健康意識、高まる

精神科の病院に行ったことがないので診断されたことはないけれど、おそらく私はうつ病だった。
親に虐待され、精神的におかしくなり、毎晩のように発狂していた。
外ではニコニコ仮面をつけながら、なんとか日々、地べたを這いつくばりながら生きていたように思う。
このまま消えられたらどれだけ楽か……と、何度も首を絞めた。

最近『「子供を殺してください」という親たち』という漫画を読んだ。
私は統合失調症についてはあまり詳しく知らないのだけれど、漫画には統合失調症の人たちがたくさん出てきた。
そこでは、妄想が酷く、被害者意識も強い人たちが描かれていた。
おかしかった時、私も妄想が酷かった。
漫画ほどではないにしても、なにか一つでもボタンをかけ違えていたら、同じようになっていただろう。
家に帰っても安心できず、盗聴や盗撮をされているのではないかと、部屋の物をすべてひっくり返して確かめないと気が済まなかった。
ぬいぐるみも一つずつ潰して、中になにも入っていないか確認した。
携帯のカメラ機能で、目には見えない赤外線が映ると知ると、さっそく部屋を暗くして試した。
いつ親に殺されるかわからないと思い、サバイバルナイフや模造刀、エアガンも隠し持っていた。
きっと、当時精神科にかかっていたら、私も統合失調症と診断されていたかもしれない。

自分や親と死にものぐるいで向き合った私は、なんとか疑心暗鬼から抜け出すことには成功した。
けれども、同時にうつの症状が出始めた。
全身がとにかく重い。
体が重すぎて、立っていられない。
手を挙げることすら億劫だった。
だからお風呂に入れないし、歯磨きもできないし、食事も着替えも面倒だった。
なんとか、人に会う日は頑張っていたけれど、誰にも会わない日は必ずサボった。
時には26時間寝た日もあった。
途中起きていたらしいが、少なくとも私の記憶にはなく、夢遊病のような状態だった。
母は夢遊病状態の私に話しかけ、何か約束事をしたらしいが、私にはその記憶がまったくなかった。
最初、母はイライラしていたけれど、そんな日が続くと苦笑いに変わっていった。

お風呂に入れず、着替えもできないと、家族からは「汚い」、「臭い」と罵られた。
歯磨きをしなければ「口臭いよ」と言い、顔をしかめ 口元を手で覆った。
家族にそんなことを言われずとも、私は自分が心底嫌いだった。
「なぜ私は何もできないんだろう?」
そんな無力感に、ずっと押し潰されていた。
箸を口に運ぶのが面倒で、食事は本当に厄介だった。
うつ伏せで寝ていれば、不思議と空腹感は消えた。
元々食に興味があまりなかったのも大きく影響しただろう。
やがて1日1食、食べるか食べないかの生活になった。
体重は2週間で10kg減った。
もうすぐで30kg台に突入するところだった。
部屋は南向きだったから、雨戸を閉め切った。
健康的な人間であれば、南向きの部屋を存分に活かして、日光を目一杯浴びるだろう。
でも私にとって太陽は、敵だった。
目に突き刺さるような光は、まるで私を攻撃しているかのようだった。
だから私は雨の日が好きで、わざわざ雨の日に雨戸と窓を開けて、深呼吸した。
雨が私の汚れをすべて洗い流してくれるような気がした。

親との問題を解決した後、お風呂や歯磨き、着替えが普通に出来るようになった。
たまにサボったけど、「この程度なら、普通の人もあることだろう」と思えるほどだった。
太陽の光も心地良く感じた。
北海道に旅行すると、初めて食事を美味しいと感じられて、感動した。
それから、積極的に美味しいものを探すようになった。
でも睡眠時間は変わらず、長かった。
10時間は寝ないと体がもたない。
なのに夜ふかしするものだから、めちゃくちゃだ。
それでも、私は満足していた。
かなり健康的になれたし、親との問題を解決したことで自信が持て、病むことも減った。
一緒にいて「楽しい」と思える友人もできた。
(その前にも友人はいたんだろうけど、私の心が整っていなかったからこそ、誰のこともちゃんと友人と思えていなかった)
だから「これでいい」と思った。
「これ以上は、もう望むまい」と思った。

そんな時、パートナーに出会った。
心から自分を愛してくれる人に、初めて出会った。
心から愛せる人に、初めて出会った。
「これ以上は望むまい」と思っていたところに出会ったから、感覚としては「棚からぼた餅」といったところだ。
たくさん喧嘩もしたけれど、それは必要な喧嘩だとわかっていた。
別れることはあり得なかったし、これから先も一緒にいたいからこそ、必要な喧嘩だった。
そうして私は、人生で初めて、本当の絆を紡いだ。
最初は遠距離だった。
2020年から、一緒に暮らし始めた。
さらに絆が深まった。
もう、家族以上に家族だ。

そうして私は、意識的に健康を目指すようになった。
目を酷使してるから、目薬を頻繁にさし、ホットアイマスクをやり、サプリを飲む。
歯磨きは1回10分以上して、モンダミンもやる。
お風呂は稀にサボるけど、ほとんど毎日入っている。
ボディクリームや化粧水なんて塗ったこともなかったけど、ペタペタ毎日塗っている。
最近はシミとシワが気になり始めて、改善クリームも塗っている。
「やっぱり30手前になると、お肌も手入れしてあげなければならないのだ!」と、散々サボってきた身で、ほざいてる。
料理もほぼ毎日している。
調味料はほとんど無添加だ。
ただしストレスは良くないから、ジャンキーなものが食べたくなったら、本能に従うようにしている。
家で仕事をしていると運動不足になりがちだし、そもそも運動が嫌いだから「まずは散歩から」と思い、仕事帰りのパートナーのお迎えにも行く。
なんて素晴らしく健康的なんだろう!

そういえば、病んでる時は、よく母に「ゴミ屋敷だね」と言われるほど部屋が汚かった。
ゴミは捨てていたのだけれど、たしかに足のふみ場もないほど、床一面に洋服とぬいぐるみを敷き詰めていた。
経験から、精神を病むと、ゴミ屋敷になりがちなのは事実だと思う。
そんな私は、今ではパートナーに「これ、使わないなら捨てるよ」と偉そうに言っている。
パートナーには「すぐ捨てようとしちゃうんだから!」と慌てられる。
おかげで家はそこそこ綺麗に保たれている。
(本当はもっと大幅にいろいろ捨てたい)
将来は、必要最低限の物で暮らすのが理想だ。
とは言え、家にはあたたかみも絶対に必要だと思うから、ミニマリストになりたいわけでもない。
塩梅は難しい。

「体の健康は心の健康につながり、心の健康は体の健康につながる」という。
そのとおりだと、今日までの人生を経て思う。
私の場合、心の健康がズタボロすぎて、先に体を整えようとしたところでどうにもならなかった。
病んでいる時、部活をしていた時期もあったし、ジムに通っていた時期もあった。
けれども、あまりに心がズタボロすぎて、その程度ではどうすることもできなかった。
そして私はまず、心を整え始めた。
心が整うと、自然と体も整った。
さらに、心が潤うと 体の健康意識まで潤うようになった。
しかも「無理せず」だ。

こういう時、心底思う。
「死ぬ思いしてまで、親との問題を解決できて良かった」と。

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