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命の話をしよう④ 「ガンになっても治療しない」という夫

前回は、夫が経験した医療との関わりを書いた。そして、

「もし今、ガンになっても治療はしない」と言う夫。


は??? 

え???

よく言うよね

私には、治療をすすめておいてさー(笑)


私が乳がんに罹患した際、夫は明らかに抗がん剤を推していた。もちろん、私自身の意見も一致はしていたのだが。それを突っ込むと

「治療はしないけど、ただし、自分が独り身だったらの場合ね」と続けた。

「パートナー(私)や実家の家族が治療をしてほしいと懇願した場合は、その人たちの利益は、同時に俺の利益でもあるわけだから、その人たちのために治療をするかもしれない」と言う。

そうか、私が望む限りにおいては「治療もやむなし」とも考えてくれているのね。

しかし私が先に死んだり、もしくは実家の家族が亡くなって天涯孤独になった場合、「俺はたった今ガンが判明しても、絶対に治療をしない。そう断言できる」と言う。

「ただ、こんな風に思うのも、50代後半のこの年齢までとりあえず健康で、そこそこ満足して生きてきたからってのもあるよ。もう20歳若かったら、そんな風にも思えなかったと思うよ」

そう言えばこの夫は、私の乳がん罹患の際にも、「死ぬのが怖い」と泣く私に、「本当に辛くなったら、一緒に死ぬから大丈夫だよ」と言って、私をオイオイ泣かせた人だった。

「病気だった彼女が亡くなって20年以上が経つけど、今になってみれば、俺がこの先死ぬのと、何の違いがあったの、とさえ思う。生きている時間が、数十年も違うはずなのに、今では、まるでその差が誤差のようにわずかに感じる。そのくらい時間の流れは早いし、人間の命なんて、あっという間に終わるじゃない。命は、すぐに尽きる

30代だった夫が、50代後半になり、今のような達観があるのだろう。
私にはまだ分からぬ境地である。


そして夫が鼻息荒く続けた。

「だけどね。俺は治療はしないけど、医療に関わらない訳じゃないよ。むしろ、痛みや苦痛をとってもらうことには、全精力を注ぐ。医者には、そのことをかなり強めに訴えるつもりだ」


なるほど、ペインコントロールには積極的だというわけだ。

夫は、痛いのが、苦しいのが、しんどいのが、たまらなく嫌なのである。
死ぬのは別にいいから、痛いのだけは勘弁してくれと、本気で思っている。
本当は、私とおんなじ、怖がりなのだ(笑)

そして夫には、「痛いのが怖い」ということ以外にも、怖がっていることがある。

夫は、恐れているのだ。
痛みや苦しみに極度に襲われたとき、周囲に対して一切配慮のないふるまいをしたり、暴言を吐いてしまったりすることを。

「自分じゃなくなるのだけは、耐えきれない」といつも言っている。

「俺は二十歳までは人間ではなかった」と回想するように、夫はサルの時間が長かったらしい。だから、我を失って、サルに戻ってしまう自分が怖いのだろう(笑)
私は割と早い段階から「人間」だったので、特に心配していないが(笑)

そんな夫が、痛みから逃れようと医療モルヒネを打ったら、それはそれで我を失って、何かとんでもないことをしゃべり出す可能性はあるだろう(笑)

なんにせよ、とにかく夫の命に対する見解と、治療への希望は、充分に理解した。

私は、夫が病気になったとき、「治療したくなかったら、しなくてもいいよ」と言ってあげられるパートナーでいられるだろうか。
今はこのように冷静でも、その時になったら、一瞬で吹き飛ぶかもしれない。泣き崩れて、治療を迫る自分が目に浮かぶようである。

(乳がんに罹患した際、同じようなことを経験している⤵)

人間、そのときになってみないと、分からないことがある。
ガンになったとき、それを嫌と言うほど、思い知った。

だから、今わかるのは、ここまでだ。
それでよしとする。

やばい、夫の話になってしまった。

次回こそ、この一連の「命のモヤモヤ」の最終編とお約束しよう。
私は、「私自身の命に対する結論」を出したいと思う。

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