森合れい

ちょくちょく更新。チョクチョク、チョクチョク

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文学フリマ香川に出店したのだ

先月末、香川県で開催された文学フリマに出店者として参加してきた。素人ながら見様見真似でちまちまと書いてきた作品をまとめた短編集『破れ目』をたずさえて。 同人誌を作るのも、それを誰かに売るのも初めてのことだった。だから、すべての手順において、本当にこれで合っているのだろうかという不安が尽きなかった。正直今も、本当にあれで合っていたのだろうかという気持ちはある。 それでも、このイベントに参加できてよかったと心から思う。何より、あの瞬間の光景は、たぶん死ぬまで忘れない。 そろそ

    • 【詩】MUSIC

      やさしいことばになりたいとおもう やさしいことばになったら やさしいメロディにのって やさしいうたになりたいとおもう やさしいうたになったら きみのもってるウォークマンのなかで しずかによるをまつ よるがきたら きみがねむれるまで やさしく やさしく

      • 【詩】完成

        完璧だった わたし それなのに 直せない穴 たくさん空いた きれいじゃない跡 たくさんついた 臆病になって 嘘つきになった 手遅れなほどに 壊れてしまった 落とした部品は 一体いくつあるだろう 情けない形になったわたしは きっと完璧には戻れないとおもう すべては 貴方に触れてしまったから 貴方がとなりで笑っているから

        • 【短編小説】間違い探し

          「パラレルワールドって知ってるか?」  日曜日の昼下がり。目の前の席に座るアキオは、サイゼリヤ名物の『間違い探し』を見つめながら言った。 「そりゃあ、あれだろ。こことは違う別の世界みたいな。SFとかでよくあるやつ」 「そうそう。今いる世界とは同じようで微妙に違うらしいんだ。この間違い探しみたいに」  アキオがやけににやけた顔でおれを見る。こいつ、またインターネットで変な情報でも仕入れてきたのだろう。おれは全くその類には関心がなかったが、いい加減に聞き流す素振りを見せてしまうと

        文学フリマ香川に出店したのだ

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        • 8本
        • 短編小説
          12本

        記事

          【詩】花占い

          花びらいちまい 花びらにまい ひらりひらりと落ちていく もぎ取られては落ちていく さんまいよんまい落ちていく いきる、しぬ、いきる、しぬ いきる、しぬ、いきる、しぬ 一日一輪の花占い きいろい最後のひとひらは 「いきる」とともに落ちていく 気持ち悪いほど偶然で きのうと同じようだけど きのうと違うようでもある あしたはどうかわからない わたしはそうしていきている あなたはそうしていきている

          【詩】花占い

          【短編小説】夢が終わる前に

           きらびやかな電飾に彩られた街路樹。身を寄せ合いながら歩く恋人たち。あと三十分ほどで日付も変わるが、この夜はまだ賑わいを見せる。クリスマス・イヴ。  まぶしい夜の街並みを、ナツミとユキは一定の間隔を保ちながら、駅へと向かって歩いていた。そのふたりの間を、一瞬、鋭く乾いた冬の風が通り抜ける。 「あー寒。やっぱりファミマでおでん買っときゃよかったな」  ナツミは黒いライダースジャケットのポケットに片手を突っ込み、縮こまって缶チューハイを一口すすった。 「まだ入るの⁉ シメのラー

          【短編小説】夢が終わる前に

          パラレルワールドが生まれるのだ(中華屋にて)

          レバニラが食べたい。もう、完全に、レバニラを迎え入れるための口になっているし、レバニラの全栄養を吸収するための体になってしまっている。一刻も早くレバニラを摂取しなければ。そんな日曜の昼間(寝起き)。 レバニラで米をかきこむ、幸福な未来を想像しながら、十分ほど原付を走らせ、吸い込まれるように駅の近くの中華屋へ。 カウンター席に腰を下ろし、水をひとくち。レバニラ定食を注文することは決定事項なのだが、とりあえずメニュー表には目を通す。 だが、これが大きな間違いだった。メニュー表に

          パラレルワールドが生まれるのだ(中華屋にて)

          【詩】寿命

          僕は不老不死の男です かれこれ二千年くらい生きてきました しかし、これといった思い出もなく ただ終わらぬ日々を過ごしています 人は八十年やそこらで死んでゆきます 僕にはそれが羨ましくて仕方ないのです 一口で胃がもたれてしまいそうなその人生を 噛み締めながら、飲み込みながら逝くのでしょう 人はなぜ生きていくのか 人はなぜ死んでいくのか そんなことを考える暇もないくらいに 生きてみたいと願うばかりです もしも寿命があったなら なにかをもっと大切にできたでしょうか もしも

          【詩】寿命

          【短編小説】死ね

           あなたの腰の上で大股開いて踊ったあの夏の夜。 「もうそろそろ終わりかな、花火」  わたしの下で寝そべるあなたは言った。その瞬間、外から打ち上げ花火の音が聞こえてきた。それまでは聞こえなかったのに。あなたの声しか聞こえなかったのに。 「観に行けばよかったね」  わたしの言葉にあなたは「うん」とつぶやいた。  わたしはあなたを殺したいと思った。殺そうと思った。だから殺した。こころの奥底で。殴って殺した。刺して殺した。焼いて殺した。首を絞めて殺した。毒を飲ませて殺した。バラバラに

          【短編小説】死ね

          【詩】たすけないでください

          僕に優しくしないでください 何もお返しすることができません 僕を褒めないでください 誰でもできることをやっただけです 僕を認めないでください 何の役にも立てていません 僕を許さないでください 僕に授けられた罪と罰を どうか奪わないでくれませんか 僕を慰めないでください 僕を愛さないでください 足りない僕が悪いのに いつも誰かを妬んでは いつも誰かを裏切って いつかあなたを傷つけます だからどうか 僕をたすけないでください 僕はどうしようもない出来損ないで どうしよ

          【詩】たすけないでください

          【短編小説】少年の覚醒

           ぼくは、もうすぐ死にます。なぜかというと、病気になってしまったからです。    その日は特撮番組『アンドロイド刑事KG』の十八話の放送日でした。ぼくは楽しみで仕方なかったので、放送がはじまる十分前、朝八時二〇分からテレビの前で待っていました。どうしてそんなに楽しみだったのかと言うと、『ジャンヌT-34』のメイン回だからです。  ジャンヌT-34というのは、婦人警官型のロボットで、とても強くて、頭が良くて、優しいです。でも少しがさつで口が悪いというところもあって、そのギャッ

          【短編小説】少年の覚醒

          【詩】魚かもしれない

          私は魚かもしれない 魚でないというのなら どうしてこんなにも地上は息苦しい 魚でないというのなら どうしてこんなにも人の話がわからない 魚でないというのなら どうしてこんなにも奇異の目で見られる 私はたぶん魚なのだ ひれやうろこはないけれど 自分のことを人間だと思い込んでいただけの魚だったのだ ここは私のいるべき場所ではない 早く帰らなければ あの青く澄んだ、自由の海に 私は魚なのだから

          【詩】魚かもしれない

          地球とともに死にたいのだ

          人間という種はだいたい80歳〜100歳辺りで死ぬ作りになっている。私も順当にいけばあと60年、長くて80年ほどしかこの地球上に存在できない計算である。 生物である以上、死というものからは誰ひとりとして逃れられない。それは人間たちの間では周知の事実である。皆、いつか自分が死ぬことを知りながら生きているのだ。だから、ふとした会話で『理想の死に方』のようなものが議題にあがったりする。 皆それぞれ意見はあると思うが、やはり『天寿を全うし、愛する家族に看取られながら死ぬ』というのが一

          地球とともに死にたいのだ

          【短編小説】月と地球

           私は月。果てしなくつづく黒の中に、ぽつり。あなたをずっと見つめている。  あなたの名前は地球。自然と涙が流れてしまうほど美しい青に、私は恋をした。  だけどあなたには、いつまで経っても触れられない。近づいては離れ、離れては近づく。そういう関係。あなたは私のこと、どう思っているのかな。嫌いでなければいいな。そんなことを考えてばかりだった。  最近、あなたの様子がおかしい。かつての輝きはなくなり、なんだかすごく苦しそう。風邪をひいたのかな。熱があるのかな。それとももっと大変

          【短編小説】月と地球

          背中の皮がはがれるのだ

          先日、生まれてはじめて沖縄旅行をした。数年ぶりに海にも行ったのだが、日焼け止めも塗らず上裸で走り回ったせいで背中に大ダメージを負ってしまった。 海から帰り、那覇のホテルで風呂に入るために服を脱ぐと、背中が真っ赤になっていた。私は不健康的な青白い皮膚をしているため、さながら日の丸弁当の梅干しの色が移った白飯みたいであった。 激痛というほどではないが、水をかけるとピリピリとした刺激が走る。 面倒だからと横着せず日焼け止めを塗っておくべきだったと後悔。 それから三日ほどが経ち、

          背中の皮がはがれるのだ

          【短編小説】おしゃべりの時間

          「私カオリ。あなたはどうして、そんなところにぶら下がっているの?」 「それはね、揺れるのが好きだからさ」 「あなたはどうして、そんなにもしわしわなの?」 「それはね、たくさんの苦労を経験したからさ」 「あなたはどうして、そんなにも毛むくじゃらなの?」 「うーん、素顔を見せるのが少し恥ずかしいからなのかもしれないね」 「ふーん。あなたはどうして、そんなにも強いにおいを放っているの?」 「それはもちろん、敵から身を守るためさ」 「ねえ、さっきからそんなに縮こまって。どうか

          【短編小説】おしゃべりの時間