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2023年詩

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#詩作

192「詩」翼の折れた天使

192「詩」翼の折れた天使

うまくいかないことばかり。いつもこんなだ。
空をみあげる。わずかに星が揺れているのに
気づく。星を揺らしている誰かがいる。飛べない天使だ。天使の翼を折ったのは誰だ。

暗闇に金属製の鈴の音がかすかに。星のぶつかり合う音だ。鳴らしているのは小さな子どもたち。酷い怪我の跡がある

もっと生きたかったんだ。
いい子にしてたよ。
お母さんのお手伝いもたくさんした。
周りの人にも優しくしたし
ご挨拶だってち

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191「詩」ひとひら

191「詩」ひとひら

はらりとひとひら
いちばんはじめに落ちた雪は
どうして落ちようと思ったのだろう
ひらりとひとひら
いちばんはじめに落ちた葉っぱは
どうして落ちようと思ったのだろう

仲間がだれもしらない世界に
ひとひら舞いながら

冬の始まりを
誰よりも早く伝えたかったのだろうか
秋の澄んだ空の欠片を身体中で
受け止めたかったのだろうか

190「詩」縄

190「詩」縄

生まれ落ちたその瞬間から
背負っている重荷がある
重荷に気づく時がやがて来る

人の言葉が縄目のように捻れている
言葉の奥で気持ちが捻れ
心が重く硬い塊になる

ぶつかり合う塊

縄目を解いてしまえば
毛羽だっているけれどまっすぐな縄だ
ぶつかり合っていた縄が平行になる
並行になった縄は
まっすぐにまっすぐに見えなくなった
その先でもぶつかり合うことは
けして ない

地層になって
どこまでも伸び

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155「詩」一瞬の

155「詩」一瞬の

誰にも理解されない悲しみをそのまま
包んで空はその
大きな瞳に
ただ
ただ
静かに
涙を流してくれた

記憶の中に住んでいる小さな女の子は
言葉に出来ないまま大きな
悲しみを抱いた
まま
ただ
そっと
空を見上げる

ぐるりと回って
空を見る

雲の一瞬の画像が
果てしなく増える
見上げる人々の一瞬の
気持ちもまた
果てしなく増えている

一瞬の空の画像が
地上を包む
地上に住む誰かの
一瞬の気持

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154「詩」ミサ曲のために

すべての人は
わたしのもとに来なさい
休ませてあげよう

両手を広げたその人は
ありのままの人間をみていた

人種や身分などどうでもよかった
どんな宗教を信仰していてもよかった
身に纏ったものに囚われることなく
ただそのままの人を大切に思う
神さまの思いを大切にしていれば
それでよかった

自分に都合が良いように
垣根の作ってきたのは人間たちだ
国の選んだ宗教と違うから
受け入れてもらえない音楽だ

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153「詩」暗闇だった

153「詩」暗闇だった

——— 言葉の内に命があった。命は人間を照らす光であった。光は暗闇の中で輝いている。
暗闇は光を理解しなかった。———-
<ヨハネによる福音書1.4〜1.5新共同訳聖書から引用>

暗闇だった
八方塞がりで
進む道を手探りで見つけていた
足元がぼんやり見える
注意深く一歩一歩
擦り傷だらけの足を前に進める

壁に当たる
どんな硬さの壁なのか
暗闇の中ではわからない

引き返して
また違う方向に

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152「詩」地下通路の猫たち

152「詩」地下通路の猫たち

昼間は
地下道の猫の壁画です
じっと動きを止めて
ここを通る人々を
観察しています

ここを通る人々は
いつも前を向いて忙しそうに
足速に駅に向かいます
わたしたちが
まばたきをしても
人々が気づくことは
ありません

わたしたちの前を通り過ぎる人々を
注意深く
監察しているのです

わたしたちは
前を通り過ぎる人々の
どんな小さな悲しみにも
気づきます

どんなに笑っていても
どんなに嬉しそうに

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151「詩」ススキ

151「詩」ススキ

陽が沈んだ後に
光の筋が星のゆくえを教えている
まっすぐにのびた光のその先に
星に変わったタマシイたちが
またたいている

やりかけていたことが
終わらなかった
大好きな人たちに
何にもしてあげられなかった

地上でやり残したたくさんの思いが
せめて
せめて地上に届きますように

星に変わったタマシイたちの思いを
受け取るように
秋風が吹きはじめている

冬を迎える前に
彩り始めた秋風が
ススキの

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150「詩」託されたもの

150「詩」託されたもの

ハンブルクのお爺さまからいただいたの
この食器は100年以上経っているの
昔日本に帰国する日に
アンチェから手渡された

あなたの雰囲気によく合うから
私ではなく
あなたが持っているべきなの

幾重にも幾重にも過去で包装された
荷物を手に取る
過ぎてきた時間の分だけ
ずっしり重い

一枚一枚包まれた過去を取り除く
現れたのは
羽のように品のいい
金色だけで描かれた食器

お茶を注がれ
お爺さまから

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142「詩」立ち尽くしたまま

142「詩」立ち尽くしたまま

やりたかったこと
心に描いていたことが
光の腕からこぼれおちていた

それは
片隅で泣いている小さなこどもの
涙をぬぐうはずだった
それは
押しつぶされそうになっている大人たちの
荷物を少しだけ軽くしてくれるはずだった
もしかしたら
今泣いてる人の未来に
ほんの少し温かな風をおくったかもしれない

思い違いや誤解が
妬みや嫉妬に変わると
手がつけられない武器になってしまった

どうしても受け入れた

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141「詩」朝

141「詩」朝

だいじょうぶ
そのままで
ささやくように
どんな人にも
平等に夜が明ける
どんな人にも
平等に朝日が射す

眩しいよ
こんなに分け隔てないことが

140「詩」夕焼け

140「詩」夕焼け

いったいどこからこんな赤を
集めてきたのだろう
地上にある絵の具をぜんぶ吸い取って
描いても足りない
それを
惜しげもなく
ほんのひとときで消してしまう空

見ている人間たちの
汚れた部分も
いっしょに

※ご紹介
写真を使わせていただいてる写真家さんです。
中学1年の時からのお友だち、
教室では私の前の席でした。

139「詩」満月

139「詩」満月

満月が
光る

夜道を行く人が
少しでも歩きやすくするために
待っている人のもとに
迷わず辿り着けるように

眠りについた人が
ゆっくり身体を癒せるために
やってくる明日に
新しい自分を描けるように

祈る人たちの願いが
少しでも遠く神さまに届くために
どんなに小さな願いも
見失わないように

138「詩」空

138「詩」空

仕事が終わって
外に出ると
一日を労うような空が広がっている

僅かだけどお金を稼げたことに感謝し
疲れた足を引き摺りながら
家路につく

空が争いのない地上を祝福し
明日に導いている

武器の行き交う地上では
涙ぐむ人々に
ただ寄り添うことしかできなかった空

悔やむように
茜色に