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武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』 : 〈描き得ぬもの〉を描く困難

書評:武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』第2巻(白泉社・ヤングアニマルコミックス)

「戦争のリアル」をそのままを描こうとする試みは、「人間のリアル」をそのまま描こうとする試みと同じことであり、無謀な試みだと言ってよい。
というのも、「戦争のリアル」を描こうとすれば、「人間の醜さ」を描くだけでも「人間の崇高さ」を描くだけでもダメで、その両方を描かなければならないからだが、そうした両義性を持つ人間を、一貫したものとして「一つのフレームに中」に押し込むことは、技術的にも心情的にも、極めて困難だからである。

本巻でも、死んでいった戦友のことを〈美化〉して語らずにはいられない、人間の真情が描かれる。「ありのままを描く」ことが「死者を鞭打つ」ことではないと言っても、そのとき鞭打たれているのは、語り手自身でもあるのだ。だからこそ、意識的にも無意識的にも「事実をありのままに」というのは、難しいのである。

そして、それは本巻にも描かれているとおりで、本作も「事実をありのままに」描いているわけではない。ただし、そのことに、作者は充分に自覚的である。

だから、本作の読者は「本作は、戦争のリアルを描いたものではない」という作者のメッセージをも、正しく受け取らなければならない。
本作が「戦争のリアル」を描いているとしても、まだこれは、その「ごく一部」でしかなく、言わば「序の口」に過ぎないし、作者はその事実を隠してもいないのだから。

「戦争」とは、「人間」のあらゆる本性を、凝縮して赤裸々に暴露してしまう特殊状況である。だが、それをそのまま描ききるような「表現方法」など存在しない。
だから私たちは、その表現の向こう側に広がる巨大な闇を、想像力によって探らなければならない。

そうしてこそ初めて、「無念の死者」たちの犠牲も、すこしは報われるのである。

初出:2020年10月22日「Amazonレビュー」

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