Moblu的、宇多田ヒカル アルバムベスト3

ソーシャルメディアで話題を掻っ攫い中の宇多田ヒカル「BADモード」。14年来のファンとしても非常に感銘を受けました。
自分の中の整理のため、彼女のベストだと思うアルバム3枚についての覚書。

1. BADモード

現状のベスト。
稀有な美声が最も活かされたアルバム。
打ち込み主体のプロダクションと、歌メロを主に中低音域に設定したことが功を奏している。
巷ででよく言われる「サウンドの先鋭性」と言うよりも寧ろ、遂に「宇多田ヒカルサウンド」の黄金率を確立したなと思った。
それはヴォーカルミュージックとしてのある種の見切りの良さとも言えるかもしれない。
過去の作品はほぼ例外無く、彼女のヴォーカルの限界すれすれの歌メロが見られたが(「THIS IS LOVE」や「誓い」等)、今回は「野心的な歌メロ」には(ほぼ)目もくれずサウンドの一部として機能させる事を良しとしている向きがある。
その機能を担うことで逆に磨き抜かれたのがフロウとコーラスワークで、これは従来からの彼女の専売特許だったのだがずっとさりげないやり方だった。しかしBADモードのトラック達はビートとフロウとコーラスワークが三つ巴となって駆動する仕組みとなっており、自らの得意技を惜しみなく聴かせどころとして捧げている感がある。
結果として残すべきスペースが確保され、リラックスしている上にキャリア史上最も強度のある楽曲が揃った、マスターピースに相応しい作品となっている。
リリック等から立ち上がる彼女自身のキャラクターも相まって、ある種の余裕と諦念がエロティックな領域に足を踏み入れている。



2. HEART STATION

活動休止以前の最高傑作。
美点としてはBADモードと重なる所が多く、結果的にBADモードの雛形として聴けるアルバム。シンプルな打ち込み主体で、声を張らず、コーラスワークは美しい。思うに、彼女の声は電子音の中で最も威力を発揮するタイプなんだろう。
「花より男子」の主題歌が収められていたり、まだJPOPシーンにその軸足があった頃の最後の作品とも言えそうだ。
殆どが宇多田ヒカル自身が作ったトラックという事もあり、ビートの音色が磨きぬかれていないような、下手すると稚拙な印象になりかねない部分もあるのだが、結果的にボーカルとの調和がとれており誰にも醸し出せないバランスのサウンドになっている。
キラートラックの多いアルバムで、所謂「捨て曲なし」という事ができる作品だが、やはり白眉は表題曲。冷たい空気に染みていくようなイントロのキーボードには何度聴いても涙腺を刺激される。人を食ったようなアルバムのクロージングトラックである「虹色バス」も最高。


3.Fantôme

圧倒的な作家性を見せつけた、壮大なラフスケッチ集の様なアルバム。発売当初に聴いて雷に打たれた様な衝撃を受けたし、未だに音楽ファンからの支持も熱い作品と認識している。と言いつつも実は「良い曲」はそれ程多くないのではとも思う。不思議な磁力を放つ作品。
休止後初のアルバムである本作では、生演奏主体のプロダクションとなり、しかし生演奏ならではのアンサンブルの妙は希薄。宇多田ヒカルの打ち込みデモをそのまま生演奏に置き換えたような演奏で、アンサンブルというよりDTM的テクスチャー性を強く感じる。
ここでのヒッキーはまるで歌謡曲の伝統を30年越しに引き継いだかの様な振る舞いだ。「俺の彼女」に顕著だが、"誰にも言えない"秘め事めいたリリックが肌に纏わりつくような湿り気を伴って歌われる。
また鮮やかなフックアップの手際が発揮されたアルバムでもある。椎名林檎、小袋成彬、KOHHとの共演はどれも素晴らしい。中でもKOHHとの「忘却」はアンビエントなトラックに気が遠くなりそうな、宇多田ヒカルクラシックスに数えられる出来。後のPUNPEEの起用も含めてフックアップ巧者としてのプロップスも上げることに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?