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展覧会レポ:ヒカリエホール「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」

【約3,600文字、写真約30枚】
渋谷ヒカリエホールで開催されているソール・ライターの展覧会に行ってきました。その感想を書きます。

結論から言うと、満足度は高かったです。その主な理由は、1)ソール・ライターを初めて鑑賞して、日本的センスに共感できた点、2)ヒカリエホールを使った効果的でメリハリのある展示方法でした。
今までbunkamuraで2度にわたり開催されたソール・ライター展に行ったことがある人でも、是非、来場をお勧めします。

展覧会名:ソール・ライターの原点 ニューヨークの色
場所:ヒカリエホール ホールA(渋谷ヒカリエ9F)
おすすめ度:★★★★☆
会話できる度:★★★★☆
ベビーカー:ストレスなし
会期:2023/7/8(土)~8/23(水)
休館日:なし
住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1
アクセス:渋谷駅から徒歩約5分
入場料(一般):1,800円
事前予約:可能だが不要なレベル
展覧所要時間:約1時間
混み具合:ストレスなし
展覧撮影:全て可能
URL:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/23_saulleiter/

▶︎ アクセス

9階にあるヒカリエホールAで開催

渋谷駅すぐにあるヒカリエの9階で開催されています。今までソール・ライターの展覧会は2度、「Bunkamura ザ・ミュージアム」で実施されました。現在、Bunkamuraは建て直しで休館しているため、同じ東急系列のヒカリエで実施されています。

Bunkamuraザ・ミュージアムで過去2回にわたって開催されたソール・ライターの展覧会は、“ソール・ライター風の写真”という言葉が市民権を獲得するほど、それまで日本ではほぼ無名だった写真家の名前を一気に知らしめ、大きな反響を呼び起こしました

公式サイト

Bunkamuraの自信に満ちた原稿が面白いです。確かに、ユニクロのUTになるほどの人気でした。ヒカリエは、渋谷駅からアクセスも良く、空間が広く、高さもあるため、Bunkamuraよりも展覧会に向いていると思いました。

ヒカリエの9階から渋谷のバスロータリーがよく見える

▶︎ 「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」

チケット

展覧会は、6つのセクションで構成されています。以下、セクションごとに気になった作品とともに感想を書きます。全ての作品は撮影可能でした。

なお、私はソール・ライターの名前と作品は何となく知ってはいたものの、実際に彼の作品を展覧会で見るのは、今回が初めてでした。前回の展覧会が終わった後も彼の名前を聞く機会が度々あったので、次に展覧会があったら是非行きたい、と思っていました(ユニクロのUTも買いました)。

入り口付近にあるフォトスポット

▶︎ ストリート

展覧会の風景。人はそれなりに多いがストレスはなかった
「帽子」。どことなく寂しそうに帽子を眺めるおじさん
「無題」。後ろのキリッとした女性とは対照的に、手前には哀愁が漂うおばあさん

このセクションでは、ソール・ライターの初期(1950年付近)の作品が展示されています。この頃の作品からすでに哀愁を感じるような、教科書的ではない彼独自のセンスを感じます。1957年には、カラー写真20作品がエドワード・スタイケンに選ばれ、MoMAで展示された、とのことです。

(2013年3月訪問)エドワード・スタイケン写真展 モダン・エイジの光と影1923-1937@世田谷美術館

▶︎ アーティスト

「ジーン・クルーパ」。この頃から手前を大胆にぼかす彼の持ち味が健在

このセクションでは、当時のニューヨークで撮影したアーティストの写真が展示されています。アーティスト説明のキャプションが長かったのでサクッと流し見で鑑賞しました。なお、アンディ・ウォーホルやマルセル・デュシャンの写真があったと後になって知りました(後悔)。

▶︎ ソール・ライターとファッション写真

壁が淡い青で塗られ、セクションごとにメリハリがあります
「ハーパーズ・バザー 1959年2月号」。ファッション雑誌なのに助手や壁で画面の半分を占める

このセクションでは、ソール・ライターのファッション写真が実物の雑誌とともに展示されています。ファッション雑誌の写真なのに、服装をメインで撮らなかったり、決めポーズでないモデルのふとした瞬間を撮ったり、ソール・ライターらしい写真が並びます。

マン・レイのようにパキッとしたおしゃれなファッション写真ではなく、ソール・ライターはアンニュイな瞬間を切り取った写真が多いです。そこには見る人を惹きつける彼独自の魅力がありました。

全体的に少ない色使い・色選びは洗練されており、そこにNew Yorkらしさを感じました。決して、TOKYOでは出せない色の雰囲気でした。

「ハーパーズ・バザー 1962年8月号」。ファッション雑誌なのにモデルの決めポーズを撮らない
「ハーパーズ・バザー 1963年2月号」。ごちゃついた色の壁なのになぜか全体的に統一感がある
「ハーパーズ・バザー 1960年10月号」。ファッション雑誌なのにモデルの顔しか写っていない。そして、洗練された色使い

▶︎ カラーの源泉 ー画家ソール・ライター

ソール・ライターの描いた絵画と写真が交互に並びます

1950年代後半には、ソール・ライターらしい大胆な構図と温かみのある色使いが確立しています。まるでジャポニズムの影響を受けたクロード・モネのような印象を受けました。ニューヨークに住みながら、余白を大胆に使って間を利用した日本的なセンスをどうやって身に付けたのか気になりました。

「タクシー、ニューヨーク」。大胆な構図とラスティな色使いが素敵
「雪」。ガラスについた雨や冬は、なぜか幼少期を感傷的に思い出します
「天蓋」。大胆に画面の3/4が真っ黒。日本的なセンスを感じます
「赤い傘」。赤い傘を全部見せない表現で含みをもたす構成も日本的

なお、このセクションで顕著ですが、展示されている作品が番号順ではなく、ランダムになっていました。そのため、私は作品リストを見て「この作品はどこだ?」と探すことがしばしばありました。実際の展示順と作品リストの順番は可能な限り揃えてほしいです。

▶︎ 終の棲家

ソール・ライターが60年近く住んだ家の再現
北向きの大きな窓が印象的なアパートは、天井には穴が開き、壁の漆喰にひびが入っている年代もの (1853年建築) の建物らしい

この展覧会全体に言えることですが、展示の構成自体に変化やメリハリがあって見やすかったです。例えるなら、まるで何度か味変を楽しめるつけ麺のような感覚でした。いくら作品が良くても、それをただ額に入れて横に並べているだけでは、あまりに無策で伝わるべきものも伝わらないです。

このセクションでは、ソール・ライターが住んでいた家を再現したり、カラースライド(ポジフィルム)を置いて覗き込む仕掛けを設置したりと、観覧者を飽きさせないキュレーションが満足度を上げてくれました。普段、ポジフィルムを見ることがない私にとっては、その鮮明さが新鮮でした。

カラースライド(フレームにマウント仕上げされる透明ポジフィルム)の展示
ソール・ライターが生前にプリントした作品は200ほどだったという
1枚1枚、とても鮮明に見える
壁面に展示されたポジフィルム
(私の抄訳)ギャラリーで会った人にこう言われた。「私はあなたの写真を持っていてね、私が朝起きてその写真を見た時、幸せな気持ちになるんだ」。私はそれはとても良いと思った。私は全く役立たずではなかったんだ。

▶︎ カラースライド・プロジェクション

展覧会の最後のセクション

このセクションでは、ヒカリエホールの大空間を利用して、10面の大型スクリーンに作品群約250点が投影されています。

映し出される写真が、とても鮮明なことに驚きました。デジカメで撮る場合でも、相当に画素を上げないとここまで鮮明に映らないのではないでしょうか。フィルムのことは詳しく存じ上げませんが、アナログでもデジタル以上の本領があるんですね。

写真をここまで大きく写すと、小さな額に入った写真では確認できない細部が気になったり、作品の印象もガラリと変わるのは印象的でした。この展示形式を考えついた方に拍手を送りたいです。今は休館しているBunkamuraでは、実現できなかった展示でしょう。ヒカリエでの開催に感謝です。

思い思いに写真撮影
立って見たり、座って見たり
是非、このプロジェクションは"体感"してほしいです

▶︎ まとめ

買ったポストカード。「無題」

いかがだったでしょうか?私はソール・ライターの展覧会に来るのが初めてだったこともあり、満足度は高かったです。日本人に共感しやすい、間の使い方と色使い。また、キュレーションや作品の展示方法に飽きない工夫が随所に施されている点も満足度が高かったポイントでした。

▶︎ 今日の美術館飯

MEGAドン・キホーテ 渋谷本店 (東京都/渋谷駅) - 大王チーズ10円パン (¥500)

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