが手に入らないピンチがやってくる」など、思いもよらない時期のことでした。

年が明け、ニュースなどで「コロナウィルス」の話題が、ぽつりぽつりとのぼるようになり、2月になると、ダイヤモンドプリンセス号で集団感染を確認され、さらには国内初の死亡例も出て、じわりじわりとコロナウィルスへの不安が広がり始めました。

そんな中、母の3度目の抗がん剤治療が近づいていました。
「コロナウィルスが蔓延し始めていますが、入院などは問題ないのでしょうか」
不安だったので、母の主治医である男性医師にそう尋ねました。
「うちは感染症には強くないから、大丈夫だと思いますよ」
との男性医師の答え。

この病院は、「感染症の専門病院ではない」ので、コロナ患者は別の病院へ行く=だから大丈夫です。そういう意味でしょうか?
質問の答えとして、少しズレているなと感じましたが、心配だったので、一応確認しておきたかっただけなのです。

ひと月後に、この院内で大クラスターが発生し、連日ニュースで取り上げられることになろうとは、まさか想像もしていません。
コロナに対するぼんやりとした不安を抱えたまま、母の入院生活がスタートしました。

私は、自分の体調がマシな日を選んで、せっせと見舞いに行きました。マスクをしっかりつけ、目の粘膜も保護するべく伊達めがねをかけ、病室の出入りや手洗いの際などには、こまめに手洗い。

母の三度目の抗がん剤。
日を重ねるごとに母の体調は下降し、食欲が失せてゆきました。
小柄な割に大食漢で、「太っちゃう」などと言いながら、ごはんをおいしそうに食べていた母の姿はどこにもありません。

そばにいる身としては、食べられずに痩せてゆく姿を見るだけで、とても辛い。そして無力感に苛まれます。

何かしたい、何ができる?
イヤ、自分自身も闘病中なのだから無理しちゃいけない。
こうして病院に来ているだけで充分だ。
でも……なにかできないのかな……。
でも……無理しちゃいけない……。
でも、でも。でも、でも。

私の脳みそは、いつも自分のしていることに満足がいかない。
どんな選択をしたとしても納得のゆかぬまま、うろうろさまよい続けるのでした。


帰り道、電車で隣に座っているサラリーマンの手元のスマホに、マスクの画像がチラと見えました。

(いまどきは、マスクなんかもネットで買うんだね)
などと呑気な感想を抱いた私。

後日、マスクが品薄、どこに行っても手に入らないというような状況が起こることなど知らずに、疲れ果てて目を閉じるのでした。

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