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月と私とゆれるカーテン

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月が満ち欠けするように、ゆらいで詩と自然と生きる日々を綴ります。
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2021年4月の記事一覧

大橋崇行『遥かに届くきみの聲』を読んで

大橋崇行『遥かに届くきみの聲』を読んで

朗読って、声にすべてが出るから。青春の時は楽しい幸福な気持ちとよどんだ気持ちがないまぜになって、ぐちゃぐちゃになって。それでも若い人がする朗読にはすがすがしい心地よさがあります。

透は高島みのるという名前で子役タレントをしており、朗読のステージの賞を総なめにするのですが、ある事件がきっかけで失声症になってしまいます。中学生になっていじめを受け、高校生から一人暮らし。従妹の梨花と同じ高校に入学する

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吉田篤弘『ソラシド』を読んで

吉田篤弘『ソラシド』を読んで

コーヒーとレコードとノート。ううん、たまらなくいい組み合わせですね。

おれがノートに記録していたコーヒーの記憶・レコードの記憶・本の記憶から呼び起こされるバンド「ソラシド」。もう一回過去をたどろうとするおれは、ソラシドを追いながら音楽の楽しさにもう一度目覚めていく。

コーヒーの記憶をノートに記してある設定から素晴らしいのですが、音楽と嗅覚は密接に記憶に残るなあと個人的にも思います。

私もコー

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西條奈加『睦月童』を読んで

西條奈加『睦月童』を読んで

舞台は昔の日本。

一か月帰ってこなかった店の主が連れてきたのは、イオさまと名乗る不思議な田舎者の少女。彼女の目に射すくめられると、ある者は吐き気や悪寒を催し、自分の罪を告白する。そう、イオは神通力の持ち主だったのだ。そんなイオと一緒に暮らしていく中で、イオも成長していく。

はじめはイオが怖い印象がありましたが、いくら神の子であるとはいえまだ子ども。

遊びたくてたまらない様子や、外に出て他の子

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窪美澄『すみなれたからだで』を読んで

窪美澄『すみなれたからだで』を読んで

この短編集は、「家族とからだ」がテーマになっているような気がします。

夫婦、父親や母親、そして「わたし」のからだ。「娘」のからだ。

一番自分自身のからだを知っているのは自分だ

とよく聞きますが、

一番自分自身のからだがわからないのも自分

のような気がしています。

そこを乗り越えてなお、「むしょうに優しくなれる」んじゃないかな。からだは歳月と共に変化していくし、それを受け入れてあげる心。

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寺地はるな『水を縫う』を読んで

寺地はるな『水を縫う』を読んで

普通っていったい何!?

と時々怒りたくなることって、ありませんか?

私は結構あって、「普通の人になりなさい」なんていうドラマのセリフを思い返したりするごとに、ちょっとだけ負の感情を抱いたりします。

この物語では、そんな「普通」の定義と「普通」ではない家族のあたたかな物語。

刺繡が大好きな男の子の清澄、可愛いものが苦手な姉の水青、愛情豊かな母親に憧れつつなれなかったさつ子、まっとうな父親とし

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野村喜和夫『花冠日乗』を読んで

野村喜和夫『花冠日乗』を読んで

詩集の感想をアップするのは久しぶりですね。

ただ、これはどうしても読みたかったし、野村さんとも面識があるので、少し語らせてください。

この詩集はコロナ禍で書かれたもので、何度も「青いネモフィラ」「コロナによる軟禁」が反復されています。

確かに、春、緊急事態宣言が出て一番緊張していた時期、咲き誇っていたのはネモフィラでした。

詩人として仕事をするために、詩人は東京中を散歩します。

以前私も

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詩の季節、月評期間になりました!

詩の季節、月評期間になりました!

私の詩集が出てから、一か月になりました。ここのところ、生活スタイルが詩の方に寄ってきたので、そのこととご報告も兼ねて書いてみます。

詩集を出してからまず、出した! という喜びももちろん大きかったのですが、ツイッターをなるべくチェックするようになりました。先輩詩人のことば・感想ツイートなど、大変勉強になり、私もこの詩壇の中にいるのだと再認識できました。今はイラストの仕事と、第2詩集に向けて執筆をし

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永井梓『四〇〇文字の小宇宙』を読んで

永井梓『四〇〇文字の小宇宙』を読んで

読売新聞の夕刊に書かれたコラム集です。

実家にいた頃は父が新聞をスクラップするのが趣味で、そんな父に影響を受けて育ったので、私がニュースで何か気に喰わないことがあるとコラムばかり読んでいた時期がありました。

同じようなことを思っている人もたくさんいるんだな

とか

こんな考え方もあるんだ!

と思ったり。

今はデジタル新聞しか読まないし、あまりにニュースがつらすぎるので、近頃はあまり見なく

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岩城けい『さようなら、オレンジ』を読んで

岩城けい『さようなら、オレンジ』を読んで

以前、ドラマを見ていて面白いなと思ったのが「夢の島」というチャプタータイトルのついた社会派刑事ドラマでした。

ジャパニーズ・ドリームを夢見て留学してくる貧民層の外国人。

しかし、過酷な労働と安い賃金で彼らは搾取されていきます。

それをちょっと思い出したのがこの小説。

若いサリマが生鮮食品コーナーで肉を切るシーンは、リラックスしたいときには向かないかも。

何度か胸に熱いものがこみあげてくる

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いしいしんじ『トリツカレ男』を読んで

いしいしんじ『トリツカレ男』を読んで

いやあ、信じることって、そして夢中になることって、バカみたいだけど、おめでたいけど、素敵な幸福なことなんだなあ。

ジュゼッペは街の変わり者。なんでも「とりつかれたように」ハマってしまって、そこから抜け出せなくなる。探偵ごっこ、オペラ、サングラス……そんなわけで、彼についたあだ名は「トリツカレ男」。そんな彼の前に現れた無口な少女ペチカ。彼女と、少しずつジュゼッペは心を通わせていきます。

私、3・

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千早茜『人形たちの白昼夢』を読んで

千早茜『人形たちの白昼夢』を読んで

みなさん、お昼寝って、好きですか?

私はロングスリーパーかつ、昼休憩に20分くらいは寝ている人間なので、結構好きです。

職場から・仕事から少しだけ解放されて眠る、あの感じ。

ランチを食べた後のデスクでほっと息をつく、あの感じ。

大好きです。

ただ、そんな時に観る夢に限って、自分の未来を暗示しているような不可思議な夢を見たりするんですよね。

これは短編集で、最初の一章で人形師の人形たちが

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天童荒太『巡礼の家』を読んで

天童荒太『巡礼の家』を読んで

一読するとサスペンスなのですが、ちょっと現代ファンタジーに近い所もあります。

今、読者の皆さんにはこの本に出てくる「さぎのや」のような居酒屋のような場所が必要なのかもしれません。

今までがんばってきたこと、つらがってきたことをそっとぬぐい、包み込み、癒してくれるおかみ。

そんな女将のようでありたいと私も思います。

実は初代「さぎのや」の女将は神の使いだったというプロローグから始まるのですが

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凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』を読んで

凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』を読んで

どうしてだろう、本当に世界の終わりを描いているのに、

どうしてこんなに心が温まるんだろう。

舞台は現代の日本。スクールカースト最下位の江那友樹は、片思いする女子高生がいるが、自分はぽっちゃりで家でもクラスでも「ぱしり」。しかし、地球に隕石が落ちると政府が発表し、世界はどんどん混沌になっていく。そんな中、片思いの相手の女子高生と共に逃げると決意した友樹。そんな彼の母親、母と別れた父親、女子高生が

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冲方丁『にすいです』を読んで

冲方丁『にすいです』を読んで

すごいゲスト陣だ……と帯から驚きました。

冲方さんと対談するのは、漫画家・アニメ監督・作家・学者と多岐にわたります。

そんな「すごもの」達と対談する冲方さんも「すごもの」だと思うんですが、イケメンかつ売れっ子作家・そして日記的な思い入れのあるペンネームの持ち主である冲方さんの、ある意味で素直すぎる対談が面白いです。

多分、優しい方なんだろうな。

そして、若くて才能もあるということで、何かと

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