2019.09 Albums

Brittany Howard-Jamie

 リードトラックとしてTr.1のHistory Repeatsがリリースされてから楽しみにしていたBrittany Howardの初ソロ作。

 全体的に70’sソウルミュージックのテイストが強いが、Tr.5,Tr.8,Tr.9なんかはネオソウル風のトラック。ロックバンドのヴォーカルの作品を想定して聴くと少し意表を突かれる。

 もちろん、だからといってこのアルバムのサウンドがR&Bの作品として作られているのかというと、そうではない。例のHistory Repeatsにしても曲調だけとらえればJB風のファンクなのだけど、ヴォーカルはひずんでいるし、ドラムはガレージのなかでこだまするようだし、じゃかじゃか鳴り続けるギターはちっとも滑らかじゃない。つまり、全てがグルーヴするように作られるR&B作品とは明らかに異化したサウンドなのだ。グルーヴ感よりドライヴ感というか。この歪なサウンドは全編を貫き、時に聴くものをぶちのめすような迫力を持つが、空間的でもありかなりデザインされてもいる。

 Tr.2以降のムードは内省的で、寂しげな情感に心を掴まれる。一見してソウルママに見られることもあるBrittanyのヴォーカルは、実はゴスペル仕込みのソウルシスター達とは違い磨かれ切ってはおらず、プロフェッショナルな発声技術の代わりに楽曲に相応しい生身の傷つきやすさを表現する。彼女のアイデンティティから導き出された、2019年のアメリカ音楽の傑作の一つだと思う。

Lana Del Rey - Norman Fucking Rockwell!

 2019年アメリカ音楽の傑作と言えば、むしろこちらのほうが筆頭にあがるのかも。夏の終わりに発表されたLana Del Rey新作。

 不勉強ながら白人シンガーソングライターの作品については全く疎く、固有名詞を用いながら体系的に語るなんてことは出来ないのだが、珍しくかなり愛聴している。聴き疲れしない、一聴するだけでは特徴を感じ辛い音像なのだが、2019年にこの作品を物語る音としてこの音像を選択したというのは正解であり勇敢だと思う。上記のBrittanyのアルバムなんかもそうなのだけど、どれだけ特徴的な音像にするかの戦国時代のような昨今のシーン。その中で、この作品のさりげないサウンドはむしろ際立った中庸の美しさがある。これは保守的だという意味ではなくて、現代において中庸に響かせるための気配りが行き届いているからこそだと思う。

 どの曲もソングライティングの質が高く、主役のヴォーカルも美しい。メランコリックでスローな曲が多くしかも長いアルバムなのにも関わらずつい何度もリピートしてしまう。なかでも退廃美を極めたような8分超のTr.3 Venice Bitchは、この先も2019年の夏の終わりの匂いとセットで聴くことになりそうな名曲だ。

 

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