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短編小説

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短いお話です
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#ショートストーリー

【短編小説】死ね

【短編小説】死ね

 あなたの腰の上で大股開いて踊ったあの夏の夜。
「もうそろそろ終わりかな、花火」
 わたしの下で寝そべるあなたは言った。その瞬間、外から打ち上げ花火の音が聞こえてきた。それまでは聞こえなかったのに。あなたの声しか聞こえなかったのに。
「観に行けばよかったね」
 わたしの言葉にあなたは「うん」とつぶやいた。
 わたしはあなたを殺したいと思った。殺そうと思った。だから殺した。こころの奥底で。殴って殺し

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【短編小説】少年の覚醒

【短編小説】少年の覚醒

 ぼくは、もうすぐ死にます。なぜかというと、病気になってしまったからです。

 
 その日は特撮番組『アンドロイド刑事KG』の十八話の放送日でした。ぼくは楽しみで仕方なかったので、放送がはじまる十分前、朝八時二〇分からテレビの前で待っていました。どうしてそんなに楽しみだったのかと言うと、『ジャンヌT-34』のメイン回だからです。
 ジャンヌT-34というのは、婦人警官型のロボットで、とても強くて、

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【短編小説】月と地球

【短編小説】月と地球

 私は月。果てしなくつづく黒の中に、ぽつり。あなたをずっと見つめている。
 あなたの名前は地球。自然と涙が流れてしまうほど美しい青に、私は恋をした。
 だけどあなたには、いつまで経っても触れられない。近づいては離れ、離れては近づく。そういう関係。あなたは私のこと、どう思っているのかな。嫌いでなければいいな。そんなことを考えてばかりだった。
 
 最近、あなたの様子がおかしい。かつての輝きはなくなり

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【短編小説】おしゃべりの時間

【短編小説】おしゃべりの時間

「私カオリ。あなたはどうして、そんなところにぶら下がっているの?」
「それはね、揺れるのが好きだからさ」

「あなたはどうして、そんなにもしわしわなの?」
「それはね、たくさんの苦労を経験したからさ」

「あなたはどうして、そんなにも毛むくじゃらなの?」
「うーん、素顔を見せるのが少し恥ずかしいからなのかもしれないね」

「ふーん。あなたはどうして、そんなにも強いにおいを放っているの?」
「それは

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【短編小説】大いなる意志

【短編小説】大いなる意志

 この作品内において、犬・猫が負傷および絶命する描写は含まれておりません。安心してお読みください。

 その夜、浅倉五郎はサバイバルナイフを中年の女の締まりがない肉体に何度も繰り返し突き刺した。どくどくと溢れ出る血が、ゆっくりと路肩の溝に吸い込まれていく。女はすでに絶命していたが、それでもなお子犬をつないだリードを握りしめていた。人っ子一人いない、切れかけの街灯がパチパチとさえずる夜道にひとり残さ

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【短編小説】あこがれのほうき

【短編小説】あこがれのほうき

 世の中には、二種類の人間がいます。学校の掃除時間にほうきを使っても許される人間と、許されない人間です。わたしの場合は、後者。ずっとずっと、手の汚れるぞうきん係でした。
 
 小学校では、どの掃除用具を使えるかは早い者勝ちで決まりました。五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、クラスのみんなは教室の隅っこにある掃除用具入れに勢いよく群がります。ほうきの取り合いです。わたしはとてもどんくさかったけ

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【短編小説】つがい

【短編小説】つがい

 僕らはつがいとして、ともに同じときを過ごし、生きてきた。片時も離れることなく、凍てつく冬の寒さを、ずっとふたりで乗り越えてきた。それなのに、君は僕の前からいなくなった。いつか終わるときまで、いや、たとえ終わったそのあとも、永遠に一緒にいられると思っていたのに。信じていたのに。君は消えた。
 僕はひどく悲しんだ。深い闇の奥底で、どっと涙をたれ流し、叫んだ。この声は、嘆きは、君には届かない。誰にも届

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【短編小説】マリンライナーに乗って

【短編小説】マリンライナーに乗って

 今、電車が動き出した。ガコン、ガコンって、十七歳にもなって、生まれてはじめての感覚。この電車はマリンライナーっていうらしい。高松から岡山ってところまで行けるんだそう。私、ずっと高松に住んでるのにバカだから知らなかったわ。
 二十分くらい前。高松駅で「遠くに行きたいんですが!」って駅員さんに元気いっぱい叫んだら、このマリンライナーのことを紹介してくれた。「海の向こうに行けますよ」って言うから即決。

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【短編小説】宇宙人になった息子

【短編小説】宇宙人になった息子

 私は今、夜空を眺めています。ある日の息子との会話を脳裏に浮かべながら、星々がさざめく、涙が出るほど美しい夜空を眺めています。
 
 それは十二年前、息子の翔太(しょうた)が小学四年生だった頃の話です。
 
 学校の先生によると、翔太は『ちょっとみんなと違う子』らしく、母子家庭なのも相まってか、同級生からちょっかいを出されることがよくありました。でも、当の本人はと言うと、この日だってお気に入りの消

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