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【34】 「運」て何? ネガティブな私が「晴れ女」になってみる

抗がん剤投与の、週一の病院通いが続いていたころ、夫が「すごいね。病院に行く日は、必ず晴れるね」と私に言ってきたことがありました。

それは私自身も感じていたことで、その日が雨の天気予報でも実際には晴れたり、当日の朝まで降っていた雨が家を出る直前に止んだりと、いつも雨を逃れていました。


私は、これまで「自分は晴れ女(晴れ男)」などと言う人のことを、ちょっとバカにしていました。そして「あなた、雨女なんじゃないの?」などと、雨が降ったことを同行者のせいにする人に関しても、「なんなんだ、その非論理的な解釈は……」なとど呆れていました。


そんな私が「通院時には必ず晴れる」と半ば確信するようになってから、「自分も案外晴れ女かもしれない」などと、運まかせの、科学的根拠のない言葉を口にするようになりました。

病院に行く日の持ち物は、手足を挟み込んで冷やすための、大きなアイスノン計8個に、口内を冷やすための山盛りの氷を入れた水筒です。
重たい荷物に片手をさえぎられるので、雨に降られると非常に困るのです。

身近に、副作用で「しびれ」が出る抗がん剤治療をする方がいたら、教えてあげてください



運転免許のない夫婦ですので、夫からは「絶対にタクシーに乗って行きなよ」と口すっぱく言われていたのですが、高額な抗がん剤で毎月の医療費が嵩んでいる最中、週一のタクシー往復など、どうしてもできませんでした。

夫には「うん、そうする」などと返事しながらも、重たい荷物を持って駅まで歩き、電車に乗って通院し続けました。


投与が終わった帰り道、抗がん剤がぐるぐる体内をまわるのか、電車に乗っては気持ち悪くなり、折りてから駅のベンチに倒れ込む。
しばらく休んで起き上がると、今度は数メートル歩いては、また気持ち悪くなって地面にしゃがみ込むという事態に陥り、客観的に見て相当にバカなことをしました。

(さっさとタクシーに乗れ!)

……と今の私なら、自分にそう言ってやれるのですが、当時はつらくしんどいときにガマンをしてしまい、自分に優しくできない私だったのです。

 
さて、晴れ女の話に戻ります。


私が病院にいく日は、必ず晴れる。

それって運?
「運」て、なんだろう……。
 

「運が悪いなあ」


乳がん手術後に、父が残念そうに言った言葉です。
私が入院中だったこともあり、抗がん剤を終えた母を、父が迎えに来たことがあったのです。三人で、長い通路をとぼとぼ歩きながら、父がしみじみと言ったのでした。「運が悪いなあ」と。

(運が、悪いかぁ……そうだよね、本当に運が悪いよね……)

自分の境遇を鑑みて、みじめで泣きそうになるのを必死で堪えました。

日頃、饒舌ではない父の、素直な一言。
父にしてみれば、妻に続いて、娘の私までもがガンになり、思わず出た言葉だったのでしょう。


「運」のことなど、これまで考えて生きてきませんでしたので、フレッシュなワードとして、のちのち心に残りました。
 


「運」て、あるのかな。
ずっと昔、脳科学者の中野信子さんがテレビ番組で「運が良い・悪いは存在するのか」という話をされていたことを思い出します。


脳科学と、運。
この二つは真逆で反目しあっている事柄だと思っていたので、脳科学者の中野さんが挙げるテーマとしては意外な気がしたのでした。


おっしゃっていた内容を要約すると、

①運というのは、本来、皆に降り注いでいる。
②しかし、その運をキャッチできる人とできない人に別れる。
③考え方や行動パターンで、運は作られてゆく。
④「運が良い」と思っている人が、運を手にする。

そんな内容だったと記憶しています。


運が、いいか、悪いか。


それを、本人が「そう思うかどうか」で決めるなんて、おかしいのでは?
主観で決めていいことなのかな?

当時は、そんな風に思っていましたが、しかし、今になって腑に落ちたのでした。

要するに、「私は晴れ女だ」と思うことで、晴れることに思考がフォーカスされ、晴れれば「やっぱり晴れた!」と喜べる。
そして仮に雨が降っても、「例外」でスルー。

晴れた日だけに焦点を当てて「私が出掛けるときは、なぜか晴れるなあ、ラッキー」と喜べる。
「晴れ女」とは、つまり、そういうシステムのことだったのです(笑)


「……え、それってなんか、おかしくない? ごまかしみたいに聞こえる」
ミソちゃんが、これまでとは違う考え方に、首を傾げています。

非科学的なことに敏感な、脳みそのミソちゃん


「おかしいかな……でも、とりあえず私は運がいいってことにして過ごしてみようと思うんだけど」

私がそのように説明すると、ミソちゃんは絶叫します。

「えーーーー!!! あり得ないんですけど!! 運がいいって、笑わせないでよ! だって、超、超、運が悪いじゃん! 親のガン闘病中に、自分まで乳がんなんかになっちゃって。笑っちゃうくらい運が悪いよ!」

「……そうかもしれないけど……私は、幸せになりたいんだよ。ひねくれずに、シンプルに、運がいいことに決めて、幸福を目指してみようかと思って。ほら、引き寄せの法則ってあるでしょう」

「えーー、やめて、そういうの苦手ーーーーー」

「いやいや、ミソちゃん。そうじゃないんだって。『引き寄せの法則』ってね、説明がつかないような偶然の出来事を呼び寄せる体験のことを言うんだけど、日常で体験する引き寄せの多くは、すでに周りにある情報を、キャッチしているだけなんだよ。

要するに、その人が特定の情報についてのアンテナを立てているときは、様々な角度から、その関連情報が飛び込んでくるんだってさ」

「…………だからなによ」

「だから、ミソちゃんが引き寄せてくれてるんだってば。ミソちゃんの脳幹網様体という部位が情報整理を司っていて、私に必要な情報を取捨選択して脳に伝えてるんだって。じゃないと、膨大な情報をミソちゃんは抱えきれないからさ。ミソちゃん、あなたが、大切だけな部分を選んで、私に伝えてくれてるのよ。ミソちゃんが、自分で引き寄せてくれてるの」

「………え……ミソが? そうなの………?」

「ね? 欺瞞じゃないでしょう? ミソちゃんの脳の仕組みが引き寄せを起こしてくれてるの」

「……ふうん……」

ミソちゃんは首を傾げながらも、ちょっと納得してくれたようです。
 

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