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2024小説まとめ

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2024年に集まったクリエイターでそれぞれ小説を書きました。 試験的なプログラムにおける作品群につき、それぞれの表現価値に鑑み、そのまま掲載しています。
運営しているクリエイター

記事一覧

高嶺の花

高嶺の花

作・咲夜
「君さ、何を思ってこれを書いたんだい?」
「あ、その、えっと、これは主人公が懸想した相手にーーー」
そんなことはわかってるよと相手の呆れたような声が耳朶を打つ。ああ、まただめだ。

家路をとぼとぼと歩く。昼下がり、賑わう人通りを避け、路地にはいってすぐの家の扉をガラガラと開け、力なく後ろ手でしめた。
「はあ…。またか…。」

僕は、しがない物書きである。まだ売れたことすらない、作家志望の

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ニャるお系小説~転生したら鳴尾駅近辺の猫だったので、さくっとキセル乗車してみた~

ニャるお系小説~転生したら鳴尾駅近辺の猫だったので、さくっとキセル乗車してみた~

作・猫田 歩
 宝塚記念当日。人生を懸けて臨んだその日、目が覚めると私は猫になっていた。茶色と、ちょっと濃い茶色の縞模様。いわゆるトラ猫である。貯金ができればエステにでも行こうかと考えていた腕には、密林のような体毛が生えそろい、手のひらには肉球がちんまりとある。我ながらかわいらしい。
 そんなことはどうでもいい。おびただしいデータとにらみ合い、一つの真実を見出した。今日はその答え合わせの日、宝塚記

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花占い

花占い

作・めのう

 花占いというものを、私は一度も試したことがなかった。せっかくなら、答えが予想できないほうがきっと楽しいと思って、花弁の多い花を探すことにした。
 私の家の庭は広くない。広くないし、殺風景である。例えば植物に対して、芝生と雑草の区別がつかないような、その程度の興味しか持ったことがない。どの花の苗を、どんな日当たりの場所に、いつ植えればよく育つかを、調べたこがとない。玄関を出て、もう長

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ハビタブルゾーン

ハビタブルゾーン

作・みぎりん

「会いに来てね」と彼女は言った。
 目が覚める。空はあきらかに起きなくてもいい時間帯の様子で、とても心地いいとは言えない目覚めだった。その不快さにルーカスは青と紫の混じった色を覚えた。その感覚にさえ苛立ち、仕方なしにベッドから体を起こす。
 人と人は感じていることはそれぞれ違っていて、それは当たり前なのに、わかってもらえないことがどうしようもなく耐えられないのがルーカスだった。彼は

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仮にそいつをAとする

仮にそいつをAとする

作・おいさん

【仮にそいつをAとする】
 人間、誰しも妙に記憶の端に引っかかっている人物がいるものだ。
 仮にそいつをAとする。
 Aは自身を「部活回遊魚」と名乗っていた。Aの所属は「帰宅部」または「無所属」としか言いようがない。が、実際はありとあらゆる部活に顔を出しては、しばらくそこで過ごし、いつの間にかいなくなっている…を繰り返していた。つまり、Aはこの学校のありとあらゆる部活と部室をグルグ

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遥か彼方で声がする

遥か彼方で声がする

作:朝日かる

1
 ちょっとあなた、と呼び止められて足を止めた。
 深夜三時の住宅街に人が多いわけはなく、私以外に「あなた」に当てはまるような人間はいない。同時に、呼び止めてくるような人間も滅多にいない。これが噂に聞く職務質問かとやや怯えながら振り向いたが、街灯に照らされて道路の真ん中に立っていたのは一人の女の子だった。同じくらいの年頃だろうか。果たして同じ年頃の女性を「女の子」と言っていいもの

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現代社会のユーロビート

現代社会のユーロビート

作 東道海馬

◆無意識空間のパノプティコン
「あの人が、亡くなった」
 急な知らせでございます。その日私は普段通り、縁側にて煙管を吹かせながら茫然と中庭を眺めている所でございました、するとそこに水を差すように、確かにその人の死が舞い込んできたのでございます……それのなんとまぁ唐突たるや。すぐさま煙管を放り投げ、ベランダの錠を閉めるのさえ忘れ、私はすぐさまあの人のもとへ、駆け出すのでした。いえ、決

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束の間の休息

束の間の休息

作・夢霧 凪奈(ゆめぎり なぎな)
「お父さん!!お帰りー!」
ドアを開けると、満面の笑みの愛しい我が子達と嬉しそうな笑顔を浮かべた妻が立っていた。
「ただいま、イリア、イワン、ナターシャ。ああ、我が家だ、、、、、、。」
ドアを開けたら妻と子供達が居るという事は日常である筈なのに、まるで腰から力が抜けた様な妙な安心感を覚えて、僕はどこか腑抜けた表情をしていたと思う。
「お父さん?大丈夫?」
心配そ

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