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感想

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映画や小説、漫画や記事の感想です。 Photo by Christopher Sardegna on Unsplash
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2020年11月の記事一覧

人が築いた地獄で、長らえた命、絶たれた命、それらはすべて。映画「戦場のピアニスト」感想

人が築いた地獄で、長らえた命、絶たれた命、それらはすべて。映画「戦場のピアニスト」感想

私は、祖父の時代に戦争が終わり、戦争そのものを知らない世代です。

この映画は、第二次世界大戦下のポーランドはワルシャワにて行われた、ユダヤ人虐殺を生き抜いたひとりのユダヤ系ポーランド人ピアニストの境遇を描いたものです。

ワルシャワではドイツ軍による占領が始まり、ユダヤ人は六芒星の目印をつけるよう強要され、ゲットーへと隔離されます。
大勢のユダヤ人が強制労働から大量虐殺への道を歩む中、主人公シュ

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死の気配の中、ひとつの光がともる。『煌夜祭(多崎礼)』感想

死の気配の中、ひとつの光がともる。『煌夜祭(多崎礼)』感想

深い青の表紙と、綺麗な表題に惹かれて購入しました。
紹介文からジャンルを想像する程度で、特に前知識もなく読みだす時の、わくわくする感覚が好きです。
やがて読者の想像の世界にあらわれ始める風景は、人々は、どんな風に絡まりあってどんな物語を織りなすのか。

渦を描くような見た目となっている地図「十八諸島臨海図」が、最初に掲げられています。中心には王島イズー。その島を中心として、三つの同心円が描かれ、そ

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終わっちゃった……。『ジェリーフィッシュは凍らない(市川憂人)』感想

終わっちゃった……。『ジェリーフィッシュは凍らない(市川憂人)』感想

「プロローグ」と書かれている始まりの章は、ミステリー小説でよく目にするけれど、それはきっと不可欠な要素なのだろうなあ、と思っていました。そこには犯人の独白や、犯行直前、現場、直後などの描写がある。
いったいぜんたい、ミステリーにおける序章とは、どのような意味を持っているのだろう。読了後に考えてみよう、そう思って読み始めました。

英語で海月を意味する表題の単語は、きれいな語感なので好きです。表紙の

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人と人との関係は壮絶だ。『栄花物語(山本周五郎)』感想

人と人との関係は壮絶だ。『栄花物語(山本周五郎)』感想

山本周五郎の全集の、タイトルだけを見て読み始めた作品です。華やかなお話かと思ったら、全くの勘違いでした。いやはや。

江戸時代の武士や町民や花魁の生活を中心に、老中田沼意次の主観をも組み入れて壮大な群像劇と成した、そんな作品でした。

田沼意次は、歴史で習った時もあまり良い印象ではなかったように思います。この作品でも、市井では商人への課税を増やすなどして恨まれていましたが、意次自身は、幕府が商人た

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美は想像しても、しなくてもいい。

美は想像しても、しなくてもいい。

サモトラケのニケが、好きです。
初めて見たのは、美術の教科書の裏表紙にあった写真でした。

「ニケ」とは、ギリシャ神話における勝利の女神の名前です。

大理石でできたその彫像は、首から上、両肩より腕を損失し、おおきく広げた翼を持つ女神の姿をあらわしたものです。やわらかな身体の輪郭を強調するように、衣服は肌へ貼りつき、つよい風が吹いていることを見る者に想起させます。
私はこの像が、ずっとずっと好きで

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わたしのおくすり。つらい時の処方箋。たらればさんの記事を読んで思ったこと

わたしのおくすり。つらい時の処方箋。たらればさんの記事を読んで思ったこと

謹直にして篤実、さらに頭脳明晰なおかつユーモアもあるたらればさん。
Twitterにて遠くから勝手に応援させて頂いています。

私は記事タイトルのうち「管理職が苦手なきみ」の側の人間ですが、それは私の職場にいる管理職の人柄から感じるのであって、実際は人間関係の軋轢に悩む、精神的にもきつい職業なのだろうと……想像しています。

大変だなあ……、と記事を読みながら(ごめんなさい)、自分の身につまされる

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人をいたわることは、見る目を変えること。映画「ワンダー 君は太陽」感想

人をいたわることは、見る目を変えること。映画「ワンダー 君は太陽」感想

「ワンダー 君は太陽」を観ました。

これは、顔に生まれつきの障害をもつ主人公が、様々なことを経験して成長していく物語――

と言ってしまえば終わりですが、それだけではありません。

これは主人公とともに、周囲の人々も「主人公と関わることによって」成長する、まさに「彼という太陽」の周りをまわる人々の物語です。

何より、こういった映画では必須ともいえる「感動路線に傾かなかった」ことが衝撃的でした。

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みんなでやると、こんなにも楽しい。映画「はじまりのうた」感想

みんなでやると、こんなにも楽しい。映画「はじまりのうた」感想

こんなタイトルをつけておきながら。

私は、一人が好きです。

ぼんやりしたり、考えごとをしたり。
その時間を、大事にしています。

でも、数人や大勢で何かをするのがとても楽しいことも、知っている。

この映画は、それを思い出させてくれます。

監督のジョン・カーニーは、アイルランド出身の元バンドマンです。

2007年に「ONCE ダブリンの街角で」を公開後、口コミで大ヒット。
アカデミー賞歌曲

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吉本ばななさんの本を久々に読んで救われた話

吉本ばななさんの本を久々に読んで救われた話

久しぶりに、吉本ばななさん著「体は全部知っている」所収の「みどりのゆび」を読んだ。

私はかつて吉本ばななさんの文庫本を買いあさり、特に好きな本は何度も何度も読んでいたほど、ハマっていた。

お気に入りの本を挙げたら枚挙にいとまがない。
「キッチン」はもちろん、「デッドエンドの思い出」「チエちゃんと私」「High and dry(はつ恋)」「海のふた」「ハチ公の最後の恋人」「みずうみ」「王国」シリ

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『私のジャンルに「神」がいます』で「神」のいない話について

『私のジャンルに「神」がいます』で「神」のいない話について

二次創作界隈をグルングルンギャリンギャリンと席巻した本を、買った。

この作品がTwitterで公開開始された当初、ほぼロム専でのんびりとTLを追っていた私は、文字通り驚愕した。

一次創作でも二次創作でも絵描きをしている、Aさん。
別ジャンルで二次創作の小説を書いている、Bさん。
もちろん二人に何ら接点はなく、その他にも多種多様な人々が、TL上でなんだかよく分からない同一の単語を使っている……

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