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旅芝居スケッチブック

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きれいや格好いいだけじゃない、旅芝居・大衆演劇は「人が生きること」そのもの
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華の刻

淋しさって一体なんやろ。なんなんやろね。 戯曲『淋しいのはお前だけじゃない』を読んだ。 タイトルがいいじゃないか。 今更だけれども。 ご存じの方も多いかもしれない、 市川森一脚本、1982年に放送されたTBSドラマ、の戯曲本だ。 借金取りの西田敏行が借金をしたやつらと旅芝居の一座を結成する。 座員は彼と彼から借金をした素人たち。 座長はヤクザの愛人だった女剣劇座長の娘(木の実ナナ)で、 看板役者はその男である旅役者(梅沢富美男)、 この二人もまた彼から借金をしている。 っ

芝居小屋と人

自分で自分の書いたものを改めて引用するなんて全然よくない。 でもふとそうしたくなったのは、 読み終えたとある1冊が、ほんとうによかったからだ。 読みながら何度もぐっときて、じぃんとして、 読み終えて、そうしたくなったからだ。 直木賞受賞作だし、人気作だし、 尊敬する劇作家たちも薦めていたから気になってはいた。 にもかかわらず、手に取るのが遅くなったのはすごくしょうもない理由だ。 「もう時代小説はええかなあ」 うんと若い頃一時期、ずっと時代小説を読んでいた。 心はずっと江戸

芝居小屋

旅芝居の話、芝居の話、舞台の話。 いやこれはたぶん人間の話じゃないかとも考えもする。だからいま書きたいと思った。 旅芝居・大衆演劇を観る機会が何度かあり、思ってもいなかった観劇の機会に恵まれたりもしたし、SNSで流れてきた旅芝居へまつわる提言めいたものというかそのようなものも目にした今月の最後に。 どうしても一方向からの発信となってしまうことについてはすごく悩んだ。 以下はあくまでわたしの観方考え方、 ひとつの客席を埋めるだけのわたしの観方考え方でしかなく正しいかもわからない

田園

芝居小屋とはなにかおおきなものの縮図だよな、 とは常々思っているのだけれども。 昨日、フード着物にキメキメダンス…… ダンスでもないか、 キメキメばりばりに目線を配りながら 玉置浩二の『田園』を踊っていたヤンキーみ多々の若い役者を見た。 ズッコけ、ツッコミ、真顔になり、笑い、 でもまた真顔になるわたしの心身をあの歌詞とメロディーが通ってゆき、 舞台上の役者の胸元は華やかになった。 生きているんだなあ。 お祝い? じゃないが、 この日のいわば主催イベントの主であるベテラ

かぶき者

年末に近所じゃないけど近所のおおきな商店街に出かける用があった。 その際、近くにある芝居小屋の宣伝で貼られていた 旅芝居・大衆演劇のポスターを見た親戚姐(以前にも書いた北斗の拳とベルセルクなこの人)が言った。 「なんか、、、これ、どうなん?」 わたしは答えた。「極めてとても〝ヤンキー的なもの〟やなあ」 親戚姐はつぶやいた。 「竹の子族とかよさこいとかそういう流れの中っていうか、それ的な?」 「そう、そんなやつ」 「あー」 「なんか、なんかそういう1ジャンルとして独自の進化と展

喝采と花

「それでも舞台に立つ」という歌と「すべての人の心に花を」と伝える歌を美しさとアクの強さの両方を感じさせる夫婦がそれぞれに踊った。 『泣き虫三姉弟』でお馴染みの劇団だ。 『ザ・ノンフィクション』がそのようなタイトルを付けて長年密着し放送をした。 「大衆演劇の楽屋で生きる子供たちの笑い泣きの舞台の日々」 といういかにもあの番組な「らしい」「泣ける」旅芝居・大衆演劇像が、 何年にもわたり日曜昼のお茶の間に流されたこと自体がいいか悪いか好き嫌いかはさておいて。 三姉弟(プラス

流転

ヤンチャで、おきゃんで、強くて、 何がわるい。ごめんあそばせ。 女、ひとり。私は役者。性別? 年齢? それがなにか? うれしくなった。いや、うれしい。 どこを切り取っても「かたち」がきれい。 曲の中の世界に居る。曲の中の人。 へらへらともの欲しそうにお客さんに媚びない。 変に表情をつくらない。 でも明るい曲での舞踊では時ににこっと笑う。 にこっとじゃないな。「にかっ」だ。 その「にかっ」の顔には、書いてある。 書いてないけど、まるで言っているようにわたしには見える

労働と信仰のラブソング

それは手踊りだった。 もはや手話の域ですらある、 歌詞にとても忠実な。 歌詞に沿って気持ちから出てくる振りだ手だ仕草で動きだと思った。 決してきれいでちゃんとしたとは言いにくい劇場で。 自分と息子と、 ずっと役者をしてきた訳じゃない娘たちと、 お手伝いの若い子と、 数日間ゲストのフリーの女優さん(この後、次の記事にこのまま続けます)、 一日や一か月の舞台をまわしてゆくには限界に近いようなメンバーや状況、 いや、いろいろもう限界はとっくに超えているのであろう状態で、 若くないけ

劇団☆新感線の『野獣郎見参』は好きな芝居のひとつだ。 作者の中島かずきが「〝いのうえ歌舞伎〟リスタートとなった作品」と言っているが、今も人気の同劇団の芯や方向性を感じるような1本だと思う。 安倍晴明や陰陽道をベースにした、人と妖、 同劇団が得意とする伝奇活劇(チャンバラ)だ。 晴明ブームは初演時にはまだなかった。 映画の陰陽師だったり、OSKの『闇の貴公子』が上演されたり、 で、晴明神社がなんか観光チックになったりしたのは、 再演の前後だったように記憶している。 同劇団らしく

うつくしさも、グロテスクさも

ロビーに設置されたポストに気付いた。 「三回忌追悼特別興行」 私が行った日はその第2弾。 前半に行われた故人と親しくしていた座長たちを集め偲ぶ特別公演に続き、劇団だけで夫であり父であり祖父であり師匠だった彼を偲ぶ公演だった。 好きな作家が手掛けこの日初演となる芝居を目当てに訪れ、休憩時間にふと目に入ったのが件のポスト。 「故人にメッセージを書いて下さい」 「抽選で粗品を差し上げます」 粗品要る?! と芸人粗品的ツッコミを入れてしまったのだが、 このポストと手紙が公演のハイライ

20XX年に

古いアニメや漫画を語ったり、 キャラの台詞や引用をすると「さむっ」「知らんし」となる時代らしい。 『ベイビーわるきゅーれ』の主人公たちが言っていた。 このところ仕事中のBGM代わりが『北斗の拳』だったわたしには「!」である。 せやけどここからどんどん広がっていった、考えた、色々。 「さむっ」「知らんし」すみません。 すごく長くなりましたが、よろしければお付き合い下さい。 きっかけは先月放送されたNHK『アナザーストーリーズ』(再放送)だ。 原哲夫&武論尊による「制作秘話」を

旅芝居 虚実皮膜の間(あわい)と誠

昨夜インスタのストーリーに書きました。 そこから夜中、いろんなことを思ったり思い出したり、気付けばぼーっとスマホでぽちぽちと打っていたら、なんだかとても長くなりました。 写真も多く貼れるし、以下のインスタに投稿しました。 インスタに長文ってどうよ、せやからnoteがあるんちゃうの、なんですけれど(笑) よければクリックのうえ、お付き合い下さい。 芝居小屋には、劇場には、 特にこういった熱と力、気と情と体温と気持ちの伝わってくるちいさな劇場では、やはり、 人生や、人生観や、

歌とspiritualみと旅芝居と人間と

この夏近所の不幸事があり参列をした。 身内ではないが、近所の、ちょっとおっきなそれ。 式というか会というかが始まる前、皆が集まる中、 会館ではなく寺の前というか中ではBGMとして 皆がよく知る歌たちのオルゴールバージョンが流されていた。 わたしは気になって仕方がなかった。 選曲が。 「なるほど」「その曲、キター」 口には出さない。が、肚の中でいちいちツッコんでしまった。 縦の糸はあなた。 リッスントゥマイハートひとりじゃない。 想いが重なるその前に強く手を握ろう。

湯島の本屋さんに大衆演劇雑誌あります

『演劇の友』、いかがですか? 大衆演劇・旅芝居の雑誌です。 2016年まで隔月で通販や劇場で販売していました。 5月から始まった湯島のシェア本棚「はこハブ」(本屋「出発点」)の中の1棚(1箱)にバックナンバーを置かせていただいているのですが、 「こんな雑誌があったのですね」と言って下さるお客様もいるようで、 改めてちょっと書いておこうと考えました。 2011年8月に創刊。 当時、業界誌は3社から3誌出ていたのですが、 (『演劇グラフ』、演劇グラフから独立した『花舞台』、そ