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映画『浜の朝日の嘘つきどもと』を観た話。

映画は、なくても生きられる。
テレビも、ドラマも、なくても生きられる。

実際、私も昔は映画なんて興味なかった。でも、今では映画なしの人生など考えられない。映画館に籠って1日に3本も映画をぶっつづけで映画を見るし、帰りにはたくさんのチラシを抱えて帰る。そして新しい作品に出会って、その作品を観ることを楽しみに毎日を生きていく。しっかりと、もう離れることはないぐらいに、映画が人生の歯車にかみ合ってしまったのだ。

映画「浜の朝日の嘘つきどもと」

高畑充希主演で、2021年9月10日から公開中の日本映画。もともとは、2019年に福島中央テレビが福島県域向けにローカル放送したスペシャルドラマだったのだが、東日本大震災から10年を迎えるにあたり、新たなキャストを迎え映画化された。

舞台は、福島県南相馬市に実在する劇場「朝日座」。劇場の閉館と建物の解体が決まり、保存していた古いフィルムを支配人が燃やしていた。と、そこへスーツケースを持った若い女子が駆け込んでくる。彼女は名を茂木莉子(もぎ・りこ)と名乗る。莉子の「東京から朝日座を立て直しに来た」という言葉に、支配人の森田(演:柳家喬太郎)は困惑する。しかし、莉子の突拍子もない行動と勢いに、森田も徐々に押され気味になる。
そのうち、莉子はクラウドファンディングを利用して必要な運営資金を捻出しようと試み、様々な人物を巻き込んで行動を始める。実はこの行動の裏には、茂木莉子が歩んできた青春時代の恩師が深く関わっていた。


今回の映画版はドラマの前日譚となる、なぜ茂木莉子がこの朝日座にやってきたのかという謎、そして、莉子が映画に出会い成長していくまでの過去が描かれていく。今と昔を行き来しながら続いていく物語は、ほどよく笑いを交えながらも、要所要所でしっかりと感動させてくれる、非常にメリハリのある展開だった。

莉子の恩師役である大久保佳代子の演技が予想以上にしっくりきていたり、高畑充希らしからぬべらんめぇ調での乱暴な掛け合いと、森田との軽妙な口喧嘩。震災や人間模様、経営の危機、家族の離散と、重たくなりがちないくつもの要素がストーリーに詰まっているのだが、このコミカルさによってうまい具合に明るく保ってくれる。

「もう終わったんだよ」
「バカ野郎、まだ始まっちゃいねぇよ」

ご存じ、北野武監督の作品「キッズ・リターン」の名言。この作品の象徴的なセリフとしてオマージュがされ、予告編にも登場する。映画が見られなくなったって、街は誰も困らない。映画館の存在を「忘れていくこと」「関心が薄れていくこと」の恐怖。それに抗うことを誓った莉子が放つこのセリフは、何よりも説得力があり、莉子の並ではない映画への想いを感じる場面だった。


そして、タイトルにもある、この映画のもう一つのテーマが「嘘」。ストーリーに登場する人物たちは、互いに様々な嘘をついていく。それは、人間が生きていくなかで数えきれないほどつくぐらいのささやかな嘘もあれば、周りの人間を巻き込んでいくレベルの大きな嘘もある。それは、大好きなものを守るためでもあり、あるいは自分が想っている他人のためであり、あるいは自分を守るためでもある。

でも、だんだんとそんな嘘とか保身とか言い訳とか、作られた真実がすべてそぎ落とされて何も無くなっていく。そのうち、誤魔化しの効かない家族に対する本心や、ドロッとした人間の本心や、とにかくいろんなものが晒されていく。その時、莉子はなにを思うのか。


映画は、娯楽は、確かになくても困らない。

そして同じように、この世界も
「なくても困らない何か」で溢れかえっている。
そして今日も、世界のどこかで「何か」が
ひとつずつ姿を消している。

でも、私はなくなると決まった時に「なぜだ、どうしてこうなった」と無責任に騒いで誰かを責めてしまう人にはなりたくない。せめて、少し寂しそうに笑って、決まってしまった別れを心で受け止めて、次のステージへに進める人間でいたい。そう、この作品を観て思った。


映画「浜の朝日の嘘つきどもと」。
全国のテアトル・シネリーブル、
その他ミニシアター系で絶賛公開中です。


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というわけで、今回は映画「浜の朝日の嘘つきどもと」のレビューでした。

引き続き、読者の皆様から映画レビューのリクエストを受け付けております。この作品をレビューしてほしいというリクエストがありましたら、下のURLから「募集のお知らせ」に飛んでいただき、コメント欄の方に投稿をお願いいたします。瑞野が責任を持って、レビューさせていただきます。



おしまい。



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