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街は劇場

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日々すれ違う名も知らぬ皆にツッコんだりグッときたり
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記事一覧

潜るなり泳ぐなり

知らない人によく話しかけられる。 当たり前というか誰でもあることだと思っていた。 どうやらそうでもないらしい。 この癖(?)故にいろいろ巻き込まれたりもしてこなくはなかった。 全部(私的には)笑い話である。人見知りなのに! 何年も何年も前からの芝居仲間は言う。 「ないで普通そんなん。いっつも誰かに話しかけられてるやん」 そうかなあ。 別の観劇仲間にも言われた。 「なんかめっちゃ仲良くなってる知らんおじさんと」 なってはいない。 アホっぽくて隙が多いからだろう。自覚はしている。

いい日

きのう昼走って駆け込み「ちょっとだけ休憩を」と思った出先のカフェで、 よし一息つけたと立ち上がろうとしたら隣の席に年配の上品なご婦人が座られた。 目が合ったのでお互いどちらからともなく「ふふふ。どうも」なんて笑い合う。 ふと見ると。 彼女の羽織っておられたカーディガンの下のTシャツの柄がE.T.だった。 自転車で月夜を飛ぶあのシーン。 あの夜空の色。 自転車の2人。 いや、2人という云い方は正しいかわからへんが。 思った。 ああなんか人間ってええな本当にええね

黒魔術とスーパースター つまりは職人の仕事について

好きな店がまた出来た。 全然気取っていない。でも安物臭さは一切ない。 「ちゃんと」している。でも「どや」な顔はしてない。 パン屋さんかつお惣菜屋さんなのだが、 ランチタイムにはちょっとしたフレンチもいただけるらしい。 フレンチの職人からの独立して店をひらいたという経歴を知って納得。 わたしは相変わらずあほのひとつ覚えであのサンドイッチを食べるけど。 ひさびさに行った行けたランチ時に、事件は起きた。 その客が入って来た時から嫌な感じはした。 ええとこのええもん食べ慣れておら

俺の中の 岡部たかしと某旅芝居関係者の歌からおじさんたちの気持ちと人生を思う

最近大ブレイクのイケおじ役者岡部たかしが ラジオ番組で尾崎豊を「これが俺だ! みたいな」と語っていた。 『I LOVE YOU』を劇団オーディションで全身白スーツで真剣に歌った。 「真面目にやったんですけど、変な奴が来たと思われとったみたい」 「これも好き」という『卒業』。 「歌い出したら長いのでカラオケボックスで皆トイレ行くんですよ、熱くなってるときに」 あのとぼけた感じで真面目に言っていたから吹き出してしまった。 数日後に思い出したのは旅芝居界でヒール(悪)とされてい

フリマとポケット 仕事といい仕事

マーケットの語源はラテン語、商品や商うという意味らしい。 バザーの語源はバザールでイスラム語だったかペルシア語だったか、 市場だとか物の値段や価値が決まる場所という意味らしい。 つくったりあつめたりあつまってひとつの場所でそれらを売るというイベントはどこかしらでいつもおおきなものからちいさなものまでまあ行われているわけであなたもよく行くかもしれない。 わたしも通りがかると覗くし時折出向きもする。 そこは世界だと思う。 例えば「手作りフリマ」的なやつには かわいいものや個

ビタミン 花と言葉の力

お世話になっている方のお祝いにフラワーアレンジメントを買った。 なんてことのない店で買ったのだが会計をしてくれた女子は感じがよかった。 花を整えラッピングしてくれた初老の男性は渡してくれながら言った。 「ありがとう。いってらっしゃい」 歩き出してからも耳に胸に残った。 その一言が。 コンビニで海外の方? でも日本語の流暢な方が、言っていた。 会話の内容は聞いていないが、 店員さんがなにかを間違い、 それ咎めるのではないが、和ますために言ったような一言だったみたい。

狸の豆腐 職人、仕事、場所、気持ち

豆腐屋の話をする。 通い出したきっかけはミーハー極まりない。 某江戸戯作者の名を商品名とした豆腐などがあると知ったからだ。 若くないけれど若者が来るのが珍しいのか。 御店主に覚えられて、たまにオマケもいただく。 御店主は顔付きも手付きも「The 職人」だ。 狸的な雰囲気を感じたりもする。 悪い意味での狸じゃない。 見た目がとかでもない。 なんというか長年生きてる狸みたいな。 『平成狸合戦ぽんぽこ』の長老狸的なね。 飄々としているのだけれど、 その手や皺や顔とかが、ああ、職

信号 灯 水槽

夜のロードサイドにぼんやり光るそこにはあたたかみがある。 けれどどこかしんとした怖さや寒さのようなものも感じるのはわたしだけかな。 人が思い思いの買い物目的で寄る場所、人工的な灯りと機械的な雰囲気、 でも人が居る24時間ずっとあいているその場所に。 しばらく臥せっている間に、 以前書いた改装中にもロゴが光っていてたコンビニが再開していた。 日曜の夜、すこし歩いて行くと青白い灯りに吸い寄せられるように人が入っていくのが見えた。 水槽みたい。 と、ぼんやり思ったのは赤

リング プロレス者とは、プロレス者のススメ

先月だったか先々月だったかは忘れたが、 プロレスの地方会場でのビッグマッチを配信で観ていたときのこと。 とある試合でずっと叫んでいる子供が居た。 「●●―!」「がんばれー!」 甲高い声で必死に応援の声をあげている。試合中ずっと。 声援を向けられているのは、悪役レスラーで、 彼がシングルマッチで闘っているのは、目下、団体が売り出し中(?)のイケメンだった。 ワルな彼は無法ファイトでめちゃくちゃやっている。 一方、相手の彼は毎回客席から登場し、 お子様客を見つけるとリストバンドな

歩く 皆の言葉や生き方に興味がある

誰か、いや、皆の言葉や生き方に興味がある。 興味があるってなんか上からかな、やな、違うな嫌やな、どう言うたらええやろ。 でもそんなことを、 その土地を歩いてそこに住んでる生きてるひとに会うて半生だとか人生だとかを 「へぇ~」とか「そうなんやあ」とかって訊くテレビ番組を観ることなく観ていて、ふと思った。 ほんと、なんてことないようなやつ。 鶴瓶師匠とか円広志とかますだおかだのますだとかが街を歩いて誰かに会って話したりツッコミ入れたりするやつ。 え、関東なら高田純次が歩いてる

十八番 「それイマイチやわ。キモいわー」な路上ミュージシャンと

普段なら素通りだ。 でも足をとめた。 鶴橋駅のあのガード下の雰囲気のせいかな。 芸や生きることをぼんやり考えながらの嬉しい帰り道の日だったからかな。 スタンドマイクの下にさっきまで呑んでおられたのであろうロング缶が数本並んでいたのを見たからかもしれない。 「なにが人気? 得意ですか?」 「お! いいですか!?」 歌い出し歌い上げてくれたのは尾崎豊の『Forget-me-not』だった。 ちゃんと聴いた。 聴き終わり、口から出た、出した。 「それイマイチやわ。キモ

雪女 バス停で会ったあの人はきっと間違いなく

「寒いな」 地方のバス停のベンチで さっきからちらちらとこちらを見ていた年配の女性が言った。 目を合わすと、待っていたかのように声をかけてきた。 「寒いですね」 「なあ」 夏木マリに更にプラス10歳くらい歳を重ねて 前傾姿勢にしたようなそのひとは、まだ話したそうな様子、話してくる。 バスはまだまだ来ない。 「あと6分くらいあるで」 「ほんまに。寒いですね」 かくして話す。 「雨、降らへんからまだましやな」 「あ、降らへんねや。ちょっと空あやしいです

龍 銭湯を探すひと

あれ、幻やったんかなあ、と今でも思う。 いや、幻やない。 何日か、いや、何日も前の話だ。 「すみません。このへんに風呂ないっすか」 コインランドリーにしばしば行く。 家に洗濯機がない訳じゃない。 洗濯が嫌いじゃないむしろ好きなわたしは、 時に手当たり次第なんでもかんでも全部まるごと洗いたくなる時がある。 着るものだけじゃなくなんでもおっきなものとかを がーっと洗ってざーっと乾かして「ぼーっ」する時間を尊く思う。 これも、数日前に書いた仕事の合間の「逃亡」の場合が多いん

paradiso 惚れました

ドアを開けてすぐに綺麗なパンたちの並びに目を奪われた。 しばし見とれてしまい「はっ」として目を上げると レジ前でシェフと常連さんが話してる。 おかしな話だが、シェフの顔とその手が目に入った瞬間にもう満足をした。 「どうぞ。大丈夫ですよ」 いらっしゃいませ、じゃない。 あきらかに初めての客に対して笑みを、それも満面の笑みじゃない、 〝職人〟の顔を残したままの笑みを浮かべ、奥の席に手招きをくれる。 その手を見て勝手に思った。もう、この時点で満足だ、と。 「パン屋のイートイン」なん