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【小説】連綿と続け No.22

航)侑芽の事、女として好きや

航の顔が侑芽の顔に近づいてゆく。
すると侑芽は胸が高鳴り
抑えていた航への思いが溢れ出した。

侑芽)私も、航さんが…好きです

航)それは、お兄ちゃんとして?それとも男として?

侑芽)お兄ちゃんじゃなくて…男の人として…好き…

「好きです」と言い終わる前に
2人の唇が重なった。

時が止まったように静まりかえる部屋で
2人は初めて口づけを交わす。

最初は触れるだけの長いものだった。

いったん唇を離してから、その後はついばむように繰り返し、
ゆっくりと互いの背中に両手が回る。

口付けの音が互いの耳をくすぐり、
それがさらに拍車をかける。

やっと離れると息をきらして抱きしめ合う。
すると侑芽がクスクス笑い出した。

航)な、なんや?

侑芽)すいません(笑)ラムネの味がするから

航)ラムネ?

侑芽)航さん…ラムネの味がしました。なんか可愛い

航)可愛いて…。そらそうやろ。さっきまで飲んでたんやし。それ言うたら侑芽も同じちゃ

侑芽)アハハ!そうですよね

初めてのキスはラムネの味だった。
それから求め合うように何度も触れ合って、
いつの間にか口の中で絡み合う。

宵祭の余韻で賑やかな声が外から聞こえてくる。
だがこの部屋だけは別世界のように静かな時が流れた。
だが侑芽が体を離し寂しそうに呟く。

侑芽)そろそろ帰らなきゃ…

航は離れた侑芽を再び抱き寄せて

航)まだええが。もうちょっこし…

そう言って侑芽を離さない。

侑芽)まだ一緒にいたいけど…明日も早いので…

航)泊まってく?

侑芽)だ、駄目です!帰ります!

航)なんで?朝送ってくさかい

侑芽)駄目です!!

結局、航が断念して侑芽を送り届ける。
侑芽が車を降りようとした時、
航が再び侑芽を抱きしめた。

航)もう俺達は恋人や。絶対に離さん

侑芽)はい…

最後にもう一度口付けて、侑芽は車を降りた。
そして航の車が見えなくなるまで見送る。

チカチカとハザードランプが光ると
それに向かって大きく手を振った。

まだ出会ってからそう時間はたっていないのに、
とてつもなく大事な人になっている。

まだ互いを知ったばかりだ。
もっと知りたい。もっと一緒にいたい。
そんな事を思いながら、それぞれ眠りについた。

翌日、侑芽は早朝から井波に向かった。
今日はいよいよ「井波よいやさ祭り」本祭だ。

朝から神輿みこしが町内を巡行する。
およそ10キロもの道のりを、
かつぎ手達が神輿を担いで回る。

侑芽は昨日の事があったから、
どことなく陶酔感とうすいかんに浸っているが、
今日は祭り本番だがらと両頬を叩き気合いを入れる。

街中が祭りの空気に切り替わり、
担ぎ手の男衆が八日町通りに集まり出している。

どこからともなくお囃子はやしが響き渡り、
それを見ようと観光客や地元の人々が集まってくる。

朝9時、祭りがスタートする。男衆が担ぐ神輿の他に、
子供神輿こどもみこしや女性達が担ぐ華神輿はなみこしもある。

「ヨイヤサー!ヨイヤサー!」という掛け声とともに、
獅子舞や屋台、神輿が動き始めた。

子供の頃から参加してきた航も、
今日は武史や大先輩達と神輿を担ぐ。

その出立いでたちは、黒のタンクトップに紋付もんつきの黒い法被はっぴを羽織る。それに黒地下足袋くろじかたびを履き、担ぎ手の男衆らに加わり、自分達が担ぐ神輿のそばで待機している。

この時、航はあたりを見渡して侑芽を見つけた。
だが侑芽はその視線に気づかず、
祭りのスタートに向けて動き回っている。

そんな彼女を目で追っていると
武史が頭部をバシッと叩いてきた。

航)痛っ!何するんや!

武史)お前、何かあったんけ?さっきから顔がゆるみっぱなしやぞ!気合い入れんかい!

航)はぁ?何言うとるが!アホ!

そんな話をしていると侑芽が駆け寄ってくる。

侑芽)おはようございます!お2人ともカッコいい〜!

そう言って微笑んでいる。
航は照れ臭そうにそっぽを向き

航)あんま見るなちゃ!

と、ぶっきらぼうに返す。
だが侑芽はそんなことはお構いなしで
航の寝癖を手で直してやり

侑芽)頑張ってくださいね!

と言い持ち場に戻って行った。
航はニヤケ顔を誤魔化すように口を尖らせ
離れていく侑芽にボヤく。

航)頑張れて言われても…

その一部始終を見ていた武史は、
ニヤニヤしながら航をからかう。

武史)お前、ちょっこし前に言うてたよな。「恋愛とかわずらわしいことはごめんや!」て。それなのに何やその顔!デレッデレやぞ!正直に言うてみい。いつあの子とそうなったが?

航)やかましい!俺は別に…そんなつもりやない!けど…あの子が危なっかしいさかい、一緒におってやっとるだけちゃ!

武史)ほぉ〜。そう言えば今、うちに侑芽ちゃんの親御さんが来とるんやけど、それそのまま伝えとくわ!

航)やめろ!!なんゆうとんが!そんなことうたら俺は仕舞いや!変なこと言うなよ?言うたら絶交やぞ!!

武史)絶交って(笑)お前はガキけ!それにしても航がなぁ。しかもあんなに邪険にしてた子となぁ。これは大ニュースやちゃ!

航)おい!まだ誰にも言うなよ?まだ付き合うたばかりやさかい。そっとしとかれ!

武史)わかっとるて!けど、田舎で秘密ちゃ無理やぞ?狭い街やさかい、すぐに広まってまうと思うけどな〜

2人がそんな話をしていると
掛け声と共に一斉に男衆が立ちあがり、
先頭の神輿が担ぎ上げられた。

航と武史も「行くぞー!」という掛け声とともに神輿を担いだ。

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