最近の記事

マラルメ 縁日興行の口上

「ただ、祭りという神秘的な語が野原の一画を指定すると、日常の悲惨さからすれば例外的な同胞愛が生まれて、多くの靴がそこを踏みならす。」

    • ステファヌ・マラルメ 散文詩篇

      東京丸の内の丸善でステファヌ・マラルメという詩人の散文詩集を買った。名前は聞いた事があるので有名な人であるはずだ。 散文詩というものは初めて読む。脳内に起きては消える不定形の具象のスケッチのようだと思った。

      • エリカ・バドゥとの個人的な邂逅(つぶやき)

        娘のダンス教室の課題曲がエリカ・バドゥだったので最近聴き直してる。昔から聴いてたけどそれ程ハマらなかった、付かず離れずな人。聴き直してみるとシンガーとしての素晴らしさを感じたし、トータルなスタイリングに拘ることで表現を伝えてる所が良いなと思った。 自分が好きな彼女のアルバムは、Worldwide UndergroundとMama's Gun。前者はトータルでビートが気持ち良くサラッと聴けるし、後者はお香を炊いたエリカの部屋に招待された様な気持ちで超寛げる。 こんな出会い直

        • 『Embrya』再訪

          「過去に例がなく、90年代にしか存在し得なかったような」  見出しは鈴木哲章による音楽評論サイト「Rhythm Nation」のMaxwell『Embrya』評の一節からの引用だ。 90年代リバイバルと言われ始め、10年ほど経過しただろうか。Y2Kブームが勢いづく中、一つのスタイルとして落ち着いた感もある90'sだが、依然として存在感を保ち続けているように思う。ブーン・バップ、グランジ、90's R&B、ブリット・ポップにアシッド・ジャズ。胸が躍る。New JeansやFL

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          Lewis Taylorの青いソウル

          Marvin Gaye → Prince → …D'angelo?  R&Bの正史としては70年代にMarvin Gayeが居て、80年代にPrinceが居て、90年代にD'angeloが居た、ということになっており、自分としても全く異論はないのだけど、当然有象無象のアーティストの中には彼らに匹敵する作品を残しながら時の流れに埋もれてしまった人たちもいる。以前記事を書いたRahsaan Pattersonはその一人だが、イギリスの白人R&BアーティストであるLewis T

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          君の女友達に成れたならしたい、いくつもの事

          If I Was Your Girlfriend  数あるPrinceのクラシックスの中でも87年リリースの「If I Was Your Girlfriend」は甘く異彩を放っている。Princeのミニマリストとしての才能が極まった傑作『Sign O' The Times』に収められたこのスロウ・ファンクは意外にも普遍的なシチュエーションを表現している。それは「手の届かない誰かに恋焦がれるとはどういうことか?」ということで、当然そこには美しい慈愛から、公には口に出すことが憚

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          『Aaliyah』の赤い衝撃 ①

          「レッド・アルバム」  Aaliyahが2001年に遺したセルフタイトルド・アルバム『Aaliyah』(通称「レッド・アルバム」)は紛れもないプログレッシヴ・R&Bのマスター・ピースであり、その後の先鋭的なR&B及びダンス・ポップの青写真だ。  Timbalandファミリーと作り上げたサウンドの果敢さ、完成度において、ある意味では後にも先にもこれを超えるアルバムはないと言える。ここ十年でAaliyahが参照された例は挙げればキリがない。パッと思いつくだけでもDrake, F

          『Aaliyah』の赤い衝撃 ①

          Rhasaan Pattersonについて②/Rahは”オルタナティヴ・R&B”だったのか?

          00年代後半から10年代終わりまでのRah  「Rahsaan Pattersonについて①」は何人かの方に気に入っていただいたようだったし、自分としても満足いく内容が書けた気がする。気分が良いうちに②を書いてしまおう。②で扱うのは2007年の4thアルバムから2019年の最新作まで。極上のソウルミュージックとして聴くことのできた3rdから、この時期のRahはさらに作家としての個性を強めていく。 4th Album 『Wine & Spirits』から1曲  モノクロの

          Rhasaan Pattersonについて②/Rahは”オルタナティヴ・R&B”だったのか?

          Rahsaan Pattersonについて① / D'angeloにもFrank Oceanにも成らなかったR&Bシンガー

          私にとっての”Rah”とは  長いタイトルをつけてしまった。R&Bは熱心に聴かなくてもD'angeloやFrank Oceanは聴く、という方は少なくないのでは。ジャンルミュージックに収めることのできないほどの特別な作家。自分にとってのRahsaan Patterson(以下Rah)というアーティストは、つまりそういう存在である。 Rah氏についてこれほど入れあげている人を私は寡聞にして知らないので、ちょっと書いておこうと思った。中でも1st~3rdアルバムは奇跡的で、今で

          Rahsaan Pattersonについて① / D'angeloにもFrank Oceanにも成らなかったR&Bシンガー

          aiko の新作『今の二人をお互いが見てる』は素晴らしい

          25年目の傑作  3/29にaikoの15作目となるアルバム『今の二人をお互いが見てる』がリリースされた。既発曲がどれも良かったので結構期待しながら待っていた作品だった。配信日当日に通勤の車中で聴き進めるなり興奮、週末に家でじっくり通し聴きして感服、といった感じでこのレコードは傑作だと確信した。 トオミヨウ編曲 新時代のaiko  前アルバム収録「メロンソーダ」からのタッグとなる編曲家、トオミヨウのアレンジがあまりに素晴らしい。今作では7曲を手掛ける。  例えば新時代の

          aiko の新作『今の二人をお互いが見てる』は素晴らしい

          aikoの新作に向けて

           aikoの新作「今の二人をお互いが見てる」が来週3/29にリリースされる。自分がaikoの音楽を熱心に聞き始めたのが2021年4月の終わりごろ、その時には「どうしたって伝えられないから」はリリースされていたのでファンになってからは初めてのアルバムということになる。  収録曲で今のところリリースされている6曲を聴く限り中々の粒ぞろいだし、ソウル系の曲が多いのも自分好みで結構楽しみだ。  既発6曲の中でのフェイヴァリットを選ぶなら一番は「食べた愛」、次点で「あかときリロード」

          aikoの新作に向けて

          2022年型ソウルバラッドの傑作アイナ・ジ・エンド「私の真心」

           アイナ・ジ・エンドが先日リリースした新曲「私の真心」が素晴らしい。 https://youtu.be/ZBnb9jJLxqU  ゆきつ戻りつ心を込めて歌われる6/8拍子のソウルバラッド。切なくてウォームでスロウ。そのエモーションの提示の仕方は今日的な日本のポップソングの性急なエモさとは趣を異にしている。  ここには生身の交流による確かなエロティシズムがある。一方で、古き良きソウル・ソングたちが私たちに提供してきたエロティシズムの記号:汗ばんだ肌、間接照明、グラスに注が

          2022年型ソウルバラッドの傑作アイナ・ジ・エンド「私の真心」

          Moblu的、宇多田ヒカル アルバムベスト3

          ソーシャルメディアで話題を掻っ攫い中の宇多田ヒカル「BADモード」。14年来のファンとしても非常に感銘を受けました。 自分の中の整理のため、彼女のベストだと思うアルバム3枚についての覚書。 1. BADモード 現状のベスト。 稀有な美声が最も活かされたアルバム。 打ち込み主体のプロダクションと、歌メロを主に中低音域に設定したことが功を奏している。 巷ででよく言われる「サウンドの先鋭性」と言うよりも寧ろ、遂に「宇多田ヒカルサウンド」の黄金率を確立したなと思った。 それはヴォ

          Moblu的、宇多田ヒカル アルバムベスト3

          ALBUM OF THE YEAR 2020

          JHENE AIKO - CHILOMBO しなやかで惚れ惚れするボーカリゼーションに骨の髄まで浸り切れる、これぞ2020年のR&B。彼女の歌は実はオーセンティックな意味でもかなり上手いのだが、雰囲気たっぷりなトラックの上でフロウさせたら他の追随を許さない。聴きどころだらけのアルバムだが中でも10k hoursが好き過ぎた。死ぬほどディープにチルしている、チルR&Bの極限値。 J HUS - BIG CONSPIRACY メインストリームのラップに食傷気味になってしまっ

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          2019.09 Albums

          Brittany Howard-Jamie  リードトラックとしてTr.1のHistory Repeatsがリリースされてから楽しみにしていたBrittany Howardの初ソロ作。  全体的に70’sソウルミュージックのテイストが強いが、Tr.5,Tr.8,Tr.9なんかはネオソウル風のトラック。ロックバンドのヴォーカルの作品を想定して聴くと少し意表を突かれる。  もちろん、だからといってこのアルバムのサウンドがR&Bの作品として作られているのかというと、そうではな

          2019.09 Albums

          2018年 Album of the year ①

          Jamie Isaac: (4:30) IDLER 個人的に男性R&Bのスロウジャムというのがジャンルで言えば一番好きで、2016年はGallant、2017年はdvsnのアルバムを愛聴していました。今年はディグ不足もありR&Bシーン本流ではこの手の音であまり良いものに巡り会えませんでしたが、jamie issacのこの作品のムードには一瞬で引き込まれるものがありました。 表面的にはネオソウル風とも取れるのですが、むしろ昨今のジャズやビートミュージックの流れから芽を出し

          2018年 Album of the year ①