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お金2.0~新しい経済のルールと生き方~

著者/佐藤航陽(さとう かつあき)
1986年生まれ。早稲田大学在学中の2007年に株式会社メタップスを設立し、代表取締役に就任。2011年にアプリ収益化プラットフォーム「Metaps」を開始、世界8拠点に事業を拡大。2015年に東証マザーズに上場。「テクノロジーでお金のあり方を変える」というミッションの下、FinTech戦略を重点投資領域として掲げ、「決済・通貨・融資・投資・保険・管理」の6分野での積極的な事業を展開。フォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、30歳未満のアジアを代表する30人「Under 30 Asia」などに選出。「お金2.0 新しい経済のルールと生き方」はビジネス書大賞審査員特別賞(2018)を受賞。

【はじめに】

今まさに「経済」のあり方が変わろうとしています。

2017年、仮装通貨ベースの資金調達手段ICOが盛り上がり、お金や経済のあり方が大きく変わっていくことが誰の目にも明らかになりました。

本書では、現在の経済やお金の起源、そのメカニズムを紹介して、それがテクノロジーによってどのように変化していっているかを扱い、最後に資本主義の欠点を補った考え方として、価値を軸として回る社会「価値主義」という枠組みを提案しています。

私はお金がない家に生まれ育ちました。お金がないゆえに周りの子と同じことができませをやでした。
「人生は平等じゃないんだな」と感じながら、
「生まれた瞬間から失敗が約束されている人生なんてあってたまるかよ」という怒りを感じ、
「人間はどんな境遇であっても何者にでもなれる」ということを証明したいと思うようになりました。それが生きる原動力になりました。
そしてそう思うようになった「お金」とは何のなのか?資本主義とは何なのか?そこに疑問を抱くようになりました。

「今の社会の仕組みが本当にベストなのか?もっと良い仕組みは作れないのか?」ということを、気がつくと考えるようになっていました。

確かによくできた仕組みであるけれど、生まれた瞬間からスタートラインが違うような世界がベストであるわけない、もっと良い仕組みがあるはず。ないならもっと良いのを自分で作ろう、といつしか考えるようになっていました。

弁護士を目指し大学に入学したが、なるには時間もお金もかかることが分かりました。
「まてよ、お金があるかどうかで人生が決まってしまうことに疑問を感じていたのに、お金がないとなれない職業を目指すのはそもそも矛盾していないか?そういう社会システムにムカついていたんだから、その仕組みを作り変えるような仕事をしよう」

力をつけて、幼少期からずっと自分の人生に影響を与え続けてきた「お金」の正体を掴み、今よりも良い社会の仕組みを自分の手で実現しようと考えました。

そして、大学を辞め、自分で起業することにしたのです。

お金や経済を理解しようとしたら金融の中心である株式市場は避けて通れません。
なぜ今のような資本市場の仕組みができたかと言うと、金融の歴史や人々の欲望を最適化していった結果だったのです。

多くの人の人生の悩みの種類は3つに分かれます。
①人間関係②健康③お金
私はお金によって人生の道が狭められてしまったり、日常がうまく回らなかったという経験をする人を、一人でも少なくしたい
昔の自分のような思いをする人をできるだけ減らしたい、そして、昔の自分に教えておきたい、知っておいて欲しいことをできるだけ包み隠さず書いています。

お金や経済のメカニズムを万人が理解して使いこなせるようになった時、人間がお金に対して抱く不安・恐怖・焦り等の様々な感情から解放される時が来るかもしれません。
何よりも、多くの人がお金というフィルターを外して人生を見つめ直すことで、「自分はなぜ生まれてきて、本当は何がしたいのか?」という本質的なテーマに向き合う契機になると思います。

かつて、電気の発明が人間の生活を一歩前へ進め、医学の進歩が疫病から多くの人を救い、身分からの解放が個人の一生に多くの可能性をもたらしました。

同様に「お金」や「経済」もまだまだ進化の途中であり、人間は今とはもっと違う存在を目指せると、私は信じています。
少なくとも、朝から晩までお金のことを考え、お金がないことに怯え、翻弄される人が多くいる時代は、私たちの世代で終わりにしていいはずだとも思います。
本書を通して、お金や経済を「ツール」として使いこなして自分のやりたいことを実現できる人が増えることを願っています。

■第1章 お金の正体
【3つのベクトルが未来の方向性を決める】
世の中の現実はおおよそ3つの異なるベクトルが併用し相互に影響を及ぼしていて、それが未来の方向性も決めています。
①お金(経済)
私たちは生活をするためにお金を稼ぎますし、人生の半分はそのために仕事をしています。お金は生きることと直結していますから影響力は絶大です。

②感情(人間)
次に影響力の強いのが感情(共感・嫉妬・憎悪・愛情など)です。人間は誰かを羨んだり嫉妬したりする反面、他人に共感したり自分を犠牲にしても何かに献身したりする生き物だと思います。社会から共感を得られないような事業は協力してくれる人もいなくなり、最終的には自壊してしまいます。
お金の影響力は確かに強いですが、人の感情を無視しては持続することはできないのがポイントです。

③テクノロジー
テクノロジーは大きな変化のキッカケをいつでも作ってきました。テクノロジーは日々目まぐるしく変わっていく問題児です。かつ、テクノロジーには一定の流れがあり1つの発明が次の発明を連鎖的に引き起こしていきます。

異なるメカニズムで動く①②③の3要素が、それぞれ違うベクトルを指して進んでいます。それらの先端を結んだ三角形の中間が「現在」であり、その軌道が「未来」の方向性だと感じました。
引っ張る力は①お金が一番強く、次に②感情、最後が③テクノロジーです。ただ3つのベクトルが揃ってないと現実ではうまく機能しないというのが特徴です。
世の中は連立方程式のようだ、と言う人がいましたが、まさしく、1つの数字をイジると全体が影響を受けますし、複数の式が連動して1つの答えが導かれていきます。

【急激に変わるお金と経済のあり方】
「FIntech(フィンテック)」
…ITなどの新たなテクノロジーの進化によって金融の世界が破壊的に変化するトレンドを指します。それに付随して、ロボアドバイザー、ビットコイン、ブロックチェーン、クラウドファンディングなどの様々なバズワードが溢れています。

「Fintech1.0」
…すでに存在している金融の概念は崩さずに、ITを使ってその業務を限界まで効率化するようなタイプのもの。決済、投資、融資、保険、会計など、近代にできた枠組みは触らず、スマートフォンやビッグデータなどを用いて既存の業務の無駄を省いたり、新しいマーケティング手法を活用したりするものが中心です。

「Fintech2.0」
…1.0とは全く異なり、近代に作られた金融の枠組み自体を無視して、全くゼロベースから再構築するタイプのものです。
その典型がビットコイン、仮装通貨です。2.0はあまりにも既存社会の常識とは違うので、不安の対象にもなりやすい特徴もあります。そして、それこそが全く新しいパラダイムであることの証でもあります。

【お金とは何か?】
お金ができた理由は「価値」という漠然としたものをうまくやりとりするためであり、お金には価値の保存・尺度・交換の役割があると言われています。
そんな長い歴史を持つ「お金」も、かつては今ほどプレゼンスが強くなかったようです。時代によって人間が大事だと思う対象が神様(宗教)だったり、王様(身分)だったりしたためです。

市民革命が起きた頃から「身分」から「お金」へパワーシフトが起き、「お金」が社会の表舞台に主役として登場します(資本主義の発達)。この時期から人と「お金」の関わり方は劇的に変わっていったのが感じとれます。
価値を効率的にやりとりするための手段として生まれた「お金」は、やがてそれ自体を増やすことが目的に変わっていきます(手段の目的化)。
資本主義社会ではお金がないと何もできません。日々食べるものを家賃も払えません。お金を稼ぐことが生活することと直結していて、それを増やすことに大きな報酬が用意されているので、全員がお金を増やすことのみに焦点を絞るようになります。

現在お金が作られているのは、国家が管理する「中央銀行」です。日本だと日本銀行になります。実は、昔からそうだったわけではありません。国家が管理する中央銀行がお金を刷って、国の経済をコントロールするようになったのはつい最近のことです(世界で本格的に普及して100年程です)。

つまり、中央銀行が通貨を発行し、国が経済をコントロールするのが標準になってまだ100年程度と考えると、最近出てきた仮装通貨やブロックチェーンなどの新しい仕組みが100年後に標準になっていたとしても、それほどおかしな話ではないかもしれません。

「仮装通貨」と「法定通貨」は全く違う仕組みで動いています。法定通貨 の定義や類推をもとに語る意味はありません。それは球技でルールの異なる野球とサッカーを比べるような話で、サッカーはルールが違うから野球ではないということと同じくらい無意味です。
「仮装通貨」と「法定通貨」は似ているようで全く違う仕組みなのです。言うなれば鏡の世界。一見、似ているように見えてますが、逆のルールが適用されていて、同じ枠組みに当てはまることができません(こっち側とあっち側)。
新しいものが出てきた時に、それに似た業界の前提知識があると、その知識に当てはめて新しいものを見てしまう傾向があります。
しかし、それは危険です。
「仮装通貨」や「ブロックチェーン」という新たな技術も、全く新しいルールで回っている新しい仕組みとして捉えてみるのが良いのではないかと思います。

【経済とは「欲望のネットワーク」】
経済はネットワークそのものです。個人同士が繋がって1つの巨大なネットワークを作り、その上でお金が人から人へ移動しています。このネットワークの構成分子である人間を動かしているのは、各々の欲望・欲求であり、経済は個人の欲望・欲求を起点に動く報酬(インセンティブ)のネットワークです。

時代によって人間の欲望に移り変わっているようですが、自分なりに現代社会の欲望を大別してみると、
本能的欲求(衣食住の欲求、異性の興味を引きたいという欲求、家族への愛情など生物が持つ根源的な欲求)
金銭的欲求(稼ぎたいという欲求)
承認欲求(社会で存在を認められたい欲求)の3つに分けられます。

経済は人と人の繋がりが切れたり、新しく繋がったりと、ネットワーク全体が常に組み換えを繰り返していて流動的です。そして、このような動的なネットワークには共通する特徴が2つあります。

①極端な偏り
私たちは何かを選ぶ時に多くの人に支持されているものを選ぶ傾向があります。仕入れ先も、皆に売れるものを中心に棚の目立つところに並べ、それによってさらに商品が売れていくというサイクルを繰り返します。人気者がさらに人気者になっていく構造です。
結果的に上位と下位には途方もない偏り(格差)が発生します(パレードの法則)。
世界経済で言うと、上位1%の富裕層が世界全体の富の48%を所有しており、「上位80人」と「下位35億人」の所得がほぼ同じだとされています。

②不安定と不確実性
全体があまりにも緊密に繋がり相互に作用しあう状態になると、先ほどの偏る性質も相まって、些細な事象が全体に及ぼす影響を予測するのが難しくなり、不安定な状態に陥ります。些細な出来事がネットワーク全体に影響を与えて、常に全体が不安定で不確実な状態になります。

人の手で経済は創れるか?経済とは「人間が関わる活動をうまく回すための仕組み」です。その中の1つの形態として、現代の貨幣経済や自由市場経済が存在しています。
「企業」も「webサービス」、「商店街」「サークル」も、名前が違うだけで1つの小さな経済システムと考えることができます。
そして、手軽にネットでサービスを作って世界中の人に使ってもらえるような時代になった今、経済は「読み解く対象」から「創り上げていく対象」に変化しつつあります
世の中の悲劇や不幸の多くは、誤った仕組みが大規模に社会に適用されることによって起きているほうが多いのです。
社会における多くの非効率や不幸を最少にするためには、物事をうまく回すための普遍的な構造を理解し、何かを新しく創る人たちが、それを使いこなせるようになることが近道です。

【発展する「経済システム」5つの要素】
経済活動をうまく回す仕組み「経済システム」は、大前提として自己発展的に拡大していくような仕組みである必要があります。
誰か特定の人が必死に動き回っていないと崩壊するような仕組みでは長くは続きません。よくできた企業やサービスは個人に依存していません。仕組みでできています。フェイスブックの成功も「人が人を呼ぶ仕組み」が上手く作られているからに尽きます。

この持続的かつ自動的に発展していくような「経済システム」には5つの共通点があります。
①報酬が明確である(インセンティブ)
「素晴らしいと思うけど積極的に参加する気になれない」という組織やサービスは、このインセンティブの設計が欠けています。インセンティブには、人間の生物的な欲求(衣食住や子孫を残すことへの欲望)や社会的な欲求(金銭欲・承認欲・競争欲)を満たすものがあり、複数の欲望が混ざっている場合もあります。
現代は生物的な欲求より社会的な欲求が目立ってきていて、中でも頭文字を取って3M(儲けたい・モテたい・認められたい)の3つが欲望としては特に強く、これらを満たすようなシステムは急速に発展しやすいです。

②時間によって変化する(リアルタイム)
必ずしも本当にリアルタイムである必要はありませんが、常に状況が変化するということを、参加者が知っていることが重要です。
人間は変化が激しい環境では緊張感を保ちながら熱量が高い状態で活動することができます。反対に、明日も明後日も来年も変化が全くない環境で生活すると緊張も努力もする必要がありませんから、全体の活力は次第に失われていきます。

③運と実力の両方の要素がある(不確実性)
誰もが未来を正確に予測できて、生まれた瞬間から死ぬまで結果が分かってしまうような世界があったら、必死に生きたいと思うでしょうか。映画が最初から結末がわかっていると興ざめしてしまいます。
人間は生存権を高めるために不確実性を極限までなくしたいと努力しますが、一方で不確実性が全くない世界では想像力を働かせて積極的に何かに取り組む姿勢が失われてしまいます
自らの思考と努力でコントロールできる「実力」と、全くコントロールできない「運」の要素が良いバランスで混ざっている環境のほうが持続的な発展が望めます。

④秩序の可視化(ヒエラルキー)
世の中には、偏差値、年収、売上、価格、順位のような数字として把握できるものから、身分や肩書のような分類に至るまで、階層や序列も溢れています。
「経済」は実物のない、参加者の想像の中にある「概念」に過ぎません。なので、目に見える指標がないと参加者は自分の立ち位置がわからなくなってしまいます。指標があることで、自分と他者の距離感や関係性を掴みやすくなるメリットもあります。また、優位なポジションを手に入れた者はその地位を守ろうとするので新陳代謝を強制的に促す仕組みを組み込んでおく必要があります。

⑤参加者が交流する場がある(コミュニケーション)
人間は社会的な生き物ですから、他人との関係性で自己の存在を定義します。参加者同士が交流しながら互いに助け合ったり議論したりする場が存在することで、全体が1つの共同体であることを認識できるようになります。
そのコミュニケーションの場を通して、問題があったらアイディアを出しあって解決したり、1人ではできないことを共同で実現したりできるようになります。この要素が、システム全体をまとめる接着剤としての機能を発揮します。

【経済に持続性をもたらす2つの要素】
上記に加え、安定性と持続性を考えると、さらに2つの要素を取り入れる必要があります。
追加①経済システムの「寿命」を考慮しておく
永遠に機能する完璧な経済システムというのは存在しない。最初から完璧なシステムを作ろうとせずに、寿命がきたら別のシステムに参加者が移っていけるような選択肢を複数用意しておくことで、結果的に安定的な経済システムを作ることができるようになります。フェイスブックは若者のユーザー離れも想定していてワッツアップやインスタグラムも買収しています。

追加②「共同幻想」が寿命を長くする
参加者全員が同じ思想や価値観を共有していることが経済システムを長持ちさせることにつながる。
参加者が共同の幻想を抱いている場合、システムの寿命は飛躍的に伸びますし、互いに譲歩できる着地点を見つけられる可能性が高くなり、多少の失敗も許容できます。
アップルは製品の不具合が多いことが有名でしたが、アップルの美意識や思想に共感した熱烈なファンがいて、欠点があっても使い続けてくれていました。世代を超えて引き継がれる共同幻想は、瞬間冷凍させる液体窒素のようなものだと考えられます。

反対に言えば、「世界を変える」とは、前時代に塗り固められた社会の共同幻想を壊して、そこに新しい幻想を上書きする行為に他なりません。

国家、通貨、宗教、偏差値、学歴、経歴、年収、資産、論理、権利など、私たちの精神や行動を縛る概念のほぼ全てが人工的に作られた幻想ですが、これらの効力が薄れ、時にはまた別の幻想が誕生し、人々の新たな価値判断の基準になっていきます。

【ビットコインの「報酬設計」の秀逸さ】
これらの要素をうまく取り入れている典型的な例にビットコインがあります。

フリードリヒ・ハイエクは「紙幣発行自由化論」を発表し、国家が中央銀行を経由して通過をコントロールすることは実体経済に悪影響を及ぼすとし、通貨の国営化をやめるべきだと主張しました。ハイエクは、市場原理によって競争にさらされることで健全で安定した通貨が発展すると考えていました。また、国家が経済や社会をうまく計画してコントロールできると考えるのは人間の怠慢にすぎないと主張し、自由主義を支持していました。

また、シルビオ・ゲゼルは、「自然的経済秩序」という著書の中で、自然界のあらゆるものが時間と共に価値が減っていくのに、通貨のみ価値が減らないどころか金利によって増えていくことを指摘し、それは欠陥だと主張しました。それを解決するアイディアとして、価値が時間と共に減る自由貨幣(スタンプ貨幣)を考えだしました。これは一定期間に紙幣に一定額のスタンプを貼らないと紙幣が使えなくなる仕組みで、まさに利子と真逆の概念を取り入れています。
これはアプローチは違えど、ピケティが提案した資産を所有すること自体に税金をかけるべきといった資産税に近い概念です。

ただビットコインが他の学術的な思想とも、ただの新技術とも違うのは、この経済システムに参加する人々が何をすれば、どういた利益が得られるか、という報酬が明確に設計されている点です。
経済・テクノロジー・思想とそれぞれが、それぞれの役割を与えられた上で、うまく報酬の設計がなされています。さらにオープンソース(ソフトウェアのソースコード(プログラミング言語で記述された文字列)を無償で公開し、誰でも自由に改良・再配布ができるようにしたソフトウェアのこと)にすることで、もしビットコインがダメになってもアルトコインをはじめとした別の選択肢へ参加が移動しやすくなっています。

【持続的に成長する組織の条件】
(ディズニー、コカ・コーラ、グーグル、アップルもこれら⑤つに多大な労力を割いています。つまりこの5要素を理解し、よくできた「経済システム」を作るプロであることが求められます。)
①明確な報酬が用意されているかにつては、会社は最低限の報酬設計はできています。しかし、現代ではお金以外の欲求が高まっています。自分がその会社で働いていることで社会的な承認が得られるか、若年層であれば異性から評判が良いかなども重要になります。
②市場が成長しており変化が激しく、予測できないようなことが日々起こるような職場環境。自分の努力や判断で結果に大きな差が出るような環境では、緊張感と刺激を感じて動く人が増えるでしょう。
③不確実性が強いということで会社は活気づきます。
④ヒエラルキーについても同様です。成果に応じた給与や等級は「ヒエラルキーの可視化」の役割を持っています。
⑤コミュニケーションですが、会社で働くメンバー同士の交流の機会が増えるほど企業としての一体感は高まります。一見意味のない時間を一緒に過ごした人ほど、その後に深い関係性を築きやすいこともあります。
プラスアルファで共同幻想をあげましたが、これは会社に当てはめるとビジョンや経営理念に当たります。その会社が何を信じたいか、何を正しいと思っているかの宣言がビジョンや理念です。メンバーが同じ理念を信じていると会社は一体感をもって動くことができ、多少のトラブルがあっても互いに理解し合い、バラバラになる可能性は著しく低くなります。

【勝手に拡大するサービスをつくるには?】
ユーザーに熱中して利用してもらう商品やサービスを作るには、ユーザーの欲望と向き合う
必要があります。そして製品やサービスを作る人は、その製品を軸に作れる経済圏の設計を考えておく必要があります。
衣食住などの根源的な欲望を満たすためのサービスであることはもちろん、それに加えて社会的な欲望を満たす要素を入れるだけでもユーザーの反応は全く変わってきます。
社会的な欲求とは、金銭要求・承認欲求などが典型です。

フェイスブックやTwitter、インスタグラムなどのSNSは、直接的にお金のやりとりをするサービスではないのでわかりにくいですが、非常によくできた経済システムと言えます。

「いいね」や「RT」はSNSという経済の中では「金銭」ではなく「承認」という欲求を満たすための装置であり、ユーザー間でやりとりされる「通貨」のような役割を担っています。拡散によって増えていくフォロワーは、貯金のように貯まっていく「資産」に近いです。
SNSのタイムラインはリアルタイムで内容が変化し、見るたびに新しい情報が飛び込んできます。また、自分の投稿次第で何が起こるかは予測が難しいという不確実性があり、批判を浴びたり炎上したりという「リスク」もあります。
「いいね数」「フォロワー数」「視聴者数」など、様々な指標が数字で可視化され他人と比較することもでき、業界や趣味ごとのヒエラルキーも明確になっています。
もちろん、いつでもユーザー同士が相談しあったり議論したりすることができます。
SNSは先ほどの経済システムに必要な5要素を完璧に押さえています。

ヒットするサービスを考える場合
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衣食住などの生理的欲求以外の社会的欲求を刺激できる仕組みを導入できないかを考えてみることが重要です。
またサービスがリアルタイムとは言わずとも、毎日・毎週・毎月変化する企画があることで、ユーザーは常にそのサービスのことが気になってくるようになり、何度も訪れてくれる可能性が高まります。
また、そのサービスを利用している人同士がコミュニケーションを取れる場所やら空間やらの機能を用意してあげるとベターです。Webであればグループやチャットやコメントなどの機能がありますし、リアルのサービスであれば感謝祭やイベントのような場になります。
さらにそこで特にサービスの発展に貢献してくれたユーザーに対しては、「特別優遇」をし、それがユーザーの間で可視化されていることが必須です。そして、貢献度に応じて受けられる優待や割引などを用意しヒエラルキーを作ります。Webサービスであれば、「ランキング」のような機能ですし、リアルのサービスであれば「ゴールド会員」などの仕組みです。
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こうしてサービスを軸にして、それを使ってくれるユーザーを母集団にして1つの経済システムを形成し、サービスが成長することでユーザーも得をし、ユーザーが得をすることでサービスも成長するという「利害の重ねあわせ」を丁寧にやっていき、共生関係を作り出していきます。

今後、情報伝達が速くなった世界では模範は簡単で、目新しいアイディアも一瞬でコピーされます。
ただ、強いロイヤルティカスタマーに支えられた経済システムは一朝一夕でコピーできるものではありませんし、コピーできたとしても同じものを作ることはできません。
製品やアイディアで勝負する時代から、ユーザーや顧客を巻き込んだ経済システム全体で競争する時代に変わってきています

【「小米」に学ぶ経済圏の作り方】
徹底的に細部にこだわったクオリティの高いスマホを作っていますが、ここまでなら普通の職人気質のメーカに過ぎません。特殊なのはそのマーケティングとコミュニティです。
小米は初期は店舗での販売を一切せず、ネットでの販売のみに特化しました。さらに、製造数を敢えて絞ることで端末そのものの希少性を高めて、なかなか手に入らない状況を作りました。これにより「小米の端末を持っている=羨ましい」というプレミアム感を出すことに成功しました。
また、強烈なビジョンを持つカリスマ的存在であり、彼のビジョンと高品質な製品に魅せられたたくさんのファンを作っていました。このファンたちがなかなか手に入らない小米のスマホをソーシャルメディアで拡散させていき、マーケティングコストをかけずに多くの人に認知させることに成功しました。
細部にこだわった高品質な製品、なかなか手に入らない希少性、強烈なビジョンに支えられたファン層の形成、ソーシャルメディアでの口コミなどが重なって、小米のスマホを使っていることはクールであるという「ブランド」としての価値が生まれます
マーケティングコストが安く、かつコミュニティによって守られているため競争環境にも強いです。こうした戦略はWebサービスに限らず、メーカーや店舗やサービス業などあらゆる業態で応用可能です。自分の今取り組んでいることに対しても、どう取り入れられるか考えてみてください。

【経済と脳の深い関係】
私たち人間や動物の脳は、欲望が満たされた時に「報酬系」や「報酬回路」と言われる神経系が活性化して、ドーパミンなどの快楽物質を分泌します。
この報酬系は、食欲・睡眠欲・性欲などの生理的欲求が満たされた場合はもちろん、他人に褒められたり、愛されたりなどの社会的な欲望が満たされた時にも活性化して快楽物質を分泌します。
この報酬系のおかげで、私たちの行動における動機付けがされています。少々言い方が悪いですが、人間も動物もこの報酬系の奴隷のようなもので、ここで発生する快楽物質が欲しいために色々な行動に駆り立てられます
例えば、親に褒められたいから勉強を頑張る、異性にモテたいからダイエットをするといったモチベーションになっています。
この快楽物質という「ご褒美」なしに、人間は何かに繰り返し打ち込んだりすることはできません。そして中毒性があり、一度、気持ちが良いと脳が感じると何度も繰り返してやりたくなってしまう性質があります。
それほど報酬回路が分泌する快楽物質は生物にとって「甘美」な刺激であり、生物の行動を強烈に動機付けていることがわかります。

また人間の脳は経験や学習によって快楽物質を分泌する対象を自由に変化さえることができます。今後、VRなど新たなテクノロジーが発達してくると、今とは異なる状況に快楽を感じて、新しい欲求を生み出しているでしょう。

脳は非常に「退屈しやすい」「飽きやすい」性格を持っています。反対に、脳は予測が難しいリスクのある不確実な環境で得た報酬により多くの快楽を感じやすいことが研究で分かっています。さらに、自分の行動や選択で結果が変わってくる場合には刺激や快楽はさらに高まります。これは生物が自然の中で生きる上で、環境に適応するために身に着けた重要な習性だったからだと考えられます。

【快楽は他者との比較によって高まる】
人間は他者との比較の中で自分が幸か不幸か、優れているか劣っているかを判断する相対的な生き物です(ヒエラルキーの可視化)。
プロのアスリートのように黙々と自分の限界に挑戦し続けることで快楽を得る人もいますが、大半の人の脳は周囲と比較する物差しがあったほうが、より刺激や快楽を感じやすいという性質を持っています。この他人より比較優位にありたいという欲望が、人間が継続的な努力をする原動力となり、これを集団の全員が思うことで全体が発展していくことができます。

【ゲームとは報酬回路を人工的に刺激する「優れた装置」】
この脳内の報酬系の仕組みをフル活用した装置が、ゲームです。優れたゲームほど、適度に私たちの報酬系を活性化させ、人々を熱中させるように作られています。オンラインは、ユーザー同士のコミュニケーションや競争の要素が加わるのでさらに熱中度が高まります。
ゲームは、目に見える「リターン」がなかったとしても、仕組みによって人間の脳の報酬系は刺激されて快楽物質を分泌し、特定の行為に熱中するようになる証明ともいえます。
つまり、金銭的な対価を一切求めずに、経済システムを作ろうとするとゲームに近づいていくことになります。昨今のすぐれたサービスや組織が、ゲームの手法を真似た「ゲーミフィケーション」を取り入れているのを見てわかる通り、ゲームというものが私たちの脳を直接的に刺激する仕組みを凝縮したものであることは間違いありません。

現在、先進国ではものもサービスも飽和状態にあり、商品を売るだけでは人々を惹きつけることができなくなりつつあります。
物を持たないで生きる「ミニマリスト」が多くなっているのを見てもわかる通り、ものの魅力はどんどん下がっています。
多くの人が娯楽や体験を通した精神的な満足に対して魅力を感じるようになってくると、ゲーミフィケーションや脳の報酬系への理解が経済活動にますます求められる時代になってくるでしょう。

しかし、快楽物質は強力すぎる諸刃の剣でもあります。浴び過ぎればバランスを崩します。絶対悪用はせずに、バランスを見ながら適度に報酬系を刺激する仕組みを取り入れてください。

【「自然」は経済の大先輩】
自然界は、食物連鎖とを繰り返しながら全体が1つの「秩序」を形成して成り立っています。「通貨」なんてありませんが、食物連鎖(食べるー食べられる)を通して「エネルギー」を循環させています。
個と、種と、環境が、信じられないほどバランスの取れた生態系を作っており、しかも常に最適になるように自動調整がなされています。
自然界では人間社会にあるような法律を誰かが作っているわけではないので、自発的にこの仕組みが形成されたということになります。
経済のベクトルは「自然にもともと内在していた力」が形を変えて表に出てきたものであり、自然とは経済の「大先輩」みたいな存在、ということになります。

【経済と自然の根底にある同一システム】
自然がここまでバランスよく成り立っている要因としては、前述の「極端な偏り」「不安定・不確実性」というネットワークの性質に加えて、さらに3つの特徴があげられます。

①自発的な秩序の形成
自然派誰かがルールを決めているわけでもないのに、簡単な要素から複雑な秩序が自発的に形成されています。勝手にこうした秩序が形成される現象は「自己組織化」「自発的秩序形成」と呼ばれます。

②エネルギーの循環構造
自然界で暮らす生物は食物連鎖を通して、エネルギーを循環させ続けています。食事などで常に外部からのエネルギーを体内に取り入れ、活動や排出を通して外部に吐きだします。自然や生命はこのエネルギーの循環の機能があるため秩序を維持することが可能だと言われています。

③情報による秩序の強化
「情報」が必要になるのは「選択」の可能性がある場合だけです。つまり生命が「情報」を体内に記録し続け始めたのは選択の必要性がある環境だったからと考えられます。「情報」が内部に保存されることで、構成要素が入れ替わっても同じ存在であり続けることができるのです。

3つの性質を簡単にまとめると、「絶えずエネルギーが流れるような環境にあり、相互作用を持つ動的なネットワークは、代謝をしながら自動的に秩序を形成していて、情報を内部に記憶することでその秩序をより強固なものにする」となります。この自然に内在する構造を、ハイエクは「自生的秩序」と呼びました。
思い出してみると、老練な経営者や歴史的な偉人の名言でも同じような内容が語られていますし、「諸行無常」「生々流転」なんて言葉もずっと大昔からあります。

【自然の秩序に反したルールの危険性】
自然の構造に近いルールほど社会に普及しやすく、かけ離れた仕組みほど悲劇を生みやすい。
この仮説を証明する典型例が、マルクスの「社会主義」です。資本主義の問題点を指摘して、多くの人の共感を得た思想です。つまり感情のベクトルは捉えていました。しかし結果的にはうまくいきませんでした。
①私利私欲を否定②政府がコントロールする経済③競争の否定
つまり、これまで紹介した自然界の正反対の仕組みを採用したことになります。個人の労働に対する意欲は低くなり、お金も循環しなくなり、やがて社会は活気を失いました
アメリカや中国は変化が激しく、お金・人材・情報がものすごい速度で動いています。一方で、成長が止まった国(例えば日本や韓国)を見ると、資本や人材や情報の流動性は高くありません。社会の循環が止まっています。大企業はずっと大企業のままですし、年功序列と終身雇用が前提、資本や人材の流動性を高めないように設計されています。
歴史の大惨事を引き起こした思想の多くは自然の構造とはかけ離れています
現在機能している社会システムは過去の人たちが何千年もかけて試行錯誤を繰り返した結果であり、私たちは今も手探りで「自然の輪郭」を明らかにする過程にあるのかもしれません。

■第2章 テクノロジーが変えるお金のカタチ
【テクノロジーの変化は点ではなく線で捉える】
バズワードよりも今世の中に起きている変化を1つの現象として理解することが大事です。それが見えてくると次に起きる変化もある程度は予測できるようになり、次々に登場する流行にも冷静に向き合うことができるようになります。

【今起きているのはあらゆる仕組みの「分散化」】
「分散化」とは既存の経済や社会システムを根本から覆す概念
です。なぜなら既存の経済や社会は、「分散化」の真逆の「中央集権化」によって保ってきたからです。組織には必ず中心に管理者が存在し、そこに情報と権力を集中させることで、問題が起きた時もすぐに対応できる体制をつくっていました。
現在は全員がスマートフォンを持ち、リアルタイムで常時繋がっている状態が当たり前になりました。またこれからは、人間だけではなく、ものとものも常時接続されるのが当たり前の状況になります。これを「ハイパーコネクティビティ」と言います。この状況がさらに進むと、オンライン上で人と情報とものが「直接」かつ「常に」繋がっている状態が実現します。そうすると中央に代理人がハブとして介入する必然性はなくなり、全体がバラバラに分散したネットワーク型の社会に変わってきます
インターネットは「距離」と「時間」の制約をぶっ飛ばして、情報を瞬時に伝達するテクノロジーなので、むしろネット本来の力がここにきてようやく発揮されてきたと言えます。

【分散化が引き起こした新しい経済システムの具体例】
①UberやAirbnbに代表される「共有経済(シェアリングエコノミー)」
マメ知識φ(・・)
シェアリングエコノミーとは、インターネットを通じて、モノや場所、スキルや時間などを共有する経済のかたちです。これまで個人で使うために所有していた資産(例えば、車や家など)を、使わない時間に気軽に貸し出しができ、それで収入を得ることができるようになりました。自動車配車サービスの「Uber」や宿泊施設貸し出しの「Airbnb」が有名ですが、日本国内でも次々に新しいサービスが誕生しています。Uberは車を所有しているわけではなくただドライバーと個人をネットワーク化しているだけ。Airbnbも不動産を所有しているわけではなく、ただ個人と個人をつなぐネットワークを構築し、支払いの仲介やレビューによる信頼性の担保など、よく回る1つの経済システムを作っているだけです。
日本ではメルカリが急成長して日本初のユニコーンになりました。中国では自転車シェアリングが普及しました。
近代の「代理人型社会」とこれからの「ネットワーク型社会」の良いところを混ぜたハイブリッド型のモデルと言えます。これまでの個人資産の持ち方を大きく変える可能性があります。

②仮装通貨やブロックチェーンなどを活用した「トークンエコノミー」
マメ知識φ(・・)
トークンエコノミーとは、言い換えれば「独自の経済圏」のことです。
トークンとは「他の価値と交換できるもの」のこと。仮想通貨やアマゾンポイント、楽天スーパーポイント、商品券などもトークンの一種です。このトークンを発行して、独自の経済圏を新たに作ろうというのがトークンエコノミーです。
一般的には、商品やサービスを購入する際、円やドルなどの法定通貨を決済に利用します。給与や報酬も、ほとんどの人は円で受け取っているでしょう。納税も円でしますよね。そのため、日本は円というトークンの経済圏(エコノミー)です。
しかしトークンエコノミーでは、商品やサービスを提供する事業者が独自のトークンを発行することができます。その独自トークンを利用する人が増えれば、トークンに新しい経済的価値が発生したことになります。トークンの価値は、需要によって決まるという仕組みです。発行枚数(供給)が限定されている仮想通貨(トークン)であれば、需要が高まるほどその価値は上昇します。

③YouTuberやインフルエンサーとファンなどが作る「評価経済」
評価経済とは、他者からの評価によって回る経済のことを言います。様々な個人が情報を積極的に発信し、インフルエンサーと言われるたくさんの人々から注目されている個人が消費に対して凄まじい影響力を持ちはじめました。企業と個人の間で主流だったお金のやりとりが、ネットワーク型の社会に移行すると個人から個人への流れがメインになり、そこには今までとは全く異なる経済が発展しています。

■第3章 価値主義とは何か?
【限界を露呈し始めた資本主義】

本来、お金は価値の交換・保存・尺度などの役割を持っていてい、銀行も証券も産業や人々の活動をサポートする存在でした。お金はそのツールに過ぎませんでした。
徐々に「お金を増やす」という手段の部分が強調され過ぎるようになり、多くの人がそこしか見ないようになってきました。結果的に、実体経済や人々の生活とは全く関係のないところでお金だけが動くようになっていきました。
お金からお金を生み出して札束を積み上げ続ける世の中に対して、一部の人たちがそれってどうなんだろう?と考えるようになっていきました。

【資産経済の肥大化と金余り現象】
私たちが生活している経済は少なくとも2つの性質の異なる経済が混ざり合ってできています。
「消費経済(実体経済)」…労働をして給与をもらい、コンビニに行ってお金を払うという一般的な経済で、大半の人はこの経済の中で生きています。
「資産経営(金融経済)」…お金からお金を生み出す経済で、これをメインに生きている人は資産家や金融マンなどのごく一部の人たちです。

ただ、世の中に流通しているお金の流れの9割近くは資産経済のほうで生まれています。統計上の数字では間違いなく多くの人が馴染みのある消費経済ではなく、少数の人が回す資産経済が大半のお金の流れを作っています。
消費はものやサービスが介在するためやりとりに時間がかかりますが、お金からお金を稼ぐ場合は、コンピュータ上のデータの通信だけなので、スピードが全然違います。
この1割ほどの消費経済の上に、9割の資産経済が乗っかって、全体の経済が成り立っています。資産経済は消費経済からの金利や手数料で成り立っているため、消費経済が少し変わるだけで大きく動いてしまいます。
今はこの消費経済に対する資産経済の割合はどんどん大きくなっていて、経済は不安定な状態になっています。むしろ、人々は消費をしなくなっていて、先進国に関して言えば消費経済は縮小すらし始めているようにも感じます。ミニマリストが増え、ユニクロの製品のように安くて良いものが手に入り、車や家を購入しなくても普通に生きていけます。
一方で、資産経済はどんどん拡大を続けていて、世界中で金融マネーは投資先を探してさまよっています。もう利回りの良い金融商品などなくなってきているため、お金はあるけれど使う対象がないといった状況にあるわけです(あくまでも資産経済の話)。資産経済の占める割合が大きくなりお金は色々なところに滞留し始めており、むしろ投資先のほうが枯渇している状況です。
資金調達が容易な環境にあるため、相対的にお金の価値そのもの下がり続けています。逆に、増やすことが難しい、信頼や時間や個性のようなお金では買えないものの価値が、相対的に上がってきていると言えます。

【お金になりにくい「価値」の存在】
「お金にはならないけど価値のあるもの」って存在しますよね。例えばNPOによる社会貢献活動だったり、地方創生のようなプロジェクトだったり。
お金の重要性があまりにも強調され過ぎてしまったため、お金にならないもの、財務諸表で資産として認識されないものはまるで無価値であるような扱いを受けてしまいます。逆に誰もが存在価値を感じていないものではあるが、お金を操るテクニックがうまいがために大きな力を持っている場合もあります。
この資本主義が考える価値あるものと、世の中の人の考える価値あるものの間に大きな溝ができており、それが多くの人が違和感を持つ原因です。
本来は人々が感じる価値があるからこそ、お金になるはずが、世の中の人が感じる価値とは関係ないところでお金だけが増えるようになりました

ITなどの新しいテクノロジーが生まれると人間が作った概念は変化を余儀なくされます。それまで文字の記録手段だったのは紙ですが、ITの発達で文字を電子的に記録して自由に発信できるようになったので、紙は記録の手段の1つの選択肢になりました。
別の見方をすれば、紙はITの誕生で影響力を大きく下げたとも言えます。同様に、ITは価値のやりとりも電子的にやってくれる技術ですから、既存の「お金」を価値媒介手段の1つの選択肢に変えてしまう力があります

つまり、今起きていることは、お金が価値を媒介する唯一の手段であったという「独占」が終わりつつあるということです。価値を保存・交換・測定する手段は私たちがいつも使っているお金である必要ななくなっています。

価値をやりとりする手段が現在の国が発行する通貨以外でも可能になると、ユーザーは自分にとって最も便利な方法を選んで価値のやりとりをするようになります。それが国が発行する通貨なのか、企業が発行するポイントなのか、ビッドコインのような仮装通貨なのか、はたまた価値の直接交換なのかは人によってちがうでしょう。
手段の多様化により人々が注力するポイントが「お金」という手段から、その根源である「価値」に変わることは予測できます。つまり、価値を最大化しておけば、色々な方法で好きなタイミングで他の価値と交換できるようになっていきます。「価値」とは商品のようなものであり、「お金」とは商品の販売チャンネルの1つみたいなものです。

例えば、貯金ゼロ円だけど多くの人に注目されていてTwitterのフォロワーが100万人以上いる人が、何か事業をやりたいと考えたとします。すぐにタイムライン上で仲間を募り、クラウドファンディングを通して資金を募り、わからないことがあればフォロワーに知恵を借りられます。
この人は、"他者からの注目”という紙幣換算が難しい価値を、好きなタイミングで人脈・金・情報という別の価値に転換することができます。1億円の貯金があることと100万人のフォロワーがいることのどちらが良いかは人によって答えが違うと思います。それでも、ネットの普及で自分の価値をどんな方法で保存しておくか選べるようになってきています

【資産としては認識されないデータの「価値」】
ものを扱わないことが増えるこれからの社会、ネット企業で、財務諸表上の価値として認識されていないものの1つが「人材」、もう一つが「データ」です。しかしネット企業ではデータこそが価値であり、お金を稼ぎ出す「資産」なのです。それを失った瞬間に廃業しなければなりません。

フェイスブックの最大の価値はユーザーのデータであり、グーグルは検索エンジンやandroidやYouTubeで得られる情報をデータとして蓄積し、それをAdWordsの広告システムで好きな時に現実世界の売上利益といった資本に転換する手段を持っています。
今後ネットがあらゆるデバイスに繋がっていき、全ての産業に浸透するようになると「IT企業」という分類は消え、全ての企業がITを駆使した企業になっていくでしょう。テクノロジーの発達によってデータが「価値」として認識できるようになり、お金では計上できない「価値」を中心に回っている会社が成長しているのは、今の金融の枠組みが限界に来ていることを物語っています。

【資本主義から「価値主義」へ】
資本主義上のお金というものが現実世界の価値を正しく認識・評価できなくなっています。今後は、可視化された「資本」ではなく、お金などの資本に変換される前の「価値」を中心とした世界に変わっていくことが予測できます。これを私は「価値主義」と呼んでいます。
「価値主義」では、その名の通り価値を最大化しておくことが最も重要です。価値とは非常に曖昧な言葉ですが、経済的には人間の欲望を満たす実世界での実用性(使用価値・利用価値)を指す場合や、論理的・精神的な観点から真・善・美・愛など人間社会の存続にプラスになるような概念を指す場合もあります。
またその希少性や独自性を価値と考える場合もあります。
欲望を満たすための消費としての価値は既存の資本主義経済では一般的に扱われていますが、価値主義で言うとこの使用価値に留まりません。興奮・好意・羨望などの人間の持つ感情や、共感・信用などの観念的なものも、消費することはできませんが立派な価値と言えます。価値主義における「価値」とは経済的な実用性、人間の精神にとっての効用、社会全体にとってポジティブな普遍性の全てを対象にしています。

あらゆる「価値」を最大化しておけば、その価値をいつでもお金に変換することができますし、お金以外にものと交換することもできるようになります。お金は価値を資本主義経済の中で使える形に変換したものに過ぎず、価値を媒介する1つの選択肢に過ぎません。

人気のあるYouTuberほど、お金を失うことは怖くないが、ファンやチャンネル登録者を失うのは怖いと言います。それはYouTuberが、自分の価値は動画を見てくれるファンの人たちからの「興味」「関心」であり、お金はその価値の一部を変換したものに過ぎないということをよく理解しているからだと思います。彼らにはファンやユーザーからの興味・関心という精神的な価値を最大化することが最も重要になります。

【「価値」の3分類】
「価値」には色々な意味が混ざり合って含まれています。実際世の中で使われている価値という言葉は3つに分類されます。

①有用性としての価値

ひと言で言えば、「役に立つか?」という観点から考えた価値です。現実世界で使用できる、利用できる、儲かるといった実世界での「リターン」を前提にした価値です。基本的には現在の枠組みで資本に転換できるものを前提とした価値です。

②内面的な価値
実世界に役立つか?という観点とは別に、個人の内面的な感情と結びつけても価値と言う言葉は使われます。
愛情・共感・興奮・好意・信頼など、実生活に役に立つわけではないけど、その個人の内面にとってポジティブな効果を及ぼす時に、価値がるという表現を使います。
有用性としての観点で考えると、個人が心の中でどんなことを思っているかは関係ありませんし、それらの感情が役に立つといったことはありません。感情は消費する、役に立つといった実用性とは無縁だからです。
ただ、美しい景気を見た時、友達と過ごして楽しかった時、それらには価値があると表現しても特に違和感はないはずです。

③社会的な価値
慈善活動やNPOのように、個人ではなく社会全体の持続性を高めるような活動も私たちは価値があると表現します。金融や経営の視点から考えると、社会全体の持続性を高めるような行動はただのコストに過ぎず、少なくとも価値がるとは言えません。ただ、砂漠に木を植える人たちや、発展途上国に学校を作ったりする人の行動に価値を感じる人は多いと思います。

【資本主義の問題点をカバーする「価値主義」】
資本主義の問題点はまさに①の有用性のみを価値として認識して、その他2つの価値を無視してきた点にあります。
価値主義で扱う価値とは①有用性としての価値だけではなく、②人間の内面的な価値や、③全体の持続性を高めるような社会的な価値も、すべて価値として取り扱う仕組みです。

【「共感」や「感謝」などの内面的な「価値」の可視化と流通】
これまでは、他社からの共感・好意・信頼・注目のような人間の内面的なものは既存の中では価値として認識することは困難でした。

理由は簡単で、これらの精神的なものは目に見えないからです。

しかし今後はスマホが普及したことで万人が常時ネットに接続している状態になり、様々な内面的な反応もデータとして可視化することが可能です。
典型的なのが「注目・興味・関心」です。ネット普及以前は非常に曖昧で内面的な概念でしたが、Twitterやインスタグラムなどのソーシャルメディアのおかげで、その人がどれぐらいの人から注目されていて興味・関心を持たれているかを数値として認識できるようになりました。
内面的な価値も数字のデータとして認識できれば、それらは比較することができ、かつそのデータをトークン化することで内面的な価値を軸とした独自の経済を作ることもできます
このような内面的な価値を軸とした経済の例が「評価経済」や「信用経済」です。

【「評価経済」の落とし穴】
多くの人がなぜまだ評価経済や信用経済に対して違和感を抱くのかというと、今話題になっている大半の仕組みが「評価」や「信用」ではなく、「注目」や「関心」に過ぎないから、というのが挙げられます。
ネットのインフルエンサーが集めているのは、興味・関心・注目であって、世の中の人が考える評価・信用とは似て非なるものです。敢えて奇をてらった発言で炎上を繰り返すような人は、確かに他者からの注目を集めていることは確かですが、世間一般で言う評価や信用を集めているわけではないのです。
アクセス数やフォロワー数などのデータは、興味・関心・評価・信用などが混在してしまっていて、それらを明確に区別できていません。
その人が多くの人に評価されているのか、注目されているだけなのか、面白がって野次馬的に見られているだけなのかは、簡単な指標からは判断できないのです。もし今目の前で起きていることが「注目経済」「関心経済」と表現されていれば、多くの方も納得できたでしょう。
実際は「注目」や「関心」に過ぎないものが、「評価」や「信用」という高尚な概念に「すり替わっている」ことに違和感を覚えている人が多いのだと思います。
もう一つの理由としては、注目や関心などの特定の内面的な価値のために、共感や好意などの内面的な価値や、治安や論理などの社会的な価値が犠牲になることがあるからです。例えば、論理的に問題のあるような行為をして、それを動画に収めてYouTubeにアップして炎上させて再生数を稼ぐといったこともよくやられています。確かにこれによって視聴者数は伸びて注目や関心は集まるでしょうし、再生数に応じてYouTubeから広告費も支払われるでしょう。
ただ、この動画を見た多くの人は、面白さや好奇心などの内面的な価値が刺激される一方で、共感や好意などの他の内面的な価値や、社会の存続に関わる治安や論理などの社会的な価値が損なわれたと感じるはずです。
評価経済も信用経済も、注目や関心を集めるために、共感や好意を犠牲にしたり、論理感や治安を犠牲にするような行為が目立つようになると、資本主義と同じように世の中にブレーキをかけるようになります。
最近はメリットばかり強調されますが、根本的にはどの仕組みも行きすぎると資本主義と同じような問題は起こり得る、ということを全員が認識しておくことが重要です。

【社会的な価値・ソーシャルキャピタルの可視化】
私たちが日々扱っているお金や不動産や株式は、「マネーキャピタル(金融資本)」と呼ばれ、どれだけお金が増やせるかという観点で評価されます。反対にお金が増えるわけではないが、社会全体にとって価値ある資本は「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」と呼ばれています。
個人が繋がってできている社会が持続的に良い方向に発展していくために必要な「社会的ネットワーク」を「資産」と捉えるという考え方です。これからはソーシャルキャピタルを増やすのに長けた人も大きな力を持つようになると思います。
共感の伝播を容易にするソーシャルメディアがあり、人々の反応をデータとして可視化することもでき、ブロックチェーンによってそういったデータはトークンとして流通させることもでき、ビットコインを活用したクラウドファンディングで国境を超えて価値を移動させることも容易です。
こういったテクノロジーの発展によって、お金は儲からないかもしれないけど世の中にとって価値があると多くの人が感じられるプロジェクトは、経済を大きく動かす力を持てるようになります。
価値主義では、これまでは見えなかったソーシャルキャピタルの価値を可視化した上で、資本主義とは別のルールで経済を実現することができます。

【ベーシックインカム普及後の、「お金」】
AIなどのテクノロジーが急速に発達していき、大半の労働は価値を失います。
人間がやるよりも機械がやるほうがはるかに安価で効率的であるからです。そうなると大半の人が失業してしまうことになります。
そこでベーシックインカムの導入を考える国が増えてくるでしょう。ベーシックインカムとは、生活するための必要最小限の生活コストを国民全員に支給する仕組みです。
これまで書いてきた通り先進国では必要最低限の生活ができる人が増えてきたために、物欲はどんどんなくなっていますし、お金以外のやりがいや意義をを求める人が確実に増えています。
ここにベーシックインカムによって働かなくても生きているという状態を全員が受給できるようになったら、私たちにとってお金はどのような存在になるでしょうか。
お金のために嫌な仕事をしなくていい。労働からもお金からも解放された状態になります。当然ながら、お金の相対的な価値はさらに下がります
現在はお金には人を動かす力がありますが、生活するためにお金を稼ぐ必要のなくなった人からすれば、お金はもっとあったら便利なものであり、なければならないものではなくなっているはずです。
ベーシックインカム導入後の人間は、今私たちが知ってる人間とは全く別の生き方をするようになっているかもしれません。

【「経済」は選べばいい】
ネットが十分に普及した世界では、「どれが一番正しいのか?」という考え方ではなく「どれも正しい、人によって正解は違う」という考え方が徐々に受け入れられもいいはずです。私たちがどんな職業に就き、誰と結婚して、どんな宗教を信じ、どんな政治思想を持つのも個人の自由であると同様に、何に価値を感じて、どんな資産を蓄え、どんな経済システムの中で生きていくのかも自分で選んで自分で決められるようになっていく。私たちはその過程にあります。
そこでは優劣を決めようとしたり自分の基準を他人に押し付ける必要は全くなく、ただ個人が自分に最も適した経済を選んでいくという「選択」があるだけです。
分散化が進んでくると、あなたは自分の資産をビットコインと日本円と楽天カポイントに分けて保有していて、シェアリングエコノミーのサービス上で自分で働いて得た報酬をトークンとして受け取り、個人間のネットワーク上で誰かから服を買ってトークンで支払っているかもしれません。
この場合はあなたは複数の経済圏にまたがって存在しており、保有する資産も分散している状態にあります。稼いでいるサービスも、消費しているサービスも分散したネットワーク上でのやりとりで済ませています。
経済圏も複数に分散していて、その中に存在するサービスも管理者不在で機能する分散したネットワーク上で完結するというこの状態を「二重の分散」と表現しています。

【複数の経済圏に生きる安心感】
かつて、村などのコミュニティは、困ったことがあったらコミュニティ全体でお互いに助け合うという相互会のような役割を担っており、一種のセーフティネットのように機能していました。現在、都会では近所づきあいなどは限りなく薄くなり、マンションの隣に誰が住んでいるかもよくわからないのが一般的になってきました。
もしシェアリングエコノミーやトークンエコノミーのような仕組みが普及すると、そこで誕生する無数の「小さな経済圏」に、セーフティネットのような役割を期待できるかもしれません。現在の資本主義経済の中ではうまく居場所を作れない人も、全く違うルールで回るオンライン状のトークンエコノミーでは活躍できるかもしれません。また1つの経済の中で失敗したとしても、いくつもの異なるルールで運営される小さな経済圏があれば、何度もやり直すことができます。

【「時間」を通貨とする経済システムの実験】
最近私もようやく手触り感をもってお金や経済のことを理解できるようになったので、自分がこの世にあって欲しいと思う経済システムを作ってみることにしました。
私はお金のあり方以外にもう1つ長年考えてきたことがありました。それは「時間」についてです。今回はお金と時間の2つの特徴を混ぜた「時間経済」を作ってみることにしました。
私はこの本を書きながら「タイムバンク」という時間の取引所を作っています。これは、様々な時間を売買・保有・利用することができるマーケットプレイスです。専門家は自分の時間をタイムバンク上で売り出して資金を得ることができます。
ユーザーは自分の好きな専門家の時間を購入して利用することができます。時間には用途があらかじめ定められているので、決められた用途以外での利用はできません。また、長期で専門家を応援したい場合は、時間を購入して保有し続けるということもできます。保有している時間は市場価格でいつでも欲しい人に売却することができます。

このプロジェクトでは、3つのことを実現できるかを試します。
1つは、前述した経済を選べる時代を作るということ
2つは、①個人が主役の経済
3つは、②時間を通貨とする経済です。

①個人が主役の経済システム

インターネットが誕生してこれまで大企業がやってきた業務を個人ができるようになりました。作家にならなくてもブログで自分の文章を公開できて、歌手にならなくてもYouTubeで自分の曲を配信し、お店を持たなくてもネットでものが売れて、会社に勤めなくてもクラウドソーシングなどで仕事を受けることができます。
ただ、個人が企業と同じように稼げているかと言ったらそんなことは全くなく、ネット上だけで生計を立てられているのはほんの一握りです。たいていの人にとっては副業の小遣い稼ぎの手段に過ぎません。ネットが普及して個人の時代と言われて10年経ち、実際にトラフィックは個人に紐づいていますが、経済活動においては大半が企業に依存しています。
個人は企業に比べて何が足りないのでしょうか?
現状の経済の中で、個人と企業の大きな違いは「資産」です。個人が「資産」を得る手段がない限りは、個人は経済の主役にはなれないと思います。

企業の安定性は「収入」以上に「資産」にかかっていることは経営者であればよく理解していると思います。資産という点では企業に比べて個人は圧倒的に不利です。
個人が企業と同じように専門性や影響力や信用力をもとに生きていくためには、毎日の「収入」を稼ぎながらも、日々の活動から「資産」を築き上げていくことが不可欠です。会社にとっての株式と同じように、個人にとっての「時間」を実質的な資産として機能させることができれば、個人も会社と同じように自分の価値にレバレッジ(経済活動において、他人資本を使うことで自己資本に対する利益率を高めること、または、その高まる倍率)をかけて経済活動を展開することができるようになります。
株式における配当収入や不動産所有者の家賃収入のように、もし最終的に時間を資産として持つ者がそこから定期収入を得ることができるようになれば、働かなくても生きていける人が増えるかもしれません。

例えば、一定以上の時間価値がある場合は、保有時間に対して一定の金額が毎月支払われる「時間利子」みたいな仕組みが実現できれば、それだけで暮らせる人が現れるかもしれません。また時間に市場価値がついているのではれば、時間で「支払う」ということも可能になるかもしれません。
例えば、今タイムバンクで1秒100円以上の価値がついている人が数名いますが、彼らがレストランで食事をした時に自分の10秒の価値で支払うことができれば、お店はその10秒を受け取って市場で売却して現金に換えても良いですし、その人の時間の価値がまだまだ上昇すると考えるのであれば10秒を持っておいて、1秒150円になったら売却する、なんてことも将来的には可能かもしれません。

時間を通貨とする経済
通貨の「アンカー」とは文字通り、船が流されないように下ろす碇のように、通貨がふわふわ消えてしまわないように価値を下支えする「重し」を指します。アンカーの実在性が高いほど通貨は安定します。
少し前は国家の発行する通貨のアンカーは金塊(ゴールド)でしたが、現在は実質的には主要国の信用のみとなりました。通貨ほどまではなっていませんが、明確な資産として世の中に認められていいるものの1つに、時間と対をなす概念である空間(不動産)があります。
一方で、時間は昔から「Time is money(時は金なり)」と言われていますが、目に見えにくい上に流動性を作りにくい性質から、財産として認識されてきませんでした。しかし、時間という目に見えなかった曖昧な概念も、ネットとスマホが普及したおかげで「データ」として認識できるようになりました
システムにとっては空間も時間もただのデータに過ぎませんから、時間を本当に資産として扱える技術的な土台はすでに整いつつあります。
時間が通貨や資本として良いのは、経済の「新陳代謝」という点では優れているからです。経済システムが衰退する原因は、新陳代謝の機能が失われて階層が固定化して淀んでいき、活力を失っていくためです。時間そのものが財産だった場合には時間が経つほど保有量は自然と減っていくので、自分が優位なうちに(若いうちに)行動しようとするインセンティブが強くなります。例えば20代の若者と70代の老人だと、想定される残りの保有時間は20代の方がたくさんあります。使える時間は大量にありますし、購入者も若者が色々な経験をしてこれから時間の価値が上昇していくということが予測できますから、購入するリスクは低くなります。一方で、老人の場合はこれと全く逆のことが言えます。
また時間そのものが通貨だった場合には、保存できない上、どうせ使わなければ自然消滅するので、これを使って何かをしよう考える人が増えるはずです。
よく「若者は時間はあるがお金はなく、老人はお金はあるが時間がない」と言われますが、時間が通貨となる経済では若者は時間とお金の両方を持って、好きなことにチャレンジできるようになります。

【タイムバンクとVALUの正体】
VALUとは小川晃平さんがやっている、個人の価値をトレードできるマイクロトレードサービスです。クラウドファンディングのように特定の用途ではななく、その人自身の活動を応援したい場合にその人の発行するVAというバーチャルトレーディングカードのようなアイテムを購入して支援することができます。VAは市場で誰かに売ることもできます。

VALUは個人の価値に焦点を絞り、その価値を市場で決めてもらう仕組みです。そこには信用・影響力・評価・期待値など様々な価値が可視化されて織り込まれていくことが予想されます。
タイムバンクは時間という切り口でそこに価値を込めていましたが、いずれも原理は一緒です。
これまで曖昧だったけれど誰もが価値があると感じていたものをネットを使って可視化し、経済の原理を適用することで既存とは違うルールで運営される別の経済システムを作ったのです。
見る人によっては不思議に感じたり、不快な感情を抱いてしまうかもしれませんし、まだまだ改善点があるのは確かですが、既存の金融の仕組みも始まりは多くの人から懐疑の目を向けられていました。
これから今とは違うルールで回る経済システムが無限に誕生してきますが、それぞれの優劣を比較する意味はありません。それぞれの置かれている状況や、持っている常識も異なります。各自が自分にあった経済を選び、それに対する需要があれば試行錯誤をしながら、その経済は残っていくはずです。

【デジタルネイティブからトークンネイティブへ】
これまで紹介してきた経済の変化や、ビットコイン、ブロックチェーンなどの新しい技術は、これまでの経済の考え方とはかけ離れたものです。おそらく金融やコンサルなどの世界で10年以上やってきた方にとっては到底受け入れられないものだと想像できます。

実際にビットコインなどが世の中に出てきた時にも、金融系の方や経済系の学者は「中央管理者が不在の通貨などありえない」「新たな詐欺」という風な主張をしていました。これは既存の枠組みに慣れ親しんだ人が、その既存の金融や経済の枠組みで新しいものを捉えて評価してしまうためです。
しかしパソコンもSNSも、誕生のはじめは色々な議論を巻き起こしてきました。社会とのあらゆる摩擦を経て10年で当たり前のインフラになっていきました。今のビットコイン、ブロックチェーン、トークンエコノミーを見ても、当時のSNSと似たものを感じます。

イギリス作家ダグラス・アダムス
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人間は、自分が生まれた時にすてに存在したテクノロジーを、自然な世界の一部と感じる。15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは、新しくエキサイティングなものと感じられ、35歳以降になって発明されたテクノロジーは、自然に反するものと感じられる
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私たちの脳は一度常識が出来上がってしまうとその枠組みの中で物事を考えたり判断するようになってしまい、新しく誕生した技術などをバイアスなしに見ることが難しいのです。
今のシニアの方は四六時中スマホばかり触っている若者を見て不安がるでしょうし、私たちの世代が老人になる頃にはトークンエコノミーやAIを使いこなしVRに没頭する次の世代の人たちに不安を投げかけている絵が想像できます。しかし、そうやって新陳代謝を繰り返しながら世の中は進化を繰り返してきましたし、これからもこのループは続いていくのでしょう。

【「価値主義」とは経済の民主化である】
価値主義とは、まとめると2つの大きな変化が混ざった1つの現象と考えることができます。
1)お金や経済の民主化
これまで300年近く国家の専売特許とされてきた通貨の発行や経済圏の形成が、新たなテクノロジーの誕生によって誰でも簡単に低コストで実現できるようになりつつあります。通貨を発行するのに金銀銅で硬貨をつくる必要も、偽造対策を施した紙幣を製造する必要もありません。ブロックチェーン上でルールを記述し、トランザクション(商取引、売買、執行、取扱、議事録)を見ながら改善を繰り返していけばよいのです。
ユーザーはスマホさえあれば誰でもその経済圏に参加することができます。通貨や経済はただそこに昔からあるものではなく、自分で考えて選ぶもの、場合によっては自分で作るものへと変わっていっています。

2)資本にならない価値で回る経済の実現
私たちが価値という言葉を使う時に、それは①現実世界で役に立つかという有用性としての価値、②個人との感情と結びついた内面的な価値、③共同体の持続性を高める社会的な価値の3つに区分されると書きました。
そしてこれまでの資本主義は現実世界で役に立つかとう観点の①の有用性のみを扱ってきました。②内面的な価値などは有用性の観点からは全くの無価値になります。③共同体全体に貢献するような社会的な価値は、個人の利益の最大化が全体の利益につながると考える資本主義からすれば、ただの「お人よし」か「コスト」に過ぎません。
ただ②と③は間接的に経済に大きな影響を及ぼしていて、人々の感情や社会性を無視して自己の利益のみを追求した存在が長く続かないのは歴史が証明しています。
価値主義では、新たなテクノロジーの誕生によって、内面的な価値や社会的な価値をも可視化して、それらも経済として成り立たせることで、資本主義の欠点を補完することができるようになっています。
一方で、これらの2つの減少は、資本主義の世界で20年生きてきた人たちにとっては、非現実的な話に聞こえるはずです。

「通貨とは中央銀行が発行し、経済とは国家がコントロールするもの」「分散させてバランスを取るなんてことはできるはずない」など。
もしくは「実用性のない役に立たない体験や感情にお金を払うなんてありえない」「評価や信用なんてものがお金に換わるのはおかしい」など。

今までの常識からしたら確かにおかしいことですが、世の中の常識は日々変化しています。ちょうど200年前は中央銀行が通貨をコントロールするのはおかしいという議論が行われていましたし、40年前は紙幣がゴールドの裏付けを失ったらそれはただの紙切れでは?といった議論が起こっていました。
過去の常識が新しい価値観に上書きされていき、新しい価値観が常識になったかと思うと、すぐに新しい価値観による上書きが始まります

そして常識は世代によって全然違います。例えば、先ほどの価値という観点からすと30歳前後の世代は、すでに車や家や時計などのものに対してお金を払うという感覚がわからなくなりつつあります。ものは所有しなくても使う時にだけ借りられます。つまり私たち世代にとってこれらの価値は低いのです。
一方で、50歳前後の方からすれば、スマホゲームに課金したり、ライブ配信に「投げ銭」を払ったり、ビットコインを買っている人たちの感覚はよく(笑分からないと思います。全く「役に立たない」無価値なものにお金を払っている若者の未来を憂うかもしれません。

第4章 「お金」から解放される生き方
価値主義が普及した場合に、個人の働き方や考え方がどのように変わっていくかについて触れて生きたいと思います。
すでにYouTuberやInstagramerなどのように「好きなことで生きていく」というスタイルを実践している人たちや、副業の解禁が進む中でクラウドソーシング(インターネットを介して不特定多数の人々に業務を委託するアウトソーシングの一種)やC2C(個人と個人(一般消費者)の間で行う取引)のサービスで複数の収入源を確保する人、給与の一部をビットコインへ投資する人など色々な動きがあります。
そういった変化の中で力を発揮する人物とはどのような人かを紹介していきます。

【人生の意義を持つことが「価値」になった世代】
フェイスブックのCEOであるザッカーバーグはハーバード大学でのスピードで次のように語りました。
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今日、私は「目的」について話します。しかし「あなたの人生の目的を見つけなさいといった、よくある卒業スピーチ」をしたいわけではありません。私たちはミレニアル世代*1なんだから、そんなことは本能的にやっているはずです。そうじゃなくて、今日私が話したいのは、「自分の人生の目標(意義)を見つけるだけでは不十分だ」ということです。
僕らの世代にとっての課題は、「"誰もが"人生の中で目的(意義)を持てる世界を創り出すこと」なのです。
この社会を前に進めること、それが僕ら世代の課題です。新しい仕事を作るだけじゃなくて、新しい「目的」を創り出さなくちゃいけない。
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*1ミレニアル世代… アメリカ合衆国などにおいて1980年代序盤から1990年代中盤までに生まれた世代のことである。インターネット普及前の時代に生まれた最後の世代で、幼少期から青年期にIT革命を経験したデジタルネイティブの最初の世代でもある。

ミレニアル世代は欠けているものがないので何をモチベーションに頑張ったら良いかが分からない。だから、欠けているものはないけれど人の手によって人工的に「意義」や「目的」を創り出そうというのが、ザッカーバーグの主張です。
そして人生の意義や目的とは欠落・欲求不満から生まれるものですが、あらゆるものが満たされた世界ではこの人生の意義や目的こそが逆に「価値」になります。

この流れはさらに加速していき、人間は物質的な充足から精神的な充足を求めることに熱心になっていくことは間違いありません。これから誰もが人生の意義や目標を持てることは当然として、それを他人に与えられる存在そのものの価値がどんどん上がっていくことになります。

グーグルやフェイスブックのような企業が多くの優秀な人を惹きつけられるのは、彼らたちが最高レベルの給与と福利厚生とブランドを持つということだけではなく、そこで働く人たちに人生の意義や目的を提供していることが大きな要因だと思っています。
グーグルのミッション:世界中の情報を整理して誰もが利用できるようにする
フェイスブックのミッション:世界中の人々を繋げて、繋がりを密にすること

そして、今後は人生の意義や目的を他人に与えられることが経済的な価値として認識されるようになり、それを与えられる組織や人間が大きな力を持ち、社会を牽引していくことになるでしょう。その意味でもザッカーバーグは世の中の多くの人の需要を察知して、それを満たそうとしています。
マズローの五段階欲求で言えば、最高級の自己実現の欲求のさらに先の欲求、社会全体の自己実現を助けたいという利己的な欲求が生まれてきています。これからも社会の変化に伴って人々の欲求は変化していくことでしょう。

【若者よ、内面的な「価値」に着目せよ】
人生の意義の話を踏まえて、価値主義の世界ではどんな働き方や生き方がスタンダードになっていくでしょうか。答えは非常にシンプルで「好きなことに熱中している人ほど上手く行きやすい」世の中に変わっていきます

これからお金の相対的価値はどんどん下がっていき、お金を最優先に意志決定することは正しくなくなります。しかも、日本の経済成長は止まっています。これから少子高齢化と人口減少によって経済はさらに縮小する方向に向かっていきます。そんな状況で、ものやサービスは飽和していますし、新陳代謝は止まり、産業の構造の変化も乏しくなってきています。古くからある企業がずっと強いままですし、会社の中でも昔からいる人が重要ポストを占めていて、上の席は詰まっているはずです。縮小が始まるとさらに残ったパイの奪い合いになります。努力に対して見返りが少ないことは、今働いている人は何となく感じていると思います。

一方で、資本ではなく価値に着目するのであればチャンスは無数にあります。資本主義の枠組みの中では認識できない価値というものがたくさん存在するので、そこに焦点を絞れば良いのです。
価値の中でもものやサービスなどを消費する使用価値という点では、それらは飽和状態にあり、資本と密接に結びついているので、競争が激しいです。
反対に、人間の内面的な価値に関しては、現在の資本主義の枠組みでは上の世代が認識しにくく、ここには大きなチャンスが存在しています。
この内面的な価値には、共感・熱狂・信頼・好意・感謝のような種類があり、分かりやすい現物があるわけでもないので非常に曖昧です。
ただ、確かに多くの人がそれに価値を感じて、経済を動かす原動力になっています。ゲームに課金したりライブ配信する面白い人にアイテムを投げたりするお金の払い方に、シニア世代は当惑することがあると思います。
これらは既存の経済で扱ってきた使用価値ではくくれない価値だからです。年配の人ほど、経済的な価値とは製品やサービスの使用価値・利用価値だという考えを持っています。ここにチャンスがあります
この内面的な価値を重要視するのはミレニアル世代以降ですから、上の世代では理解しづらい。これからの働き方を考える上ではここに絞って活動していくのが生存戦略の観点からも良いと思います。

【「儲かること」から「情熱を傾けられること」へ】
内面的な価値が経済を動かすようになると、そこでの成功ルールはこれまでとは全く違うものになり得ます。金銭的なリターンを第一に考えるほど儲からなくなり、何かに熱中している人ほど結果的に利益を得られるようになります。つまりこれまでと真逆のことが起こります。

例えば、商業的に成功するために歌っている人と、音楽が本当に好きでただ熱中して歌っている人がいるとしたら、みなさんならどちらを応援したいと思うでしょうか?どちらに共感や好意を感じるでしょうか?大半の方は後者のはずです。
人気のYouTuberや動画配信者も、配信している人が本当に楽しそうに熱中してやっている場合に人気が出ているという印象を受けます(確かにマリネスさんそうだな)。彼らにとっては経済的に成功したことは「結果」であって、儲けることが目的だったのではないと思います。
利益やメリットを最優先にする考え方は実用性としての価値の観点であって、それを内面的な価値に適用したところで全く機能しません。
簡単に言えば、「役に立つこと」や「メリットがあること」と、「楽しいこと」や「共感できること」は全く関係がないのです。これまでの経済はいかに役立つかを価値の前提にしてきて、使用価値のないものに価値を認めてきませんでした。内面的な価値は、商品でもサービスでもありませんでした。

しかし、共感・熱狂・信頼・好意・感謝のような内面的な価値は、SNSといったネット上で爆発的な勢いで広まっていきます。今や誰もがスマホを持ち歩いてネットに常時接続しているので、人の熱量が「情報」として一瞬で伝播しやすい環境が出来上がっています。

例えば、中国ではライブ動画配信で商品を販売するライブコマースに非常に勢いがあります。中国で人気のある女性タレントが登場し、ただのザリガニを5分で45万個販売したそうです。ザリガニであれば中国ではスーパーで購入できるのに、です。
ユーザーは、ただ食欲を満たすのではなく、「楽しみたい」、女性タレントを「応援したい」という感情に対して「価値」を感じて、お金を払っているのです。

仮装通貨やトークンエコノミーの普及によって、こういった目に見えない価値もネットを経由して一瞬で送れるような仕組みが整いつつあります。ものやサービスが緩和して使用価値を発揮するのがどんどん難しくなり、多くのミレニアル世代が人生の意義のようなものを探している世界では、内面的な欲望を満たす価値を提供できる人が成功しやすくなります。

この世界で活躍するためには、他人に伝えられるほどの熱量を持って取り組めることを探すことが、実は最も近道と言えます。そして、そこでは世の中の需要だったり、他の人の背中を追う意味は薄くなります。なぜなら、内面的な価値ではオリジナリティ、独自性や個性が最も重要だからです。
その人でなければいけない、この人だからこそできる、といった独自性がそのまま価値に繋がりやすいです。
例えばさんまさんやダウンタウンさんはどちらにも持ち味があり、人によって好き嫌いは様々です。自分なりのスタイルや個性を追求していった人には、熱狂的なファンがつくのです。
内面的な価値の世界では比較優劣ではなく、自分がとことん熱中できることを探して、独自性を追求していくことが、結果的にうまくいくための近道になります。

【人間の心は放っておくとすぐサビる】
人間の精神とは不思議なもので、意識していないとすぐに自分が何を感じていたかも忘れてしまいます。時間が経つと自分が感じていた情熱も心の奥深くに埋もれてしまい、そこで日常の様々な義務に縛られていくうちに表面に膜のようなものが積み重なって自分が何をしたかったのかも思い出せなくなってしまいます。私はこれを「心がサビる」と表現します。油断していると誰でもこういった状況に陥ってしまいます。
色々なものに感動したり悲しんだりできるのは世界に直に触れているからであり、精神にサビが溜まっていくと麻痺して何を見ても何も感じられなくなってしまいます。
内面的な価値がますます重要になってくると、そこでは自分の情熱がどこにあるかをしっかり把握して深堀りできる人に大きなアドバンテージがあります。それに加えて、他人の情報を刺激して「サビ」を吹き飛ばしてくれるような人は大きな価値を発揮することになるでしょう。

誰かの作った枠組みの中で動くのではなく、自分との対話を通して、自分自身が何に熱狂できるかを追求することが必要な時代になります。

【「お金」のためではなく「価値」を上げるために働く】
価値主義の世界では就職や転職に対する考え方も大きく変わってきます。ざっくり言ってしまうと、この先は「自分の価値を高めておけば何とでもなる」世界が実現しつつあるからです。
前述した通り、個人が自分の価値を収益に換えて生きていける環境はもはや整備されつつあり、本当に価値を提供できる人は会社に属して働く必然性が消えていきます。
間違いなく個人の収入源が1つの会社に依存しているという状況は変わっていき、個人はパラレルキャリアで複数の収入源を使い分けていくことになるでしょう。

そこで重要なのは「個人の価値」です。個人の価値さえ高めておけば、それをお金に変換することもできますし、お金以外の他の価値にも変換することができます。ここで言う価値とは、①スキル・経験のような実用性としての価値、②共感や好意のような内面的な価値、③信頼・人脈のような繋がりとしての社会的な価値、のいずれも含みます。

従来はこれらは企業の経営戦略において、事業戦略、CSR、ブランディングのような領域でやっていくことですが、それが個人レベルでも必須になってきています。
日々の業務の中でも本当に今の活動が自分の価値の上昇に繋がっているかを常に自問自答し、それがないのであれば年収が高かったとしても別の道を考えてみることが必要となります。

【枠組みの中での競争から「枠組み自体を作る競争」へ】
これからは価値という観点から、自分なりの独自の枠組みを作れるかどうかの競争になります。枠組みの中の競争ではなく、枠組みそのものを作る競争です。そのためには自分の趣味や情熱と向き合い、自らの価値に気づき、それを育てていく。そしてその価値を軸に自分なりの経済圏を作っていく。クリエイターであれば自分の作品ができるだけ多くの人の目に触れるように情報発信をして、興味・共感・好意を持ってくれる人とのつながりを増やしていき、その上で自分の独自性とは何なのかを見極め、さらに磨きをかけていくことが必要です(りっちゃんはここをつめたら絶対上手くいくと思う)。そこで他の人が感じてくれた興味や共感などが貴重な「資産」となります。

そのためにはそれを実現させるためのテクノロジーや、人間の欲望について深く理解することも必須です。ただ、こういったノウハウははテクニックに過ぎず、世の中に広く流通すれば、やがては誰でも扱えるようなコモディティになります。
あくまで重要なのは自分自身と向き合った上で、自分の情熱を発見し、自らの価値を大事に育てていくことだと私は思っています。

■加速する人物の進化
価値主義が進み、リターンという利用価値以外の、人間の内面的な価値や、人類全体に貢献するような社会的な価値の中で扱われるようになると、社会はどのように変わっていくでしょうか。次に個人の生活ではなく、世の中全体という、もう少し広い視野で考察します。

【お金にならなかったテクノロジーに膨大なお金が流れ込む】
人類が大きなパラダイムシフトを起こす時は、いずれも人間の想像力を発揮した期間であり、それを支援する経済的な基盤が整っている場合です。
今回の経済に関する革命は、今まで「儲からない」という理由で投資を受けられなかった最先端のテクノロジーへの投資を加速させ、人類を次のパラダイムシフトに移行させるトリガーになり得るとみています。

仮装通貨やブロックチェーンなどの既存の経済とは全く違う経済システムの誕生によって、ソーシャルキャピタルに対して大量のマネーが投下されています。ICOと呼ばれる仮装通貨ベースの資金調達の額は2017年中継で2500億円を突破し、ベンチャーキャピタルが出した金額を上回っています。
かつてはグーグルやフェイスブックなどの新たなテクノロジー企業にリスクマネーを供給したのはベンチャーキャピタル出したが、今は仮装通貨によるICOがその役割を担いつつあります。

これからの30年間で開発されるテクノロジーは、産業革命以来のインパクトを人類に与え、人類をこれまでとは全く違う世界へと連れていってしまうことになると思います。
大半の労働は機械によって自動化され、人間はお金や労働から解放されます。人間は生きていくために働くことも、お金を稼ぐことも必要なくなります。

【電子国家の誕生】
現状で理論的には、国家の役割を全て電子化してテクノロジーによって代替できてしまう土台は出来上がりつつあります。

【宗教と価値主義】
今、外国では「人工知能」を神として崇めて社会をより良くしていく、という宗教団体ができています。しかしながら、グーグルもテクノロジーを活用して今より良い世界を実現するというものであり、それはテクノロジーの発展は、人々を幸せにするという「信条」に他なりません。神様や宗教という単語があるだけで、途端にうさん臭くなりますが、やっていることも目的も同じです。
つまり、宗教とテクノロジーが融合して経済圏を形成しても不思議ではなくなってきます。
経済と政治の境界が消えていくと予想されるように、同様に経済と宗教の境界も消えていくでしょう。株式会社は理念を掲げて社会的な価値をより追求していく流れになり、一方宗教では内面的な価値を取り組み経済を形成しています。

【「現実」も選ぶ時代へ】
人間が労働とお金から解放されると、膨大に時間が空きます。
そこではエンターテインメントが主要な産業になり、いかに精神的に充実させるかを追求していくことになるでしょう。
ルネサンスのように、人間の創造性は精神的な充足を得るためにフル活用されて、VR/AR/MRなどのテクノロジーの発展と共に現在の私たちが想像もしないような様々な方向へ精神は拡張していきます。

映画は映画館やDVDで見るものではなく、映像の中で自分が主人公になって楽しむものに変わっていき、映像だけではなく匂いや感触までよりリアルに再現できるようになると思います。没入感を極限まで再現することそこはほぼ現実と大差がなくなります。
デバイスによって現実を強化したり拡張したりする一方で、脳とコンピュータを接続して人の認識そのものを書き換えてしまうような技術も発達してきます。

BMI(ブレインマシンインターフェス)は脳とコンピュータを直接繋ぎ、脳そのものを制御したり、脳を使ってコンピュータを動かしたりすることを可能にする技術です。
視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚などは脳が作り出している感覚なので、ここを直接制御できるようになると、まるで本物が存在しているかのように五感で感じられるようになります。視覚などの脳が作った感覚ですから、例えば紫外線が見えるようになったり、人の熱量が見えるようになったりすると、この世界が今とは全く違うように見えるかもしれません。

つまり、VR/AR/MRやBMIが発達していくと、人間は「現実」そのものを選択できるようになる可能性が高いです。いくつかの現実チャンネルを切り替えて、自分が最も居心地の良い世界を自分にとっての「現実」と選択するようになります。

当然、今の私たちからしたら到底受け入れがたい環境ではありますが、それは私たちがそれがなかった世界を知っているからです。生まれた瞬間からその技術が存在する場合は便利なツールとして受け入れることができると思います。

テクノロジーの進化はなかなか止めることができません。便利で欲望を満たすものは次々に作られていき、世代が変わると共に社会に浸透していきます。「現実」を選べるようになると、人類は今とは全く違う欲望を発達させていると思います。

各世界では本物そっくりの仮想空間上で友達と会話したり仕事の打ち合わせをしたりすることができます。一方私たちが現実と呼んでいる物理空間でもARやMRによってバーチャルな存在が混ざっています。

あなたはフェイスブックやTwitterやインスタグラムのアプリを使い分けるように、色々な仮想空間でそれぞれ異なる人格でコミュニケーションを楽しみます。その中でも一番居心地が良い仮想空間で1日のうち最も長い時間を費やすことになるでしょう。その状況ではあなたの頭の中では一番多くの時間を費やす世界を「現実」と考えるようになっています。

自分の視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚などの五感もデータとして他人と共有できるようになると、他人と五感を共有したい「統合欲求」のような新しい欲求が誕生してくるかもしれません。

【「お金」は単なる「道具」である】
冒頭でも説明した通り、お金という存在は色々とネガティブな感情をくっつけて語られることが多いと思います。
私自身も、お金という存在に人生の選択の幅を狭められてしまったり、お金がないがために惨めな思いをしたり、そんな経験を重ねていくうちに「お金=なんだか嫌なもの」という偏見を持ってしまっていました。
しかし今では、お金や経済を1つの「現象」として捉えられるようになり、お金と感情を分けて考えられるようになってきました。
お金と感情を分けて考えられない典型的な例で言えば、「格差」という問題に対して感情的な偏見をもって臨んでしまった場合、「格差」という構造的な欠陥(物理現象)を解決するはずが、感情的な不満を解消することに問題が途中で「すり替わって」しまうということがあります。そして、わかりやすい「スケープゴート(生贄)を見つけては、袋叩きにして憂さを晴らします。

本当にお金や経済が作り出す課題を解決したいと考えるのであれば、お金に自らがくっつけている「感情」を切り離して考えなければなりません。お金が持つ特徴を理解した上で、それらを自分の目的のために「ツール」として使いこなす訓練が必要なのです。

おそらくトークンネイティブのような世代が誕生してくる頃には、お金がただの「ツール」として浸透しているでしょう。私たちがお金に特別な意味を感じていた最後の世代になるでしょうし、そういう未来の到来を早めること私たち世代の人間の仕事だとも思っています。

最後に。みなさんがお金を「ツール」として深く理解することで、今まさに始まりつつある「新しい経済」をうまく乗りこなし、自分のやりたいことが実現できることを強く願っています。

【おわりに】
人間はどんな空間も現実に変えることができ、どんな存在を目指すこともできます。必要なのは「好奇心」「想像力」を絶やさないことです。
人間は、年を重ねるごとに多くの思い込みや偏見が溜まっていき、社会のしがらみに縛られていくうつに、ありのままに物事を見て自由に想像するということが難しくなっていきます。

その最たるものと言える過去の人たちの想像の産物である「お金」に対して、自由に想像して「もしかしたら自分が気づいていない別の切り口があるのかも?」と考えてもらうキッカケになってくれたら良いなと思っています。

私自身も、これから何度も訪れる新しい世界にいつまでもワクワクしながら飛び込んでいけるような存在であり続けたい、そう願っています。

2017年10月23日 佐藤航陽


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