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【小説】連綿と続け No.21

『仕事終わったら、ちょっこし会わん?』

航が侑芽にLINEを送ると
すぐに返信がくる。

『はい!喜んで!』

航はそれを見て
1人ニヤけた顔を手で抑えた。

その頃、宿に着いた侑芽の両親は
ひと息つきながら話をしていた。

由紀)なんだか心配してたのがバカバカしくなっちゃったわね?

健太郎)そうだな。侑芽も少しずつ、この街で根を張ろうとしているんだな

由紀)あれ〜?なんか寂しそうだね?

健太郎)うん。もしかして「帰りたい」って泣きついてくるかもしれないって思ってたから…思いのほか楽しそうにやってて、ほっとした気持ちもあるけど、どんどん俺達から離れていってしまうのかなって、ちょっとね……

由紀)アハハハ!そりゃあねぇ、あの子だってもう22なんだし、仕事をしたり、恋もしたりして段々親離れしていくわよ。それが普通でしょ?

笑いながら由紀がそう言うと、
健太郎は急に深刻な顔をして

健太郎)さっきさぁ、侑芽が航くんを見た時の顔、どう思った?

由紀)う〜ん…そうだなぁ。あれはたぶん、恋かなぁ。まぁ私としては、侑芽にもそういう人が出来て良かったなぁって思ってるわよ?健太郎さんは?やっぱり複雑?

健太郎)俺だって侑芽の幸せを願ってるし、応援したいと思ってるけど…

由紀)けど?応援したくないとも思っちゃった?

健太郎)そうじゃないって。でも正直…コイツに取られるのか〜って思っちゃったんだよなぁ。航くん、真面目で誠実そうだけどさ。昔「パパと結婚する!」って言ってた侑芽が彼にだけあんな顔を見せて、それの当たりにしたらさ、複雑な気分なんだよ

由紀)アハハ!あなたもそんな風に思うのね!

健太郎)笑うなよ!

なんだかんだ夫婦水入らずで旅を楽しんでいる。
2人が泊まっている旅館は武史の実家である「となみ荘」だ。

庄川沿いの風光明媚な場所に立つその旅館で、
温泉や料理を楽しみながら侑芽が幼かった頃の話などをしていた。
2人は翌日、ここにもう一泊することになっている。

一方、侑芽は宵祭よいまつりを一通り見届けてから
航にLINEを送る。

『遅くなってごめんなさい!今から会えますか?』

航はすぐに返信をする

うちられま』

航が言う「うち」とは、
皆藤家ではなく一人暮らしをしている自宅のことだ。

侑芽)遅くなってすみません!

航はやって来た侑芽を
家の中に入れた。

ソファーに座った侑芽は、
初めて参加した宵祭の感想をつらつらと楽しそうに話している。

侑芽)神輿が動き出した時、感動しちゃってもう泣きそうになっちゃいましたよ。あと、獅子舞とか、近所の子供達よりはしゃいじゃって、周りの人に笑われちゃいました

航は隣に座り
優しい声で「うん」とか「へぇ」などと相槌をうっている。

侑芽は身振り手振りを使って興奮しながら説明している。
そのあどけなさが、
恋愛から離れていた航の心をくすぐる。

話を聞きながら、少しずつ距離をつめていく航。
侑芽はそれに気づかず話し続けている。
航が思い切って腰に手を回そうとしたその時

侑芽)あっ、そうだ!

航)な…何?

侑芽)さっき太郎さんがコレくださったんです!航さんも飲みませんか?

そう言ってビンのラムネを鞄から取り出し
航に見せている。
それは祭りで売っていたもので
太郎が差し入れしてくれたらしい。
だから1本しかない。

航はそれを開けてやろうとするが、
失敗して泡がシューッと吹きこぼれる。

侑芽)わぁ!大変!!

航の膝に溢れたラムネを
侑芽が慌ててタオルで拭く。

侑芽)航さん、ラムネの開け方、下手へた

侑芽がケラケラ笑うその横で、航は

侑芽への下心したごころたたったんやな…

と真面目に反省している。
そして侑芽がラムネを一口飲み

侑芽)ん〜っ!美味し〜!!航さんもどうぞ!

と、口をつけた瓶をなんの躊躇ちゅうちょもなく渡す。
航はそんな侑芽に驚きつつも、
年上の男として間接キスに動揺している事を悟られぬよう
平静を装って受け取った。

航)おぉ…ありがと

航がラムネに口をつけると
侑芽は一点の曇りもない表情で

侑芽)なんか懐かしくないですか?

航)うん、そうやな。久しぶりに飲むと美味いちゃ

静かに間接的なファーストキスが終わる。
興奮気味だった侑芽も
ようやく落ち着きだした。

侑芽)そういえば明日の街コン、高岡さんが行ってくれることになりました

航)そうけ。ほんならよかった

すると侑芽は
急に顔を曇らせる。

航)どうしたが?

侑芽)明日、春ちゃん来るから…ちゃんと言わなきゃと思って…

航)あぁ。別に、仕事で行けんくなったて言えばええだけやろ

侑芽)そうじゃなくて。航さんのこと…言わなきゃ

そう言って俯く侑芽。
航は春子の一連の行動が作戦という事をすでに知っていたから、
落ち込む侑芽の頬を両手で包み込み微笑んでみせる。

航)大丈夫ちゃ。あれはあの人が考えた作戦やちゃ

侑芽)作戦?

航)うん。侑芽のこと、試したんやろ

侑芽)え?どうして…

航)侑芽のせいちゃ

侑芽)私のせい?

航は頬に触れたまま顔を近づける。

航)侑芽が、俺のことをお兄ちゃんやて言うたさかい

侑芽)それが…どうして…

航)けど俺は、侑芽のお兄ちゃんなんかやない

侑芽)……

航)侑芽のこと、女として好きや

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