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『B-SIDE』に抱かれて始まった、私とMr.Childrenの人生。

そういえば、瑞野はMr.Childrenが好きだと常々話してきてはいたが、そもそもなぜMr.Childrenを好きになったのかというきっかけを話したことがなかった気がする。きょう3月8日、音楽の神に愛された奇蹟の人・桜井和寿誕生の日にお話しようと思う。
しばしお付き合いを。

実は、これを言うと
大概のミスチルファンは驚くのだが、
私が初めてMr.Childrenの音を聞いたのは

『B-SIDE』というスペシャルアルバムだった。

「B-SIDE」とは2007年に発売された2枚組のアルバム。シングル曲のカップリングとして収録されたものの、アルバムには収録されなかった曲たちを一挙にまとめた、いわば『裏ベスト』のようなものである。ただ正直、これを覚えたてのミスチルファンが聴くにはあまりにハードルが高い。ミスチル自身がやりたい音楽が強く反映されていて、濃度も高く、強烈にマニアックな曲ばかりだからだ。

そのマニアックさもあってか、これら収録曲たちは過去のミスチルのライブの歴史のなかでもほとんとセットリストに上がってこない。まあ、それも歌詞を紹介すれば納得である。
例えば、「こんな風にひどく蒸し暑い日」。

その日記録的な猛暑が僕らを襲ってきて
映画館に逃げ込んで卑猥な映画見た
部屋に着くともう僕らはガラス窓を閉め切って
エアコンのない君の部屋でただ夢中になっていた

これ以上ないほど直接的でセクシュアルなミスチル。曲自体はデジタルとバンドサウンドがマッチしたファンクでキレがいいのだが、なんせ歌詞がこんなんだから初見だとまず大困惑する。ちなみにこの曲は自身2度目の日本レコード大賞を受賞した名曲「Sign」のカップリングである。後光の射す聖人君子のようなミスチルと、えげつないまでに煩悩に染まった人間臭いミスチルが味わえる。

もちろん、「ほころび」や「ひびき」など、ミスチルらしい爽やかな愛の歌も収録されているが、その一方、複雑な現代社会に鋭くドロップキックと水平チョップをかますような、ヒール・悪役なミスチルも垣間見える。どちらかというと上級者向けの凝ったアルバムであることは間違いない。


では、なぜその「B-SIDE」から
私はミスチルのドアをノックしていったのか。

我が実家の洋間には、WindowsXPのパソコンがあった。それはもともとうちの祖父が大工をやっていてその仕事にいろいろ使うからということで置いていたのだが、いつの間にやら息子である私が弄り倒すようになり、そのうちそのパソコン置き場に自分の部屋を作ってしまったもんだから完全に私の所有物になってしまっていた。で、そのパソコンの中に、なぜかこのB-SIDEが取り込まれていたのだ。おそらく、CD-ROMか何かにアルバムを焼いて(焼いてという言葉自体もう死語かもしれんな)誰かに貸すなり車で聴くなりしていたのだろう。

それで、パソコンをいじっているときにそのB-SIDEのファイルを発見し、メディアプレーヤーで聴くようになった。しかし、当時の私は「この歌を歌っているのはMr.Childrenというバンドなんだ」ということを認識していなかった。ただ、なんかやたらと高音を出すのが上手くて、振り幅が広くて、印象に残る歌だなーというぐらいの気持ちで聴いていた。

君の事以外は何も考えられない
いつもそばにいてよ いつまでもそばにいてよ

「君の事以外は何も考えられない」

どうせダメならやってみよう
数え切れぬ絶望を味わった 夢を追う旅人

「旅人」

インディーズ時代の爽やかそのものなミスチルも、大ブレイク後に荒波に吞まれていく尖ったミスチルも、あらゆる経験を重ねて成熟したミスチルもある。大ヒット曲を網羅しなくても『B-SIDE』を聴けば、ミスチルのこまやかの音の変遷が手に取るようにわかるのだ。この鮮やかなグラデーションのように変わっていくミスチルの音に、幼い頃の私はすっかり魅了されていた。


そんな『B-SIDE』の中には、Mr.Childrenとファンにとって大切な歌が収録されている。それが、『1999年、夏、沖縄』。桜井和寿自身も「これはMr.Childrenにとって大切な曲」と常々公言しており、周年ツアーの際には必ず演奏されてきた、彼らの節目を飾る曲でもある。

25周年ツアー『Thanksgiving25』でこの曲が演奏されたときも、私は人目をはばからず号泣した。ぜひ、この動画の最初で演奏されるテイクを聞いてほしい。そして、桜井和寿のMCを聞いてほしい。制作当時の彼らがどんな思いで居たのか、そしてなぜこの曲が「Mr.Childrenにとって重要」なのか、その理由がわかると思う。

私は今でもこの曲を気軽に聴くことができない。涙を抑えることができないから。本当にどうしようもなくてどの曲を聴いても心がうわの空で、もうどうにも頑張れない。そんな時にだけ、そっとイヤホンをして再生したい。そして一人で泣きたい。そんな曲だ。


Mr.ChildrenはCDブームの最中数々のタイアップ曲によって爆発的にヒットしていき、結果30年業界の第一線を走り続けるモンスターバンドとなった。その一方「自分たちのやりたい音楽とは何か」という問いを常に投げかけ続け、商業的に求められる曲とバンドのアイデンティティの間で揺らぎ続けた。その揺らぎによって生み出された曲たちが、この『B-SIDE』に詰まっているのだろうと私は捉えている。

音楽の本質は、商業的な意図に左右される表通りではなく、一歩踏み込んだ、誰もが手放しで認めてくれるわけではないマニアックな音楽にこそある。その粗削りで剥き出しな音楽にこそ、ミスチルの、もとい、アーティストの本質が現れるのだ。「B-SIDE」は、私の音楽に対する価値観を少なからず育んでくれた貴重な存在であると思っている。

今も実家に帰ると、本棚に並ぶCDたちを手に取ってみる。色褪せたジャケットと擦れたスリーブケース。外見はすり減って衰えていくけど、あの頃と何も変わらないワクワクを届けてくれる。それはまるで、いつでも息子のことを優しく受け止めてくれる、自分の親に会う時と同じような気分だ。



最後に改めて、桜井和寿さま。お誕生日おめでとうございます。これからも喉と体にお気をつけて、私達に新しい音を届け続けてください。これから開幕する30周年記念公演「半世紀へのエントランス」ツアーも、無事に完走されることをお祈りしております。



おしまい。



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ヘッダー写真引用:2018年10月3日配信「いつまで叫び続けられるんだろう」――桜井和寿、26年目の覚悟(Yahoo!ニュースオリジナル)



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