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祭 ある本と盆踊りと人間と

若竹千佐子さんの『かっかどるどるどぅ』を読んだ。
2017年下半期の芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』の著者は
前作でタイトル通り老いた人の孤独からの「ひとりで」を選んだ生き方を描いた。
第二作目となる本作にも、同じく孤独を抱えた人々が登場する。
でも彼女たちや彼らが思ったことは選んだのは「みんなで生きる、生きてみよか」だ、と思った。
生きづらさを抱える人たちが集い、皆でご飯を食べ、たくさんの会話を交わす。
その中には戦争もコロナもウクライナもロシアもアメリカも、そして生きづらい人々の叫びが。
「戦争は悪、でも戦争には金儲けが絡む……」
「戦争とか競争とか、でも、私たち非正規労働者とか気候変動とか食糧危機とか地震とか貧乏人の増大とか泥船だー、でも、それでも……」
と、いうとちょっとお堅い話のように聞こえるかもしれない?
全然そんな感じはない。
東北弁のリズムがなんだかユニークさとほのぼのほんわかさも感じさせ、
決して押しつけない「みんなで生きる、生きてみよか」みたいなメッセージが、なんだか、じんと、響き、沁みる。
ああ、ロックだ。いや、ソウルだ。ブルースだ、いや、民謡、音頭みたい。
と、思ったら、クライマックス、ほんとうに皆が「踊り出す」。
この「踊り」は実際にある(あった)踊り3つほどに文中で例えられたりするのだが、そこは、お読みになって、お楽しみいただくとして。

今月頭、盆踊り大会に行った。
行ってみたかった、東の、つまり、東京の盆踊り大会だ。
たまたまある地域にポスターを見つけたからうれしくなって、行ってみた。

わたしは盆踊りだのだんじりだの祭りだのが好きだ。
好き? わからない。テンションが上がる。血が湧く。
はっきりとした〝故郷〟みたいなものがないことや、
子供の頃こういった祭り(派手なものも小さなものも)に参加したことがなかったことから、憧れもあるかもしれない。
と、同時に、民族的な、土着的な、なにかへの、とてつもない興味だ。
旅芝居という芸能(芸術とは言わない)に興味を持ち、清濁併せ吞むそれを追うようになり、祭りや民族的なものに興味を持つようになった。
元々、地域地方の文化や歴史には興味があり、調べたりもしてき、魅了されてきた。
そんな色々が重なり、「盆踊り」や「祭」には、能書きだけど能書きじゃない、能書きを越えてばりばり血が騒ぐのである。あーっ、アツがナツいぜ。
映画『ピンポン』で窪塚洋介演じるペコはそう叫んだけれど、まさにこれ、夏っ。
そんなこんなで近年は知らない場所での盆踊り大会や河内音頭の会にも参加してきた。
旅芝居の大先輩ルポライター氏、河内音頭の研究もされてきた大パイセンのお誘いでだ。
紹介して頂いた河内音頭の音頭取りの一家の何代目? さんとも仲良くなったりして。
(関係ないが彼がカラオケで歌う『会津の小鉄』は最高of最高)
今住む地域近くの盆踊りや祭りにも足を運ぶようになった、足が勝手に行っていた。今も、遠くから音が聞こえたりすると走っていく。
でも、東のは! 初! うれしい!
 
行った大会はコロナの影響で中止されていて4年ぶりの開催だった。
会場である斎場にはテンション爆上がりな子供たちが昼前から押し寄せ、櫓を組み準備する世話人たちに追い返されていた。
夕方にはどこから湧いてきたかわからないくらいの人が入場ゲートに並んでいた。
駅から来る波をみるに「遠征民」も居るみたい。
それらの人を大きなカメラを背負って「#ファインダー越しの私の世界」にしようとしているような輩も少なくなく集っていた。ああカオス。
用があり、数時間後、暗くなってから戻ってきたときはもう祭りはクライマックス。踊ってる。踊ってる。踊ってる。
櫓を囲み輪になる老若男女の皆は勿論、
若いギャルっぽい格好の女の子もスマホを持ちながら手踊りしてるし、屋台で冷たいものを売っている婦人会の皆さんもその場で踊ってる。
アリーナ席で観覧する皆の目も輝いている。
おめかし浴衣の小学生の女の子数人組、仲良しファミリー何グループ、大人たちは缶チューハイ片手の人も多い。
思った。
「ああ、皆、子供の頃からこうして連れてきてもらったり、友達と来て、毎年のそれを経て大人になるんや」
「だから、もう体が覚えてて、踊れるんや」
踊る皆、集う皆の、〝ええ表情(かお)〟。
生き生きと、高揚感。盆踊りからのトランス状態からの性的ないろいろを含む何かとか、ケとハレとか、鎮魂と娯楽と、舞とか、宗教的なとか(は、私的には色んな点や意味から無理(と言いたいし言う)なんだが)、そんなことはもう過去から語られすぎてきたこと。
年齢とか、性別とか、踊り慣れてるとか、踊りが好きとか、踊れるとか踊れないとか、好きとか嫌いとか、ここの人とかどこの人とか、皆関係なく、櫓を中心に、皆が思い思いに踊ったり、喋ったり、観たり。暑い中、酒も入れながらのアツい中で。
爆音でリピートされるのは炭坑節、東京音頭、ビューティフル・サンデー、ダンシング・ヒーロー、きよしのズンドコ節だ。
爆音と集団と舞いという音と「からだ」が作る空間のトランス状態が、たまらない。
しかしここでこうして踊られて自分の名前が今の叫ばれていることを今の氷川きよしは知ってるんやろか、知ったらどう思うのか、2番の歌詞はもう絶対に嫌やろな、あ、もう氷川きよしは氷川きよしじゃないもんな、とか、しょうもないことを考えたりもしてしまったり、余計なお世話。
しかし『東京音頭』はいいな。やっぱり、でも『炭坑節』だな、血が喜ぶ。
そして、この選曲、すべて振りもそれぞれで、うまいセットリストやな。
って、そんなこともただのこじつけで、どうでもいい。わたしも踊れそう。踊ろかな。酒を片手に手が動く。
1曲踊り終わると、「ひゅーひゅー」という掛け声とともに、大拍手、拍手喝采だ。
さらに、櫓の前で街の見守り役? 今日の進行役? のような法被姿の兄ちゃんが、曲と曲の間に拡声器で叫ぶ。
「ただいま、キッズ携帯の落とし物がありました。お心当たりの方は……あ、おかあさんから電話かかってきた。出まーす!」
カオス&ほのぼのMAXすぎる。
輪はどんどん大きくなって、日曜の夜、人はどんどん増えていって、減るのに増えて。輪に入り、踊る人、踊り疲れて、観覧席のパイプ椅子に座る人、お喋りする人。自由だ。これが、これも、いい。
ふとさっきまで誰かが座っていたパイプ椅子をみると、一冊の本が置かれていた。ミシェル・ウエルベックの『服従』。
不勉強ながら知らなくて、帰ってから調べて、驚きと、不思議と、なんとも言えない気分になった。この本の主も、輪の中で踊ってたのか。なんだろ。なんだろうな。人間って。

大熱狂の中、大会は最後の『東京音頭』で終宴した。
割れんばかりの拍手と「ひゅー!」「うえーい!」の後、集った皆はそれぞれの帰路へ。
会場近くの呑み屋には踊り終わった皆が、家族連れや友人同士が集い、その後数時間ずっと煌々としていて、あっかるかった。
会場近くのスーパーの棚からはビールもチューハイもお惣菜もほぼ全部消えていた。ばらした缶だけじゃない、6缶セットのビールやチューハイすら売り切れていた。
小学生の軍団が道端で「また明日ー!」と手を振ってわかれていった。
明日はもう、祭りじゃない。でもまた、祭りは来る。明日が来る。みんなで生きる。


大阪は今日、4年ぶりの天神祭の本宮、夜には大川の船渡御に奉納花火。
うだるような暑さがさらにアツい1日です。
月末&来月頭は近所のだんじり祭(※岸和田ではない)。テンションあがる。
言うてる間になにわ淀川花火大会も。って、あーっ、夏ですね。
皆さん、もうお祭りには行かれましたか。
これからですか。これからかもしれませんね。
暑さに気を付けて楽しくお過ごし下さいね。

去年のだんじりネタ。


祭りといえば、芝居『夏祭浪花鑑』、ああ、season。
歌舞伎でも文楽でもお馴染みの〝映える〟〝ヤンキー〟話ですね。
うん、ほんとうに「映える」話やと思います。
全然関係ないけど、この話を思い出すと、いつも芥川を思い出します。
亡くなった際、内田百閒が書いた。
「あんまり暑いので、腹を立てて死んだのだろうと私は考えた」
からの「あんまり暑いので、腹を立てて殺したのだろうと私は考えた」的な。大好きです、芥川。一昨日は、河童忌でしたね。

(↑過去記事)

◆◆◆
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構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。
大衆芸能、
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリーに。

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lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。

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