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【小説】連綿と続け No.27

航)せっかくやし…このままデートせん?

侑芽)デートですか!?嬉しい〜!

侑芽は思いがけない誘いに心が躍る。
二人にとって初めてのデートだ。

空港を出発し、
富山市内を見渡す小高い丘の上に到着した。
そこは立山連峰も一望できる眺めの良い公園だ。

航)ここは呉羽山くれはやまやちゃ。

侑芽)ここが呉羽山かぁ!聞いたことはあります!

航)立山見るがはここが1番ええ思う。今日は天気が最高やさかい、よう見える

侑芽)ほんとに凄い景色。来れて良かった〜

呉羽山は富山市街の西側にある標高80m程の山である。「立山あおぐ特等席」と言われ、この日は澄んだ青空にまだ雪を残した立山連峰が連なっていた。

航)ここを境に富山は二分されとる。東側が呉東ごとう、西側が呉西ごせい言うがよ

侑芽)じゃあ、井波は呉西?

航)そいが

呉東とは、呉羽山より東側の富山市や立山・魚津・黒部などの県東部地域のことで、
呉西とは、高岡や射水、砺波や南砺市といった県西部地域をさしている。同じ県内でも文化圏がここで分かれている。

航)侑芽は蜃気楼しんきろう、見たことある?

侑芽)聞いたことはありますが見たことはないです。どんなのですか?

航)魚津あたりで見えるが。実際の景色とは違う、遠くの街や建物が映し出される現象なが

侑芽)へぇ。それ凄いですよ

蜃気楼は冷たい空気と暖かい空気の間を光が通ると屈折し、その光の屈折により、遠くの景色が伸びたり逆さになったりして実際とは異なって見える現象だ。

航)俺も一回くらいしか見たことないがやけど、今度、試しに見に行く?

侑芽)はい!喜んで!

航)見えるかわからんけどな

侑芽)見えなくてもいいですよ

航)うん。そうやな

航が「やわやわ行くけ(そろそろ行こうか)」
と言い、さりげなく手を出すと
2人の手が繋がった。

侑芽は航といる事で、いつの間にか両親と離れた寂しさを忘れていた。他愛もない話をいつまでも続けながら井波まで戻った。

そして皆藤家に寄ると、
歌子と正也が2人を見てニヤニヤしている。

航)は?…何?

歌子)いや…なんでもないけどぉ。なんやこう、改めて見るとカップルみたいやなぁて

そう言って
両手で大きくハートを作りながら2人に近づいてくる。

歌子)あれ〜?な〜んか2人、いい感じ〜?

航)は?…何が言いたいんや


歌子も正也も2人が『そうなった』事を
まだ知らない。

むしろ侑芽の『お兄ちゃん発言』から諦めていたところだったから、2人の雰囲気がどことなく変わった事を瞬時に感じとり勝手に喜んでいる。

正也)ほんで、ご両親は無事に帰られたがけ?

侑芽)はい。おかげさまで。色々お世話になりました。すごく喜んでました

歌子)ほれは良かった〜!けど、うちの航の事は何か言うとらんかった?ほら航、愛想もないし、気ぃもきかんさかい、印象あかんかったがやないかな〜なんて

正也)俺も気になる〜!なんか言うとった?

航には何を聞いてもボロが出ない事をわかっている2人は、侑芽に色々聞き込む作戦に出た。

航)やめてくれま!そら上手いこと話せんかったけど、一緒にラーメン食うてきたがやぞ!

歌子)何を言うとんが!そんながは空港まで送ってもろて悪いことしたて、あちらさんの気遣いやちゃ。そういうんやのうて、うちが聞きたいがは…

侑芽)えっと…大丈夫です!最後に言ってました。「航くんがいるなら安心だ」って!

なんの迷いもなくそう答える侑芽。
歌子と正也はそれを聞き、盛大にニヤけている。

歌子)ほんまに?ほんなら良かったわぁ!そっかー。航が居《お》れば安心言うたがけ〜

正也)航!お前、もう勝ったも同然やな!

航)やかましい!ほれに勝ったも何も…

歌子)ほんなら侑芽ちゃん。安心ついでに私からのお願い1つ聞いてくれん?

侑芽に何かを頼もうとしている歌子。
航は顔をしかめながら臨戦態勢に入った。

侑芽)なんですか?私にできる事なら何でも言ってください!

歌子)今日ね、城端で曳山ひきやまあるやろ?それ航と行ってもらえんかなぁ?

歌子は悩める乙女の表情と仕草をし、侑芽に頼み込んだ。

城端の曳山とは、城端地区で行われる曳山祭ひきやままつりの事である。2日間かけて行われる雅な祭りはこの日、夕刻から宵祭が始まる。

航)はぁ?母さん、ええ加減にしろちゃ!

侑芽)あっ!そうだ…城端の曳山でしたね!私、自分の担当が終わったらほっとしちゃって、すっかり忘れていました!

正也)そら仕方ないちゃ。侑芽ちゃんは昨日まで仕事やったさかい、あんまり楽しめんかったんやろう。やさかい今日は楽しんで来たらええ

侑芽)確かに…。航さん、どうしますか?

航は両親の策略にのることに抵抗はあったが、侑芽と祭りを見に行きたい気持ちが勝ってしまう。

航)侑芽が行きたいんやったら…行ってもええけど…

そう言うと
歌子と正也は喜びながら両手をパン!と合わせた。

歌子・正也)ほんなら行ってらっしゃ〜い!

航はお祭り騒ぎで見送る両親を睨みつけ
盛大にため息を吐いた。

航)アホや…

こうして2人は
城端曳山祭りを見に行くことになった。

まさかこの祭りを機に2人に試練が訪れようとは、
この時は誰も思いもしなかった。

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