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労働と信仰のラブソング 旅芝居、好き嫌いとズレと生きること
それは手踊りだった。
もはや手話の域ですらある、
歌詞にとても忠実な。
歌詞に沿って気持ちから出てくる振りだ手だ仕草で動きだと思った。
決してきれいでちゃんとしたとは言いにくい劇場で。
自分と息子と、
ずっと役者をしてきた訳じゃない娘たちと、
お手伝いの若い子と、
数日間ゲストのフリーの女優さん(この後、次の記事にこのまま続けます)、
一日や一か月の舞台をまわしてゆくには限界に近いようなメンバーや状況、
いや、いろいろもう限界はとっくに超えているのであろう状態で、
若くないけど、
明るい色のウィッグで、
最後はお決まりの「脱ぎ」も披露して、
決して正統派ではない彼はクネクネや手踊りや笑顔で踊っていた。
客席って勝手だ。
特に、旅芝居・大衆演劇という
「役者をみるもの」という意味が大きくなりがちな舞台では、
客の〝好き嫌い〟という主観、
いい悪いをも越えた好き嫌いの方がまかり通ることが多い。
まかり通るどころか、それが日々の集客(大入り)に繋がる、直結する。
殊に、人数が揃わないままの独立や旗揚げで小さな劇団が乱立するも、
同じ客が同じ圏内の劇場をぐるぐるとまわっているような昨今の状況では、
劇団と劇団の生存競争が激しくなる。
思う芝居をしたい、力を入れたい、とは違うことに力を入れざるを得なくなったり。
昨今の客の要望や風潮を取り入れたり聞き入れたりせざるをえないことで、
舞台以外のことや、舞台でも思うことではないことをやったりとか、
愛想とかグッズや食べ物などの配りものとかイベントとか交流会とかそれがホスピタリティがあるだのファンサが素晴らしいだのと高評価になり噂が広まったり、
客席は客席だからそりゃあ好き勝手なことを言って信じたいことやものだけを信じて信仰して好き勝手に選んで好き勝手をする。
好き勝手ならまだしも、
見たいように一方的にとか理想の押し付けとか、
その押し付けを正義として広めたりとか、
旅芝居界の狭い世界でのSNSの妙な広まりとか、
ああ、「男と女のあいだには暗くて深い川がある」とは『黒の舟唄』だけれど、舞台と客席のあいだにも暗くて深い川があるのかもしれない。
いや、川を越えて谷かな。永遠に。底なしの。
客は選ぶだの移るだのフェードアウトするだのしたらいいしする。
でも舞台上の者たちはそうはいかない。
旅芝居の舞台は続く、舞台が日々であり人生であり、ずっと続く。
恋瀬川翔炎座長の舞台を観ると、
そんな舞台と客席の、いや、人間と人間のズレのようなもの、
ズレと、偶然と、
生きること生きて行くことの苦しさとか切なさとか、
でも愛おしさのようなものをいつも思わされる。
名前通り、文字通り「炎」のような。
芝居は(実は)正統派。
ちょっと異端な新作を作ったりもされる。
古典を演じる姿は杉良太郎、声もそっくりだ。
でも多く話題にあがるのはその舞踊と踊る姿。
正統派、とは違う。
自称芝居通正統派しか認めません客が眉を顰めるような舞踊も少なくない。
むしろ、それ系舞踊の元祖的な一人じゃないか。
そして、歌。十八番として毎日歌っている『炎』。
旅芝居界の名物といってもいい風景であり芸であり舞台といってもいいんじゃないか。
パク……もとい真似している座長もいるし、
ていうかパクリを越えて「型」でありお家芸的なコールアンドレスポンスの一体感。
ちなみに、原曲の歌手・冠二郎からも「公認」されているというからすごい。
でも、先日わたしが観た日はフルコーラス3番まで歌わなかった。
2番まで歌っていたとき、
マイクに不調が生じたようで、途中で顔色が変わった。
お手伝いの若い子が舞台袖からかわりのマイクを持って走ってくる。
「こういうときね、怒れないんですよね。一生懸命やってくれてるからね」
顔色は戻ったけれど戻らなかった。
最後まで歌わずに、次の出番の準備のため、帰って行ってしまった。
本当に座員が少ない。
この何年か、何年も、多くはない。
でも今、一番少ないというか、マジ、限界突破サバイバー。
そんな中、踊っていたのを観た。
五木ひろしでの正統派もいい。渋い。
そう、このひとは渋いんだ。
でも待ってた、待ってたんだ、
〝もうひとつの方〟を、〝それ系〟を。
だから、イントロが歌い出しが流れてきた瞬間に吹き出してしまった。
来た。来たよ。
踊りだしたのはFUNKY MONKEY BABYS、『告白』。
言うよ。踊れないやんこんなんリズム的に。
言い方悪いか。
日舞とかのメロディーちゃうやん。
サビまでの部分ちょっとしたラップみたいな語りみたいなのやし。
手踊りだ。手話だ。
鬘っていうかウィッグで丁寧に丁寧に歌詞のアテ振りをする。
いつも言う。わたしはこういうのが好きじゃない。嫌いだ。
若い役者などが流行りの今時の曲なんかで蠢いていて蠢いているとか
「チャラチャラとキャーキャー」な状況が気持ち悪い。
真顔になる。怒りじゃない、その一段階上、無の真顔だ。
でもね、それはわたしの好みだ、好みでしかない。
なにがわるいねん。
ええやん。めっちゃええやん。
歌詞に沿って、自分の体で、
目の前の客席に、見せて、踊っている。
それを喜ぶ人がいて、喜んでいる。
それが、それも、今の旅芝居、なのかもしれない、なのだ、きっと。
それを「絶対にこうすべき」とか、
見下したり否定したり排除しようとか、
それって、それもなんだかとても傲慢なことじゃないかな。
「観る目ある自分」に酔っているとかもあるんじゃないか。狭いんじゃないかな。
この座長は、その舞台は、なんだかいつも教えてくれるような気がする。
必死に。全力で。炎燃やして。
わたしはそれにそこに哀愁すら感じたりして、
ああ、それが、そこが、〝旅芝居の旅芝居であるところ〟じゃないかな、って。
例えばチャラ&キャーとか、大熱狂とか、
くねくねとか時に下世話や猥雑も含めた、それ、それも、それが、いろんなが。
そう、これも「私の」受け取り方であり、観方だ。
いろんなひとがいて、いろんな劇団があって、それぞれに好きな人や応援する人がいる。
目の前でほんとひとつひとつアテ振りをする姿に
めっちゃ笑ってしまいながら、
泣いたらええのか笑ったらええのかなんで笑ってるのかわからないけれど
なんだかずっと笑ってしまって、でも、ちょっと泣きそうになった。
ファンモンだからかな。
アツすぎて照れとかそんな風になるけれどでもあのアツさだからめちゃ、めっちゃエール感あるファンモンだからかな。
せやな。でもそれだけじゃないよな。
笑いながらスマホのシャッターを押す手が止まらなかった。
息子さんである若座長目当て(?)のイケメン好きの我が友人も喜んでいた笑ってた。
これは、「やっぱ大好きしか出てこない」みたいなののところ!
![](https://assets.st-note.com/img/1700665755168-dfu1cfew9q.jpg?width=1200)
そして、ユンケル!
![](https://assets.st-note.com/img/1700665838167-HCymiEzhvN.jpg?width=1200)
(飛翔座・恋瀬川翔炎座長 2023・11.17 昼の部・庄内天満座)
*
2年前に書いた『炎』のこと。
◆◆◆
以下は、自己紹介 。よろしければお付き合い下さい。
構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。
普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。
劇場が好き。人間に興味が尽きません。
舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。
某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
詳しいプロフィールや経歴やご挨拶は以下のBlogのトップページから。
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めっちゃ、どうぞ。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
【Twitter】と【Instagram】 など、各種フォローも、とてもうれしいです。
先日、ご縁あって素敵なWebマガジン「Stay Salty」Vol.33の巻頭、
「PEOPLE」にも載せていただきました。
5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋もやっています。
参加した読書エッセイ集もお店と通販で取り扱い中。
旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)です。
noteは「ほぼ1日1エッセイ」、6つのマガジンにわけてまとめています。
旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
YouTubeちゃんねるで過去映像が公開中です。
こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いています。
あなたとご縁がありますように。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
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