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流転 旅芝居、紫式部な名女優

ヤンチャで、おきゃんで、強くて、
何がわるい。ごめんあそばせ。
女、ひとり。私は役者。性別? 年齢? それがなにか?
 
うれしくなった。いや、うれしい。
 
どこを切り取っても「かたち」がきれい。
曲の中の世界に居る。曲の中の人。
へらへらともの欲しそうにお客さんに媚びない。
変に表情をつくらない。
でも明るい曲での舞踊では時ににこっと笑う。
にこっとじゃないな。「にかっ」だ。
 
その「にかっ」の顔には、書いてある。
書いてないけど、まるで言っているようにわたしには見える。
 
「楽しい? 楽しいでしょ?」
「きれい? 知ってる!」
「巧い? でしょ~?」
 
にかっと笑っていない涼しげな表情の時も、
笑っていないように、そう言っているかのよう。
言っているような、表情(かお)を作らないのに。
完璧に、曲の中に居るのに、居るから。
とはいえ過剰に滲む圧な自意識でもなくて。
白い化粧顔から滲んで伝わってくるようなそれに、うれしくなる。
 
三河家の諒、ここにあり。
 
一時期よく観ていた劇団に長いことゲスト出演をされていて、
毎回、この人の出番が楽しみで仕方がなかった。
その劇団を観る理由やきっかけよりも、ずっと楽しみだった。
ある日『肥後の駒下駄』を踊っていて「最高やなあ、やっぱすごいなあ」と思っていたら、
劇団の若座長だったか花形だったか肩書は忘れたけれど今は座長になった若い子が、
「俺もあの曲踊りたいねんけど、格好って●●でいいかな?」と聞いてきた。
「諒さんに訊いたらええやん。さっき踊ってたんやから」
恐れ多くて訊けないとのこと。笑ってしまって、今でも覚えている。
 
あの頃観ていた舞踊の「かたち」と姿は、今もはっきりと頭に残っている。
どれも「曲の中の人」で、役の人で、物語だからだ、きっちり踊っていながら。
 
肚の底からため息しか出ない、踊り出す前のポーズから綺麗な『淡海節 ・箱枕』。
個人的にめっちゃ好きな、どのポーズを切り取っても映えるし、物語が見える『浜唄』。
これはもうあの時代からこの時代に降りてきてくれたとしか思えない『お玉』
袴を履いて踊りゃ皆褒められる褒めるような傾向がある昨今の中で
袴舞踊とはこうだと舞台姿から教えてくれるような『名月赤城山』。
そして、なんといっても、わたしの中でこの1本な『風の盆恋唄』
どこの誰も踊っているけれどこの曲をこんなに「ちゃんと」踊れる人は居ないんじゃないか。
なんて、好きな作品を挙げだすときりがないのだけれども。
 
いくら旅芝居の名門である三河家のお嬢様だとはいえ、
お兄さんが居て、その下で育ち、やってこられて。
いろんな舞台や大舞台に出ながらもきっとあの「にかっ」や涼しい顔の下ではたくさんたくさんの涙や悔しさもあったことだろうと思う。
クッソみたいな男性優位の世界で。
客席には女性ばかり、
それも男の役者さんに肩入れしたり恋したりする女性ばかりの中で。
この何年もずっとフリーの役者として。
 
あの頃書いたBlogに、ふと浮かんで、ある喩えをした。

ほんとに、ふと浮かんだのだ。
その記事をファンの方がご本人に伝えて下さったようで、
すこしまえに丁寧で素敵なメッセージをいただいた。
 
「あの、紫式部の」
 
ふふふ。
 
時代も、旅芝居も、すこしすこしずつすぎるけれど、
でも、本当にすこしずつも女性が生きやすい、活躍することにスポットが当たったり見直されたりもしだして。
 
この表現はあまり好きじゃないのだが、敢えて使おうか。
 
「時代が追い付いた」?
 
先日、ひとつ前に書いた記事の劇団で、ゲスト出演として観ることが出来たのは、女形の『一葉恋歌』(トップ写真)と立ち姿の『流転』だった。

時代が先に進んでも、
どれだけ歳を重ねても、
きっと、ずっと、
フリーとして、女ひとり、「にかっ」、
そして「ゴラァ」っていうやんちゃでおきゃんな顔で、舞台に立ち続けられるのだろう。
性別も年齢も超越して。
しょうもないことややつなんて涼やかに蹴散らして舞台の上でうつくしく笑っていてほしいし、
いや、笑いはるんやろうと思う。
 
そのことが、そのことを思い、とてもうれしい。
 
来年のNHK大河ドラマは紫式部ですよ、ですもの。ね。ふふふ。


(飛翔座 2023・11.17 昼の部・庄内天満座・ゲスト出演・三河家諒(フリー))


◆◆◆
以下は、自己紹介 。よろしければお付き合い下さい。

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

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lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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先日、ご縁あって素敵なWebマガジン「Stay Salty」Vol.33の巻頭、
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5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋もやっています。

参加した読書エッセイ集もお店と通販で取り扱い中。

旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
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旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
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担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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