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【小説】連綿と続け(50話まで無料)

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富山県を舞台にした小説。 1話〜50話までの無料分はこちら。 51話以降は有料マガジンへ
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#ご当地小説

【小説】連綿と続け No.19

【小説】連綿と続け No.19

『会いに来てくれて嬉しかったです』

侑芽からのLINEを何度も見返す航
自然と顔がほころんで

『また会いに行くちゃ』

そう返信した。
侑芽はそれを見て嬉しそうに微笑んでいる。
だが、感じた事のない胸の高鳴りの後、
春子への後ろめたさが襲ってきて
胸が苦しくなった。

「春ちゃんに言わなきゃ…」

侑芽は春子の行動が作戦という事をまだ知らない。だから春子との仲が壊れてしまう事に怯えていた。

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【小説】連綿と続け No.20

【小説】連綿と続け No.20

航が侑芽の両親と初対面を果たしている頃
侑芽は井波八幡宮に来ていた。

いよいよ神輿が出発し、八日町通りの御旅所に向かう。そのために担ぎ手達が境内に集合し活気に満ちていた。

普段は静かなこの街が、この時ばかりは大勢の人々で賑わい、すでに祭りが始まっているかのような掛け声が飛び交っている。

今日は富樫や高岡も手伝いに来ている。祭りと並行して明日は街コンの開催も控えているからだ。

侑芽は春子と共

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【小説】連綿と続け No.21

【小説】連綿と続け No.21

『仕事終わったら、ちょっこし会わん?』

航が侑芽にLINEを送ると
すぐに返信がくる。

『はい!喜んで!』

航はそれを見て
1人ニヤけた顔を手で抑えた。

その頃、宿に着いた侑芽の両親は
ひと息つきながら話をしていた。

由紀)なんだか心配してたのがバカバカしくなっちゃったわね?

健太郎)そうだな。侑芽も少しずつ、この街で根を張ろうとしているんだな

由紀)あれ〜?なんか寂しそうだね?

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【小説】連綿と続け No.22

【小説】連綿と続け No.22

航)侑芽の事、女として好きや

航の顔が侑芽の顔に近づいてゆく。
すると侑芽は胸が高鳴り
抑えていた航への思いが溢れ出した。

侑芽)私も、航さんが…好きです

航)それは、お兄ちゃんとして?それとも男として?

侑芽)お兄ちゃんじゃなくて…男の人として…好き…

「好きです」と言い終わる前に
2人の唇が重なった。

時が止まったように静まりかえる部屋で
2人は初めて口づけを交わす。

最初は触れ

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【小説】連綿と続けNo. 23

【小説】連綿と続けNo. 23

いよいよ本祭がスタートする。
その瞬間、一斉に男衆が立ちあがり、
先頭の神輿が担ぎ上げられた。

航と武史も気合いを入れ、
「行くぞー!せーのっ!」と神輿を担ぎ上げた。

皆が大声で「ヨイヤサー!ヨイヤサー!」と
掛け声をあげながら街へ繰り出してゆく。

見物にやって来た侑芽の両親も航の姿を見つけ

由紀)航く〜ん!カッコいいぞ〜!

健太郎)頑張れ〜!

そう叫んで手を振る。
航はそれに気づき、

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【小説】連綿と続け No.24

【小説】連綿と続け No.24

皆藤家で出会った春子と武史。

2人は時が止まったように見つめ合っている。
その様子を皆で不思議そうに見守っていたが、
侑芽が申し訳なさそうに

侑芽)あのぉ…。私そろそろ、となみ荘にいかないと…親が待ってるので…

歌子)そ、そうちゃね!早う行ってあげて!

正也)久しぶりやろうから家族水入らずでゆっくりしてこられ!

航)おい武史、やわやわ行くぞ

武史)おぉ…。そうやったな

侑芽、航、武史

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【小説】連綿と続け No.25

【小説】連綿と続け No.25

航)このまま、一緒におってくれん?

侑芽)一緒にいたいけど…

航)俺ちゃあかんが?

侑芽)そうじゃなくて。私、恋愛経験乏しくて…

侑芽が俯いきながらそう答えると
航はその体を引き寄せた。

航)俺はその方がええ

侑芽)そうじゃなくて。こういうのも初めてで…

航)え…?

侑芽は学生の頃、勉強に明け暮れていたから、
ほとんど恋愛をしてこなかった

合コンや紹介などで知り合った相手と何度か

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【小説】連綿と続け No.26

【小説】連綿と続け No.26

2人が初めて結ばれた朝。

余韻に浸りながらも身支度を整えてから
由紀と健太郎が泊まっている「となみ荘」に向かった。
今日でこの2人が八王子に戻る。

行きは北陸新幹線で来たが、
帰りは富山空港から飛行機で羽田に戻ると言う。

この日は航も休みだったから、
侑芽と一緒に空港まで2人を送ることにした。

由紀)おはよう!あら、航くんも一緒?

侑芽)うん。今日、航さんもお休みだから空港まで送ってくだ

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【小説】連綿と続け No.27

【小説】連綿と続け No.27

航)せっかくやし…このままデートせん?

侑芽)デートですか!?嬉しい〜!

侑芽は思いがけない誘いに心が躍る。
二人にとって初めてのデートだ。

空港を出発し、
富山市内を見渡す小高い丘の上に到着した。
そこは立山連峰も一望できる眺めの良い公園だ。

航)ここは呉羽山やちゃ。

侑芽)ここが呉羽山かぁ!聞いたことはあります!

航)立山見るがはここが1番ええ思う。今日は天気が最高やさかい、よう見

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【小説】連綿と続け No.28

【小説】連綿と続け No.28

夕暮れの街で
お囃子の音を聞きながら歩く2人。

侑芽)わぁ〜。すごい賑やかですね!

航)はぐれんようにせんと

航は侑芽に手を差し出す。
侑芽は周囲をキョロキョロ見てからその手を掴んだ。

城端曳山祭りは
越中の小京都と言われる美しい街の中心にある
城端神明宮の祭礼である。

毎年5月4日・5日に開催され、
初日の今日は夕方から宵祭だ。

この街で曳山《ひきやま》と呼ばれているのは、
祭礼で引

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【小説】連綿と続け No.29

【小説】連綿と続け No.29

侑芽は上司である黒岩に呼び出され、
市民を名乗る人物から匿名で苦情が届いたことを知らされる。

その内容は、
『役所の職員が市内で人目も気にせんと男とイチャイチャしとる。ふしだらや。厳重注意するように』という内容であった。

黒岩)…という話なが

侑芽)それは…私のことですか?

黒岩)まぁ…うん。あなたが彼と一緒におるとこの写真まで添付してきて

侑芽)え、そんな…

黒岩)別にね、交際しちゃ

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【小説】連綿と続けNo.30

【小説】連綿と続けNo.30

思いもしなかった決別の言葉に
ただただ泣きじゃくり、
その夜は眠れぬまま過ごした。
そして航にメッセージを送る。

『ごめんなさい もう一度話がしたいです』

すぐに既読がついたものの、
返信はなかった。

どんなに辛い出来事があっても
仕事は休むことが出来ない性分だ。
翌日、出勤すると、
同期の高岡が飛び上がって驚いている。

高岡)ちょ、ちょ、ちょっとぉ!何その顔!ひっどいクマ…。あっ、わかっ

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【小説】連綿と続け No.31

【小説】連綿と続け No.31

春子が鬼の形相で皆藤家にやって来た
出迎えた歌子は

歌子)ちょっこし待っとって?今、呼ぶさかい!

工房で仕事をしていた航は、
春子の声に反応し顔を上げていた。
そこへ歌子が入って来て

歌子)ねえ、なんや春ちゃんがすごい剣幕で来たんやけど…あんた、何したが?

航)別に…

航がしぶしぶ出て行くと、
春子が無言のままアゴを振り、
「表に出ろ」と言っている。

ここにやって来た理由は明確で、

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【小説】連綿と続け No.32

【小説】連綿と続け No.32

航が侑芽にLINEを送った。
だがいくら待っても
既読にならないまま時間だけが過ぎた。

“1週間も放ったらかした罰やな”

そう思って諦めにも似た境地になり、
頭を抱えたまま天井を仰ぎ見る。

今すぐにでも会いに行きたい。
だが酒を飲んでしまっていたから
今から運転はできない。

腹をくくって電話をかけるも
応答はなかった。

一方、侑芽はベランダに出て
ぼんやりと夜空を見ていた。

眠れぬ夜が

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