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日常

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11年前、あのとき。

11年前、あのとき。

午後2時46分。

娘と幼稚園から帰宅したばかりで、洗面所で持ち帰ったものの洗濯をしていた。
娘はおやつを食べていた。

最初は貧血かめまいだろうかと思っていたが、洗面台の水が派手に撥ねて床にこぼれ、揺れてる?と気づいた。あれ?地震?

「おかあさん、じしん」と口をモゴモゴさせながら娘は言う。こんなに長い揺れは初めてだった。リビングに戻ると、娘の後ろで、55インチテレビが上下左右に揺れていた。酔っ

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はだかの王さまと聖火リレー

はだかの王さまと聖火リレー

「王様は裸だ」と言った子どものように、ひとりの男が叫んでいた。

「おまえらは何様なんだ。オリンピックがどれほどのもんだ!くだらない!」

 

聖火リレーすごく見たい、というほどではないけれど近所を通るらしいという話になって、娘の同級生のYちゃんが、リレーセレモニーに市内中学生代表で出るということを聞いた。

それは見たいな、見にいこうか。一生に一度のことだし。そうだねぇ。

そんな流れで友達と

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最後の運動会

最後の運動会

昨日は、中三の娘の体育祭だった。

子ども達が幼稚園に上がってから、もう十何年、運動会または体育祭という行事が年に一度必ずあった。しかし昨年は体育祭だけでなく、イベントがほとんど行われなかった。今回も大幅に縮小短縮して、午前中のみで解散の予定になった。

うちの家族は皆、運動能力が高いとはいえず、このイベントを心待ちにするタイプとは言えない。しかし、それでも久しぶりの学校行事に、家族全員、朝から心

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食べると会社を辞めちゃうカレー

食べると会社を辞めちゃうカレー

「彼が作るカレーを食べた人は、もれなく会社を辞めちゃうんだよね」とチーフが言って、ドッと笑い声が起きた。
言われた本人、Mさんは憮然として「偶然っすよ、でも食べた人は皆んな美味しいって称賛してくれてますよ」と納得いかない顔で答えた。

転職した職場で、私への歓迎会が開かれ、社員ひとりづつ自己紹介していたときだった。和やかで、社員同士の仲が良好なのが感じられる。自己紹介するたびに、誰かがツッコんで合

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readingじゃない、scanningなんだ

readingじゃない、scanningなんだ

webサイトの記事・企画に携わるようになって、否応なく感じたことがある。

私と若い世代の、テキスト情報の読み取りスキルは、もう全然違うのだ。

私は昭和の頃から続く活字中毒者だった。

あの頃、印刷してある文字は魔法の呪文と同じで、絶対の魔力を持っていた。自分の言葉を文にするには手書きしか手段がなく、本や新聞雑誌やお菓子の成分表示に至るまで、印刷文字は「正義」であり「権威」であり、間違いなどあっ

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銀のスプーンのメッセージ

銀のスプーンのメッセージ

半分に折れ曲がったスプーンを見たとき、感じたメッセージは「自由」だった。
それは私にとって、もう隷属しては生きられない、ということと同義だ。

会社を辞めた後、やっぱり不安になって何度も就職活動をしたのだが、その度に不可思議な事があった。

ある会社は出社3日目、帰り際にエントランスで、同期入社の子が「この会社変だよ」と耳打ちしてきた。経理に配属された女の子だった。聞き返す間もなく彼女は去り、その

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みずうみに眠るコンパス

みずうみに眠るコンパス

クリエイティブ・ライティング講座を受けてから一年が過ぎた。

先日、同窓会イベントがあって、そこで久しぶりに同期と再会した。

あの場所で不思議な時間を過ごした仲間たちは、もう全然違う場所にいる。近況を聞いても、環境も興味も全てが違うので、初めて会ったような気がした。

私たちのグループ名は「patience」我慢、忍耐という意味だった。

私にはとても説得力ある単語だった。人生修行、それが当たり

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