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【小説】連綿と続け No.25

航)このまま、一緒におってくれん?

侑芽)一緒にいたいけど…

航)俺ちゃあかんが?

侑芽)そうじゃなくて。私、恋愛経験乏しくて…

侑芽が俯いきながらそう答えると
航はその体を引き寄せた。

航)俺はその方がええ

侑芽)そうじゃなくて。こういうのも初めてで…

航)え…?

侑芽は学生の頃、勉強に明け暮れていたから、
ほとんど恋愛をしてこなかった

合コンや紹介などで知り合った相手と何度かデートはしたものの、
どうも気が乗らずにそのまま別れてしまう。
という事を数回繰り返しただけだった。

ここまで誰かを好きになり、
本格的な付き合いとなるのはこれが初めてのことであった。
この歳になるまで異性と深い関係に発展するまでに至らなかった事で気が引けている。

侑芽)そ、そうですよね!引いちゃいますよね!ごめんなさい…

航の手を振り解き、帰ろうとしている。
すると航はもう一度自分の腕の中に彼女を戻してた。

航)俺はむしろ、その方がええ

侑芽)でも…

航)もうええさかい入って?

航に手を引かれ寝室に行き、ベッドに腰掛けて抱き合った。
航は侑芽の緊張をほぐそうと手のひらを握らせて
触れるだけのキスを繰り返している。

いつの間にか、押し倒されていた侑芽。
顔の両サイドで両手を絡ませている。

首筋や胸元に降りてきたキスが
時折くすぐったく感じ侑芽は体をよじらせた。

航)どっか痛い?

侑芽)いえ、ちょっとくすぐったくて…

航)もっとくすぐる

航は侑芽が着ているワンピースを脱がせようと
前ボタンを器用に片手ではずしてゆく。
すると普段は強調されていなかった胸元が露わになり、
夢中になって顔をうずめた。

優しく触れながらそこにもキスをし、
再び侑芽の唇に戻ってきたころで、
規則正しい寝息が聞こえてくる。

航)…侑芽?

呼びかけても応答がない。
そう、侑芽は早朝から働き倒していた

そして祭りが終わり緊張感からの開放と、両親との再会、更に大好きな航との甘いスキンシップで一気に安らいでしまい、要するに寝落ちしてしまった。
出鼻をくじかれた航は崩れ落ちた。

航)こんなん拷問やちゃ…

すでに準備万端であった自分のその気を
どこにぶつけたらいいのかわからず、
倒れこむように侑芽を抱きしめ項垂れている。
悪気なく眠っているその寝顔に

航)侑芽のアホ!

と文句を言いつつ、侑芽を抱き枕にして眠った。

翌朝、侑芽はスッキリと目が覚めた。
目覚めたと同時に違和感を覚える。

侑芽)あれ…?ここどこだっけ

昨夜の出来事を朧げにたどりながら、
ここが航の家であることを思いだす。
ふと横を見ると上半身裸のまま眠っている航が目に飛び込んだ。

侑芽)…!!

そうだ昨夜、航さんと…


寝起きのぼーっとした頭をフル回転させ、
自分が下着だけ身につけている事にほっとした。
だがすぐに「しまった…」と両手で口を押さえた。
すると眠っていた航が眩しそうに片目を開ける。

航)ん…今、何時?

寝起きの掠れ声でそう聞いてくるから、
侑芽は慌てて時計を確認した。

侑芽)今5時です!まだ休んでてください

そう言いながらそろりと片手を伸ばし、
ベッドの下に散乱している衣服を取ろうとした。
だが航によってそれは阻止された。

侑芽)わぁ!!

航)何しとるんや?

侑芽)あの…何か朝ごはんでも作ろっかなぁって

航)それよりも、俺に何か言うことないか?

航が不機嫌そうにそう言ってくる。

侑芽)あのぉ…私、昨夜…寝ちゃいました?

航)うん。すっごいいいところで

侑芽)ごめんなさい!あんまり気持ちよくってつい…

そう言ってバツが悪そうに笑った。
だが航は益々不機嫌になり、侑芽の上に覆い被さり

航)やったら続きしてもええ?

侑芽)でも…もう朝ですし…

そんな返事は待たずに
航はやや強引に侑芽を自分のものにしてしまう。

祭りが終わった翌朝の街は、
いつも以上に静まり返っていた。

屋外では春から夏へと季節が移り変わる事を教えるように
清涼感のある風が吹き下ろしていた。

これは日本海沿岸で春から夏にかけて吹く
『あいの風』である。

井波の街にもこの『あいの風』が吹き、
越中富山の険しい山岳地帯が朝焼けに染まった。

そんな朝に、2人は初めて1つになった。

航は無我夢中になりながらも時折り我にかえり、
初めてだという侑芽を気遣った。

航)痛くないけ?

耳元で囁く。侑芽が「大丈夫です」と返して背中に手を回す。
布団から出た2人の素足が絡み合って、時々その上下が入れ替わる。

窓が風でカタカタと音を立てているが、
そんな事は2人の耳には入らない。

そして太陽がのぼりだした頃、
重なりながら果てていた。

初めてが航で良かったと侑芽は思っている。
その大きくて無骨な手が、
事が終わった後も優しく髪を撫でてくれている。

その手に自分の手を重ねて頬まで持ってくると、
手のひらの豆が頬をくすぐる。
その感触が妙に落ち着いてしまいウトウトしかけていると、
航が優しく囁いてくる。

航)この手を、ずっと離さんでくれ

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