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【短編小説】死ね

 あなたの腰の上で大股開いて踊ったあの夏の夜。
「もうそろそろ終わりかな、花火」
 わたしの下で寝そべるあなたは言った。その瞬間、外から打ち上げ花火の音が聞こえてきた。それまでは聞こえなかったのに。あなたの声しか聞こえなかったのに。
「観に行けばよかったね」
 わたしの言葉にあなたは「うん」とつぶやいた。
 わたしはあなたを殺したいと思った。殺そうと思った。だから殺した。こころの奥底で。殴って殺した。刺して殺した。焼いて殺した。首を絞めて殺した。毒を飲ませて殺した。バラバラにして殺した。殺して、殺して、殺して、殺した。むきだしの下半身を必死に上下させながら。
 あなたは追い出したんだ。わたしを。ふたりで作った宇宙から。つながったまま追い出したんだ。
 終わりに向けて次第に大きくなっていく花火の破裂音。次第に激しくなっていくわたし。
 汗で濡れたわたしの薄っぺたな胸の反対側は、血にまみれた。そこら中に散らばったあなたの破片の真ん中で、わたしは嗚咽した。あなたは気づいていなかっただろうけど。
 最後の花火がひらくと同時に、あなたはわたしの中にぶちまけた。
「ねえ……好き……」
 あなたはそう言ってわたしの髪をやさしく撫でた。
「わたしも」
 最後のキスは、からだをゆっくりと引きちぎられるよりも痛かった。

 あの夜から六年。
「ママみて! はなび!」
 りんご飴を握る五歳の息子が、夜空に広がる満開の打ち上げ花火に目を輝かせる。息子の笑った顔は、やっぱりあなたに似ている。やわらかく愛らしい二重のまぶたなんて、あなたのものを取って付けたよう。

 わたしは息子を殺したいと思った。殺そうと思った。

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