記事一覧

Tweet『Southern Hummingbird』

 00年代初頭、R&Bラヴァーズにとっての"Tweet"とは140文字の縦スクロールのことではなく、それが指し示すのは「糖蜜のようなアルト・ヴォイス」に他ならなかった。その声…

moblu
3時間前

ステファヌ・マラルメ 散文詩篇

東京丸の内の丸善でステファヌ・マラルメという詩人の散文詩集を買った。名前は聞いた事があるので有名な人であるはずだ。 散文詩というものは初めて読む。脳内に起きては…

moblu
6か月前

エリカ・バドゥとの個人的な邂逅(つぶやき)

娘のダンス教室の課題曲がエリカ・バドゥだったので最近聴き直してる。昔から聴いてたけどそれ程ハマらなかった、付かず離れずな人。聴き直してみるとシンガーとしての素晴…

moblu
7か月前
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『Embrya』再訪

「過去に例がなく、90年代にしか存在し得なかったような」  見出しは鈴木哲章による音楽評論サイト「Rhythm Nation」のMaxwell『Embrya』評の一節からの引用だ。 90年代…

moblu
8か月前
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Lewis Taylorの青いソウル

Marvin Gaye → Prince → …D'angelo?  R&Bの正史としては70年代にMarvin Gayeが居て、80年代にPrinceが居て、90年代にD'angeloが居た、ということになっており、自分…

moblu
8か月前
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君の女友達に成れたならしたい、いくつもの事

If I Was Your Girlfriend  数あるPrinceのクラシックスの中でも87年リリースの「If I Was Your Girlfriend」は甘く異彩を放っている。Princeのミニマリストとしての才能…

moblu
8か月前
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『Aaliyah』の赤い衝撃 ①

「レッド・アルバム」  Aaliyahが2001年に遺したセルフタイトルド・アルバム『Aaliyah』(通称「レッド・アルバム」)は紛れもないプログレッシヴ・R&Bのマスター・ピー…

moblu
10か月前
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Rhasaan Pattersonについて②/Rahは”オルタナティヴ・R&B”だったのか?

00年代後半から10年代終わりまでのRah  「Rahsaan Pattersonについて①」は何人かの方に気に入っていただいたようだったし、自分としても満足いく内容が書けた気がする。…

moblu
1年前
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Rahsaan Pattersonについて① / D'angeloにもFrank Oceanにも成らなかったR&Bシンガー

私にとっての”Rah”とは  長いタイトルをつけてしまった。R&Bは熱心に聴かなくてもD'angeloやFrank Oceanは聴く、という方は少なくないのでは。ジャンルミュージックに…

moblu
1年前
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aiko の新作『今の二人をお互いが見てる』は素晴らしい

25年目の傑作  3/29にaikoの15作目となるアルバム『今の二人をお互いが見てる』がリリースされた。既発曲がどれも良かったので結構期待しながら待っていた作品だった。…

moblu
1年前
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aikoの新作に向けて

 aikoの新作「今の二人をお互いが見てる」が来週3/29にリリースされる。自分がaikoの音楽を熱心に聞き始めたのが2021年4月の終わりごろ、その時には「どうしたって伝えら…

moblu
1年前
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2022年型ソウルバラッドの傑作アイナ・ジ・エンド「私の真心」

 アイナ・ジ・エンドが先日リリースした新曲「私の真心」が素晴らしい。 https://youtu.be/ZBnb9jJLxqU  ゆきつ戻りつ心を込めて歌われる6/8拍子のソウルバラッド。切…

moblu
1年前
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Moblu的、宇多田ヒカル アルバムベスト3

ソーシャルメディアで話題を掻っ攫い中の宇多田ヒカル「BADモード」。14年来のファンとしても非常に感銘を受けました。 自分の中の整理のため、彼女のベストだと思うアルバ…

moblu
2年前
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ALBUM OF THE YEAR 2020

JHENE AIKO - CHILOMBO しなやかで惚れ惚れするボーカリゼーションに骨の髄まで浸り切れる、これぞ2020年のR&B。彼女の歌は実はオーセンティックな意味でもかなり上手いの…

moblu
3年前
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2019.09 Albums

Brittany Howard-Jamie  リードトラックとしてTr.1のHistory Repeatsがリリースされてから楽しみにしていたBrittany Howardの初ソロ作。  全体的に70’sソウルミュー…

moblu
4年前

2018年 Album of the year ①

Jamie Isaac: (4:30) IDLER 個人的に男性R&Bのスロウジャムというのがジャンルで言えば一番好きで、2016年はGallant、2017年はdvsnのアルバムを愛聴していました。今年…

moblu
5年前
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Tweet『Southern Hummingbird』

Tweet『Southern Hummingbird』

 00年代初頭、R&Bラヴァーズにとっての"Tweet"とは140文字の縦スクロールのことではなく、それが指し示すのは「糖蜜のようなアルト・ヴォイス」に他ならなかった。その声の持ち主である南部のハチドリ、Charlene Keysは2002年のアルバム・デビュー以来、2024年現在で3枚のオリジナルアルバムを上梓している。

 幾つかのシングルヒットを飛ばしたものの歴史の影に埋もれてしまった感のあ

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ステファヌ・マラルメ 散文詩篇

ステファヌ・マラルメ 散文詩篇

東京丸の内の丸善でステファヌ・マラルメという詩人の散文詩集を買った。名前は聞いた事があるので有名な人であるはずだ。
散文詩というものは初めて読む。脳内に起きては消える不定形の具象のスケッチのようだと思った。

エリカ・バドゥとの個人的な邂逅(つぶやき)

エリカ・バドゥとの個人的な邂逅(つぶやき)

娘のダンス教室の課題曲がエリカ・バドゥだったので最近聴き直してる。昔から聴いてたけどそれ程ハマらなかった、付かず離れずな人。聴き直してみるとシンガーとしての素晴らしさを感じたし、トータルなスタイリングに拘ることで表現を伝えてる所が良いなと思った。

自分が好きな彼女のアルバムは、Worldwide UndergroundとMama's Gun。前者はトータルでビートが気持ち良くサラッと聴けるし、後

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『Embrya』再訪

『Embrya』再訪

「過去に例がなく、90年代にしか存在し得なかったような」

 見出しは鈴木哲章による音楽評論サイト「Rhythm Nation」のMaxwell『Embrya』評の一節からの引用だ。
90年代リバイバルと言われ始め、10年ほど経過しただろうか。Y2Kブームが勢いづく中、一つのスタイルとして落ち着いた感もある90'sだが、依然として存在感を保ち続けているように思う。ブーン・バップ、グランジ、90's

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Lewis Taylorの青いソウル

Lewis Taylorの青いソウル

Marvin Gaye → Prince → …D'angelo?

 R&Bの正史としては70年代にMarvin Gayeが居て、80年代にPrinceが居て、90年代にD'angeloが居た、ということになっており、自分としても全く異論はないのだけど、当然有象無象のアーティストの中には彼らに匹敵する作品を残しながら時の流れに埋もれてしまった人たちもいる。以前記事を書いたRahsaan Pat

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君の女友達に成れたならしたい、いくつもの事

君の女友達に成れたならしたい、いくつもの事

If I Was Your Girlfriend

 数あるPrinceのクラシックスの中でも87年リリースの「If I Was Your Girlfriend」は甘く異彩を放っている。Princeのミニマリストとしての才能が極まった傑作『Sign O' The Times』に収められたこのスロウ・ファンクは意外にも普遍的なシチュエーションを表現している。それは「手の届かない誰かに恋焦がれるとはど

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『Aaliyah』の赤い衝撃 ①

『Aaliyah』の赤い衝撃 ①

「レッド・アルバム」

 Aaliyahが2001年に遺したセルフタイトルド・アルバム『Aaliyah』(通称「レッド・アルバム」)は紛れもないプログレッシヴ・R&Bのマスター・ピースであり、その後の先鋭的なR&B及びダンス・ポップの青写真だ。
 Timbalandファミリーと作り上げたサウンドの果敢さ、完成度において、ある意味では後にも先にもこれを超えるアルバムはないと言える。ここ十年でAali

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Rhasaan Pattersonについて②/Rahは”オルタナティヴ・R&B”だったのか?

Rhasaan Pattersonについて②/Rahは”オルタナティヴ・R&B”だったのか?

00年代後半から10年代終わりまでのRah

 「Rahsaan Pattersonについて①」は何人かの方に気に入っていただいたようだったし、自分としても満足いく内容が書けた気がする。気分が良いうちに②を書いてしまおう。②で扱うのは2007年の4thアルバムから2019年の最新作まで。極上のソウルミュージックとして聴くことのできた3rdから、この時期のRahはさらに作家としての個性を強めていく。

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Rahsaan Pattersonについて① / D'angeloにもFrank Oceanにも成らなかったR&Bシンガー

Rahsaan Pattersonについて① / D'angeloにもFrank Oceanにも成らなかったR&Bシンガー

私にとっての”Rah”とは

 長いタイトルをつけてしまった。R&Bは熱心に聴かなくてもD'angeloやFrank Oceanは聴く、という方は少なくないのでは。ジャンルミュージックに収めることのできないほどの特別な作家。自分にとってのRahsaan Patterson(以下Rah)というアーティストは、つまりそういう存在である。
Rah氏についてこれほど入れあげている人を私は寡聞にして知らない

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aiko の新作『今の二人をお互いが見てる』は素晴らしい

aiko の新作『今の二人をお互いが見てる』は素晴らしい

25年目の傑作

 3/29にaikoの15作目となるアルバム『今の二人をお互いが見てる』がリリースされた。既発曲がどれも良かったので結構期待しながら待っていた作品だった。配信日当日に通勤の車中で聴き進めるなり興奮、週末に家でじっくり通し聴きして感服、といった感じでこのレコードは傑作だと確信した。

トオミヨウ編曲 新時代のaiko

 前アルバム収録「メロンソーダ」からのタッグとなる編曲家、トオ

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aikoの新作に向けて

aikoの新作に向けて

 aikoの新作「今の二人をお互いが見てる」が来週3/29にリリースされる。自分がaikoの音楽を熱心に聞き始めたのが2021年4月の終わりごろ、その時には「どうしたって伝えられないから」はリリースされていたのでファンになってからは初めてのアルバムということになる。

 収録曲で今のところリリースされている6曲を聴く限り中々の粒ぞろいだし、ソウル系の曲が多いのも自分好みで結構楽しみだ。
 既発6曲

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2022年型ソウルバラッドの傑作アイナ・ジ・エンド「私の真心」

2022年型ソウルバラッドの傑作アイナ・ジ・エンド「私の真心」

 アイナ・ジ・エンドが先日リリースした新曲「私の真心」が素晴らしい。

https://youtu.be/ZBnb9jJLxqU

 ゆきつ戻りつ心を込めて歌われる6/8拍子のソウルバラッド。切なくてウォームでスロウ。そのエモーションの提示の仕方は今日的な日本のポップソングの性急なエモさとは趣を異にしている。

 ここには生身の交流による確かなエロティシズムがある。一方で、古き良きソウル・ソングた

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Moblu的、宇多田ヒカル アルバムベスト3

ソーシャルメディアで話題を掻っ攫い中の宇多田ヒカル「BADモード」。14年来のファンとしても非常に感銘を受けました。
自分の中の整理のため、彼女のベストだと思うアルバム3枚についての覚書。

1. BADモード

現状のベスト。
稀有な美声が最も活かされたアルバム。
打ち込み主体のプロダクションと、歌メロを主に中低音域に設定したことが功を奏している。
巷ででよく言われる「サウンドの先鋭性」と言うよ

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ALBUM OF THE YEAR 2020

JHENE AIKO - CHILOMBO

しなやかで惚れ惚れするボーカリゼーションに骨の髄まで浸り切れる、これぞ2020年のR&B。彼女の歌は実はオーセンティックな意味でもかなり上手いのだが、雰囲気たっぷりなトラックの上でフロウさせたら他の追随を許さない。聴きどころだらけのアルバムだが中でも10k hoursが好き過ぎた。死ぬほどディープにチルしている、チルR&Bの極限値。

J HUS -

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2019.09 Albums

Brittany Howard-Jamie

 リードトラックとしてTr.1のHistory Repeatsがリリースされてから楽しみにしていたBrittany Howardの初ソロ作。

 全体的に70’sソウルミュージックのテイストが強いが、Tr.5,Tr.8,Tr.9なんかはネオソウル風のトラック。ロックバンドのヴォーカルの作品を想定して聴くと少し意表を突かれる。

 もちろん、だからといっ

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2018年 Album of the year ①

2018年 Album of the year ①



Jamie Isaac: (4:30) IDLER

個人的に男性R&Bのスロウジャムというのがジャンルで言えば一番好きで、2016年はGallant、2017年はdvsnのアルバムを愛聴していました。今年はディグ不足もありR&Bシーン本流ではこの手の音であまり良いものに巡り会えませんでしたが、jamie issacのこの作品のムードには一瞬で引き込まれるものがありました。
表面的にはネオソウ

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