見出し画像

2022年型ソウルバラッドの傑作アイナ・ジ・エンド「私の真心」

 アイナ・ジ・エンドが先日リリースした新曲「私の真心」が素晴らしい。

https://youtu.be/ZBnb9jJLxqU


 ゆきつ戻りつ心を込めて歌われる6/8拍子のソウルバラッド。切なくてウォームでスロウ。そのエモーションの提示の仕方は今日的な日本のポップソングの性急なエモさとは趣を異にしている。

 ここには生身の交流による確かなエロティシズムがある。一方で、古き良きソウル・ソングたちが私たちに提供してきたエロティシズムの記号:汗ばんだ肌、間接照明、グラスに注がれたリカー等、はここには見当たらない。記号に頼ることなくパフォーマンスそのものによってソウルを獲得している。

 このプロジェクトの構図自体:センシティヴな女性が声を振り絞ってそのパフォーマンスをソウルミュージックに捧げる、にある種のカルチャー的興味を煽る要素があることは認める。しかし、メタ的な見立ての興味深さには決して終始しない。本物のソウルにタッチしているし、パフォーマンスのクオリティそのものによってソウルミュージックに値しているのだ。

 声のかすれやブレス、更には「音割れ感」までを用いてアイナの声の肌理を強調するillicit tsuboiによる音処理はこの曲の肝、彼女のヴォーカリゼーションを最適に捉える。6/8バラッドの一番の旨味である自由な歌のフロウはお仕着せではなく、確実に歌い手の身体的実感を伴って繰り出されている。そして同じくらい素晴らしい、ゆったりと脈打ち黄金色に艶めく演奏が相まって、形式面でのエロティシズムを十二分に担保する。そして名付けられた「私の真心」という曲名の身体性。

 「真心=ソウル」という読み替えすら可能かもしれない。岡村靖幸がアイナ・ジ・エンドのパーソナリティを想定して書いたという歌詞が演奏、特にヴォーカルパフォーマンスと不可分に結びつく事で、ソウル的記号の向こう側で真心を獲得する。

 スタイル的にはディアンジェロ門下生に位置付けられるスロウジャム。この手の曲は日本においてもこれまで数多生産されてきた。しかしどこか様式美に囚われてきた。例えば星野源にはこのスタイルの曲(POP VIRUS収録のDead Leafが最も顕著)が数曲存在するが、「出来がいい〜最高」の中間に留まってきたように思う。それは彼の少し強張った歌唱に起因していた様に思う。アイナ・ジ・エンドは奔放に観えるヴォーカリゼーションを軸に、世界にここにしかないアンサンブルを従え、美しい演出(ミックス)を施し、この傑作を仕立てた。

 この通り、「私の真心」は、初めて「最高」とラベリングできるポスト・ディアンジェロ・バラッドだというのが自分の結論だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?