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【小説】連綿と続け No.24

皆藤家で出会った春子と武史。

2人は時が止まったように見つめ合っている。
その様子を皆で不思議そうに見守っていたが、
侑芽が申し訳なさそうに

侑芽)あのぉ…。私そろそろ、となみ荘にいかないと…親が待ってるので…

歌子)そ、そうちゃね!早う行ってあげて!

正也)久しぶりやろうから家族水入らずでゆっくりしてこられ!

航)おい武史、やわやわ行くぞ

武史)おぉ…。そうやったな

侑芽、航、武史の3人が皆藤家を出る時、
武史と春子は軽く会釈をしあって別れた。

航が運転する車の中で
武史が呆然としながら尋ねる。

武史)あの人…誰?

航)あの人って、どっちや?

武史)あの…すらっとした美人…

侑芽)あぁ!春ちゃんのことですかね?春ちゃんは私の大学の先輩で、今は金沢の美術館で働いているんです

武史)へぇ…金沢け…

航)何?会うたことあるが?

武史)いや…ないけど…

となみ荘に着くと
武史は魂を抜かれたように
ぼーっとしながら消えていった。

航)あいつ…どうしたんや?…

侑芽)疲れちゃったんですかね?

侑芽も車から降りようとすると、
航はその腕を掴み

航)ゆっくりしてこいちゃ。遅うなってもええさかい、帰る時また連絡して?迎えに来る

侑芽)はい!ありがとうございます!

侑芽は両親が滞在している客室に向かった。
夕食は部屋食で、既に料理が運び込まれていた。

侑芽)お待たせ〜!!

由紀)お疲れ様!お祭り、大変だったでしょう〜

健太郎)俺達は五箇山観光してきたけど、この街は本当にいいところだなぁ

侑芽)だよね!私、ここに来て良かったぁって思ってるんだ

3人で久しぶりに夕食を共にする。
富山湾の宝石と称される白海老の刺身やホタルイカの沖漬け、
高級魚ノドグロの姿焼き、ズワイガニなど馳走が並んでいる。

3人とも料理に夢中になっていたが、
暫くすると健太郎が聞きづらそうにしながら侑芽に問いかける。

健太郎)ところで…航くんと…仲良くしてるのか?

侑芽)え…仲良くって…

由紀)フフフ!お父さんね、気になってんのよ。イケメンだから侑芽が惚れてるんじゃないかって!

侑芽)え!?そ、それは…

健太郎)やっぱりそうか。そっか…そうだよな。まぁ侑芽が幸せなら、お父さんはいいんだけど…

侑芽)お父さん…。あのね、私達ね…

由紀)いいの!もう侑芽も立派な社会人なんだから、親がいちいち口出ししないわよ。そのかわり、全部自己責任だからね?

侑芽)うん。ありがと

由紀)そりゃさ、お父さん的にはね、ちょっと寂しいんだよね?侑芽が子供の頃「パパと結婚する〜」って言ってたのにって!

侑芽)アハハハ!そんなこと言ったっけ

健太郎)言ったよ!俺がパパとは無理だよって言ったら、「じゃあパパみたいな人と結婚する」とも言った!

侑芽)う〜ん、覚えてないよ(笑)でも…

由紀)でも?

侑芽)航さんの手、ゴツゴツしていて、分厚くて、豆だらけで…。初めて見た時に「あっ、お父さんと同じ手だ」って思ったんだ。お父さんと同じ、職人さんの手だった

健太郎)へぇ…そうか。俺の手は確かに豆だらけの不恰好な手だよな(笑)

侑芽)それがいいんだよ!私、お父さんの手、大好き

笑いながらそんな事を言う侑芽を見て、
健太郎は寂しそうに笑う。

由紀)そっか。でもさぁ、父親に似ている人を好きになっちゃうってこと、あるかもね

侑芽)そうなの?

由紀)うん、私もそうだった。健太郎さんはどことなく父に似てるなって思ったからね

健太郎)そうか〜?

由紀)うん!だから侑芽も健太郎さんに似てる人を好きになっちゃうのかもね〜

健太郎)え〜!?それは航くんに失礼だろ

侑芽)アハハ!そうかなぁ〜

楽しい時間が過ぎ、最後は由紀と温泉に入り、
翌日また会う約束をして旅館を出た。

外に出ると航が車で迎えに来ていた。
お風呂上がりの侑芽は、さっぱりとした顔で車に乗り込む

侑芽)疲れてるのに、お迎えまですみません!

航)大丈夫や。ほれよりご両親とゆっくり出来たんけ

侑芽)はい!ご馳走食べて温泉まで入らせてもらって

航)ほんなら良かった

車を走らせる航は
いつもより口数が少なく
侑芽の話を聞きながらもどこか上の空だ。

侑芽)そう言えば春ちゃん達は?

航)あぁ、さっき帰った。島田さん(春子)は高岡さんとこ泊まるんやて

侑芽)え!?高岡さんのとこ?うちに泊まるって言ってたのに…

航)気ぃ使てくれたんやない?

侑芽)ん?どういうことです?

航)侑芽が俺とおれるように…。そうしてくれたんやない?

侑芽)え…

航は侑芽のアパートではなく
自分の家に車を停めた。

航)うち、寄ってかれ

そう言って侑芽を車から降ろす
侑芽は戸惑いながら

侑芽)でも…もう遅いですし…

航)明日、休みやろ?

侑芽は祭りの為に休日出勤していたから翌日は代休であった。
航はその事を本人から聞かされていた。

航)朝、ご両親を一緒に迎えに行くさかい、今日は…うちに泊まればええて思うて…

侑芽)え?航さんちに泊まるんですか!?

航)嫌か?

侑芽)嫌じゃないですけど…

航は侑芽を部屋に上げて
玄関先で抱きしめてしまう。
そして侑芽の耳元で祈るようにこう言った。

航)このまま、一緒におってくれん?

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