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【小説】連綿と続けNo. 23

いよいよ本祭がスタートする。
その瞬間、一斉に男衆が立ちあがり、
先頭の神輿が担ぎ上げられた。

航と武史も気合いを入れ、
「行くぞー!せーのっ!」と神輿を担ぎ上げた。

皆が大声で「ヨイヤサー!ヨイヤサー!」と
掛け声をあげながら街へ繰り出してゆく。

見物にやって来た侑芽の両親も航の姿を見つけ

由紀)航く〜ん!カッコいいぞ〜!

健太郎)頑張れ〜!

そう叫んで手を振る。
航はそれに気づき、照れながら小さく頭を下げた。

神輿が動き出した頃、
春子が侑芽を見つけて駆け寄る。

春子)侑芽〜!来たよ〜!

侑芽)春ちゃん!早いねぇ

春子)うん!祭り見たかったし、何より侑芽に早く会いたくてさ!

そう言っていつものように侑芽の顔や頭を
両手でわしゃわしゃといじり倒す。

侑芽)もぅ!やめてよ〜!

春子は派手な花柄のワンピースを着て
化粧もバッチリである。

春子)それよりどうよ、あれから何かあった?

春子は何か見透かしたようにニタニタしている。

侑芽)それがね…実は私…航さんと…

侑芽が言いずらそうに話し出すと

春子)アハハハ!作戦成功!やっぱりな!私の読み通りだったわ!それでそれで?もう付き合った?

侑芽)作戦って……。その件についてはまた後で……。それと今日、街コン参加できなくなっちゃって、私の代わりにこちらの高岡さんが出てくれることになったから、春ちゃん一緒に行ってくれる?

侑芽に紹介された高岡は
容姿端麗で華やかな春子に気後れしてしまう。

高岡)よ、よろしく…

春子)よっしゃ高岡ちゃん!今日はとことん飲もう!

高岡)はい…まぁ…そうですね

その頃、由紀と健太郎が皆藤家に顔を出していた。
昨日のお礼にと手土産の一升瓶を抱えている。

由紀)こんにちは〜

歌子)あれ!昨日はどうも〜!ゆっくり出来ました?

由紀)はい、おかげさまで。最高に楽しませてもらってます!

健太郎)それより昨日のお礼がしたくて…

歌子)ええがに〜!かえってすんません!

すると正也も出てきて

正也)どうも〜!もう神輿は見ましたか?

健太郎)はい!先ほど拝見しました。航くん、やっぱカッコいいですね!

正也)な〜ん!なん!なん!あれちゃただのダラで(笑)

歌子)ほんで、今日はどちらに?

由紀)これから五箇山に行こうと思ってます

健太郎)祭りもいいのですが、せっかくここまで来たので世界遺産の合掌集落を見たくて

正也)そんながですけ!ええとこやさかい、ぜひ見に行かれま!

由紀と健太郎は五箇山へ出かけていった。

そして夕方、
神輿が一斉に八幡宮に戻り始めた頃、
いよいよクライマックスを迎える。

「ヨイヤサー!」の掛け声と共に、
神輿が担がれて参道の坂をのぼってゆく。

最後は境内を円を描くように三周回り、
拝殿の階段を上がって御霊が八幡宮に戻される。

侑芽はそれを見届けて、
疲れきった担ぎ手達に缶ビールやウーロン茶などを配っている。
すると酒が入った男衆からちょっかいを出される。

「あんた可愛いなぁ!」
「一緒に打ち上げ行かん?」

侑芽)アハハ、まだ仕事があるので

侑芽は笑顔でかわしているが航は気が気でない様子で、
ついには侑芽の腕を引っ張って離れた場所に連れ出した。

航)相手せんでええ!

侑芽)だって…これも仕事ですから

航)役割が終わって高揚してる男らが酒を飲んでるんや。何されるかわからんちゃ。俺から離れんな!

侑芽)はい…

侑芽は航に怒られてシュンとしている。
すると航は「言い過ぎてしもた」と反省し
小声で本音を漏らした。

航)可愛いさかい、心配ながちゃ

顔を逸らした航の耳が赤い。
そんな彼に侑芽は嬉しそうに耳打ちした。

侑芽)航さん、大好き

侑芽は仕事を終え航と皆藤家に戻り、
その足で両親が泊まっている
となみ荘に向かうことになった。

今夜は親子水入らずで夕食を共にする。
航は侑芽を送迎するために酒は飲んでいなかった。

だが武史は飲んだためついでに送ることにし、
ひとまず3人で皆藤家に戻った。

だがそこには街コンに行っているはずの高岡と春子がおり
正也と歌子と4人で宴会をしていた。

侑芽)え!?どうして?

春子)おかえり〜!あのねぇ、3軒くらいハシゴしたんだけど全っ然ダメ!いい男1人もいないんだもん!だから抜けてきちゃった〜

高岡)そうそう!それでさぁ、行くとこないねって話してたら、ここに行こうって春子が言うから一緒に来たの

侑芽)えぇ!?だからってここに来るって…

歌子)ええのええの〜!うちらも楽しんどるんやし〜!

正也)そいがそいが〜!街コンなんて珍しい話聞かせてもろて、めちゃくちゃおもろい!

4人はすっかり出来上がっている様子だ。
そんな中、航と侑芽と共にここへ来た武史が
「こんばんは〜!」と中に入ってくる。

そこで武史と目が合った春子が
彼を見るなり雷に打たれたような顔をし

春子)ど、どうも…

武史)どうも…

2人は互いを見て
時が止まったように立ち尽くしている。

皆藤家で初めて出会った春子と武史。

この瞬間、
なぜかこの2人にだけスポットライトがあてられたように輝いた。

航・侑芽)…?

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