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「専業主婦」ならぬ中国「専業子供」たち①

 「専業子供」(中国語:全职儿女 quan zhi er nv)という単語を聞いたことありますか。最近中国で増えている若者社会現象です。
  フルタイムで「子供」として労働する、と言う新しい「職業」について見ていきたいと思います。


1.「専業子供」とは

    2023年に入って中国のSNSやネットで度々出てくる話題の「専業子供」は最近日本の一部メディアにも取り上げられています。

「専業子供」は端的に言うならば、実家に住み、両親の世話をして、両親から給料をもらう人を指す。

人民網日本語版

 大学を卒業したばっかりで就職せずにGAP YEARを取る人もいれば、就職しようとしても就職口が見つからずやむ得なく一時的に実家に住み込む人もいます。また大学卒業生だけではなく、仕事のストレスを耐えられずに都市部から実家にUターンする30代もいれば、親の介護で仕事を辞めさせられて親と同居すると選択する40代もいます。「子供」と言えども若者に限ることではないです。
 ポイントは親と同居、親の世話、そして親から「給料」をもらう点です。
 では、「専業子供」の「業務」とは何でしょうか。
 「専業子供」している李さん(仮名)の一日はこんな感じです。
 6:00 犬散歩
 8:00 朝食用意
 9:00 両親に時事ニュースをシェア
 10:00 両親と散歩
 11:00 掃除
 12:00昼食用意
 14:00お母さんのドラマ鑑賞に付き合う
 16:30:晩御飯用意
 18:00両親の携帯アップリ更新を手伝う
 19:00両親とニュースを見る
 家事もし、親の日常に寄り添い、子供がいる安心感と充実感を提供することで「代価」として親から月4000元(8万円)の「給料」をもらっているそうです。
 このように、自発的にも、受身的にも子供を専業している人たちが顕在化してきている現象です。

2.「専業子供」VS「ニート」

 就労していない若者といえば、日本では「ニート」という用語がよく耳にすると思います。

 ニートは、就学・就労していない、また職業訓練も受けていない若者を意味する用語である

ウィキペディア

 「専業子供」は確かに家事労働以外の労働という一般的な意味では就労していないですが、何らかの「職業訓練」をしている人は少なくないです。
 親の日常世話以外の時間は、公務員や大学院受験、または次のキャリアチェンジに向けての準備に励むに使う人も多くいます。
 「ニート」とはまた別ものです。

3.「専業子供」が増える理由

 SNSでよく見かける「専業子供」は上述李さんのような気楽で様々な理由で一時的に実家に住み込み「子供」としての役割を果たす人は多いようですが、自己揶揄にこの用語を使っている印象も受けます。
 実際はこんな気楽なものではなく、一旦家に入った後社会復帰したくても現実の沼から身を抜け出せない人が大勢います。
 さて、「専業子供」が顕在化する背景はどんなものあるのでしょうか。

 ・都市生活コストの高騰

 「5000元(10万円)の月給から家賃2000元(4万円)と諸々の生活費を引くと手元に全然残らないですよ、けど実家に住んで家賃0、家事手伝いして親から3000元(6万円)をもらっているから前よりも貯まります」と沿岸部都市で仕事していたが今年実家に戻った30代の王さん(仮名)はSNSで呟きます。
 北京、上海、広州、深圳、かつても今も夢を追う若者たちが集まる都市では年々物価が高騰し、持ち家意向が高い中国人にとって特に給料が追いついていけない住宅購入代が若者の手の届かない夢になりつつあります。
 そして、高圧な就労環境が加え、持ち家である実家に親と同居するのは経済的負担を軽減する選択肢になりました。

・若者の就職難

 三年近く続いたCOVID-19がもたらす経済への打撃は言うまでもないです。
中国の国営、大手企業はさておき、多くの若者が勤める中小企業の倒産、リストラが日常茶飯事となり、不安定な雇用状況が続くのは現状です。
 中国国家統計局の統計によると、2023年上半期16〜24歳の青年失業率は21.3%に達しています(ちなみに、日本(15~24 歳)は 4.2%)。
 COVID-19が終わりかけた時期に、中国では若者が出店するナイトバザーが話題になっていました。

 正規職を失った若者たちが路上で屋台を立ち上げ、知恵を絞って小さなビジネスを起業して稼ごうとしていました。自由気満々のフリーランスを選択したと言うより就職難を乗り越えるための苦渋な試しだと言えます。
 2023年大学卒業者数は過去最高の1,158万人に達しているとの見込みがあり、増えない需要と増えつつける供給のアンバランスも就職難の大きな要因になっています。
 「専業子供」たちは就職できていない期間中、期限限定に実家に「避難」しています。


次回は以下の角度から続いて見ていきたいです。

・高齢者の介護問題

・中国の親子関係

・幸福観の変化

4.まとめ



Podcast:Nana在日本
個人HP:https://nana-zai-jp.com/



 

 



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