酸っぱくてほろ苦い blood orange
現役大学生(2020年現在)、瑞野蒼人です。
私の世代は、CDからサブスクリプションへの過渡期と言えるだろう。高校時代には無料で無制限に曲が聴けてしまう違法アップロードの音楽アプリが登場し、世間をいろいろと騒がせた。
私も今はすっかりサブスクリプション派になり、LINE MUSICのヘビーユーザーとしてスマホとイヤホンを手放さない毎日を送っているが、それでもひいきのバンドがニューアルバムを発売すれば欠かさず円盤を買う。
人生で初めてCDを買った(買ってもらった?)のは、2012年だった。
その年の年末に、日本の4人組バンド・Mr.Childrenが17枚目のフルアルバム「[(an imitation)blood orange]」をリリースした。
あの時の高揚感を、今も覚えている。
我が家は、叔父が生粋のミスチルファン(今はそうでもないらしいが)で、ほぼすべてのアルバムを網羅して購入していた。その財産をごっそり受け取った私も、自然とミスチルファンになっていき、小学生高学年になったころにはすっかり虜になっていた。
で、この「[(an imitation)blood orange]」。CDケースとしては異質なオレンジ色のプラスティックケースに入っていて、ジャケットはブラッドオレンジの表面。目に毒な程、ビビッドで鮮やかなアートワークだった。
で、このアルバム、トラック11に「祈り~涙の軌道」という曲が収録されているのだが、その中にこんな歌詞がある。
この作品は、2011年の東日本大震災、誰しもが絶望を感じたあの日を超えて、桜井和寿が胸の内に一体何を感じたのかが凝縮されたアルバムだ、というふうによく語られる。
皆誰しも、ふと蘇ってしまう悲しい過去、成長できない自分、守りたい大切な物、色々な財産を抱えて生きている。それが時折自らの心を苦しめる存在であったとしても、全ての記憶と手をつないで、生きていく。それを歌ったこの曲が、アルバムのラストを飾っている。
甘くて、酸っぱくて、ほろ苦い。それがブラッドオレンジ。
あるいは、それが人生。
まだ中学生で、人生の試練や苦しさが何一つ分からなかったあの頃の私が、唯一大人の苦しさと喜びを味わえたのが、音楽を聴いているときだった。音楽は、夢を歌うだけじゃない。現実も、理想も、あらゆることを歌詞にして、作品にしていく。
そのことを感じ、私は自分の部屋でひとり涙したのだった。
今も、その眩いオレンジ色の果肉は、CDケースの中でひっそりと輝き続けている。そして、その果肉はまた新しいファンを連れて私の人生を彩ろうとしている。そう、私の恋人だ。
親から子、そしてその家族、次の世代。決して腐ることのないオレンジは、これからもこの胸に輝き続けるはずだろう。