Tweet 『Southern Hummingbird』/ ソウルフルでプログレッシヴでオルタナティヴな琥珀色の声
00年代初頭、R&Bラヴァーズにとっての"Tweet"とは140文字の縦スクロールのことではなく、それが指し示すのは「糖蜜のようなアルト・ヴォイス」に他ならなかった。その声の持ち主である南部のハチドリ、Charlene Keysは2002年のアルバム・デビュー以来、2024年現在で3枚のオリジナルアルバムを上梓している。
幾つかのシングルヒットを飛ばしたものの歴史の影に埋もれてしまった感のある彼女だが、その作品群は忘れがたい甘やかさを放っている。面白いことに超スロウなグルーヴの上で気だるげに振る舞うそのスタイルは、SolangeやJhene Aikoといった、2010年代を定義したシンガー達の雛形のように聴こえる。TimbalandファミリーがAaliyahの3rdアルバム『Aaliyah』で時折提示していたメロウ・サイドの可能性がTweetの作品には満ち満ちている。Aaliyahのプログレッシヴな音楽が10's R&Bの大きな源泉となっていたことを思うと、TweetとAaliyahによってその後の女性R&Bシンガーのスタイルの殆どが説明できてしまうと言えるかもしれない。
2002年リリースのデビューアルバムには2曲のブギー、2曲のTimbalanadトラック、10曲のスロウジャムが収められている。アルバムラストの数曲は焦点がぼやけている気もするし、Timbalandのトラックは悪くないもののAaliyahのアウトテイクのような感じ。それでもアルバム全体に充満するパフュームに抗うことは難しい。オールドスクールな「ソウルフル」ではなく、「ネオ・ソウルフル」な反復のビートに、発声のニュアンスと震えで熱を込める彼女のやり方は明らかに際立っている。その手法がばっちりハマった「Beautiful」や「Smoking Cigarettes」のようなトラックには琥珀色の魔法がかかっている。
Tweetの音楽性は時として単にオーガニック・ソウル等と形容されるが、明らかにヒップホップ以降のR&Bの一つの完成形だ。 ソウル・ミュージック時代の「ソングフル」な、輪郭のはっきりした20世紀型のソングライティングが有効性を失って以来、R&Bは必然的にヒップホップとの蜜月を選択することとなった訳だが、00年代初頭の時点で反復性とR&Bのヴォーカリゼーションの着地点を発見した例は稀有だ。いわばD'angelo、Aaliyah、Jhene Aikoのトライアングルの中心に位置するのがTweet。煩いつぶやきの洪水に溺れる前に彼女のさえずりに耳を傾けてみてはどうか。
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