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【小説】宝塚のトップスターを好きになりました

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宝塚歌劇団に関するエッセイ風小説を書いています。 主人公が宝塚歌劇団のトップスターを好きになり、ファンとして活動していく中でさまざまな人たちと出会っていきます。 そして1ファ…
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#推し活

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

「椿さーーん!」
「いままでありがとうーーー」

キャーという悲鳴の向こうに、手を振りながら歩いてくる真っ白な人。
ファンクラブという鉄壁の人垣に守られながら、その人は最終地点まで向かっていく。

「椿さん!私たちはいつまでも忘れませんーーー!」
ファンクラブ幹部の号令とともに、朝から並んでいたファンクラブ会員がいっせいに叫ぶ。

「いままでありがとうございました」
彼女はそう大きくない声を発しな

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「すっごいポスター」ー宝塚歌劇団との出会いー

「すっごいポスター」ー宝塚歌劇団との出会いー

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「この写真の真ん中が私の好きな人なの」
そう母親に告げられてポスターを見せられた。

それが私の宝塚歌劇団との出会い。
私が20歳の時だった。



私の母親が宝塚にハマったというのは先日聞いたばかり。
この日はちょうどお盆で実家に帰ってきたので
どんなものかと興味本位聞いてみた。

私「それで、それで。なんだって?」

私は宝塚ってなんのこっちゃと思いながらも
好きに

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遠い・・・遠かった ー宝塚初観劇ー 

遠い・・・遠かった ー宝塚初観劇ー 

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劇場の近くに到着すると、思っていたより人が沢山いた。
私はこの人混みの中母親を探すのか・・・
と思ったらちょっとげんなりした。

「おーい!ここにいるよー」
母が劇場入口にあるチケット売り場のあたりで声を出して叫んでいた。

うはー、はずかしい(;´・ω・)
めっちゃ手を振っている。
20歳になったばかりの私にとって
アウェイで叫ばれるほどはずかしいことはない。

しかも

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ひとり宝塚鑑賞デビューーチケット問題の壁ー

ひとり宝塚鑑賞デビューーチケット問題の壁ー

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チケットをにぎりしめ、東京宝塚劇場へ観劇に向かった。
この日は私がひとりで宝塚を観劇する初めての日。

あの劇場近辺の独特の雰囲気
女性たちがあふれる道路
劇場内の静まり返った空気
ちょっと想像しただけで胸の奥がうずいた。

そして、そもそもこのチケットを手に入れるにあたり
かなり苦労したことをお伝えしなければならない。



宝塚は2022年現在、非常にチケットが取り

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初めてのファンクラブ入会ー宝塚歌劇の情報源ー

初めてのファンクラブ入会ー宝塚歌劇の情報源ー

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「あの真ん中に立ってる人じゃない、
私が気になるのはあの左の人」

それがそのスターさんとの出会いだった。
母は舞台の真ん中の人に夢中だったけれど
眩しいほどのスポットライトが当たるその人より
不思議なことに、私にとっては薄暗い照明のなか一生懸命踊るその人に目が行く。

「ああ、この人のこともっと知りたい」

それが宝塚スターを好きになる
ということに随分たったあと気づく

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宝塚スターを応援する、ということ

宝塚スターを応援する、ということ

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「宝塚のスターを応援する」
これはとても熱い情熱と根気、時間と
あとなによりもお金がいる。

応援する相手によっては、
スターになるまでかなりの忍耐力も必要だし
本当に上に上がれるのか?と、ハラハラしたり
辞めてしまわないかという不安と葛藤したり
思いもよらない組替えで納得できない位置にならないよう祈ったり。

スターさんがしたっぱのときにはしたっぱの悩みがあって
スター

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リベンジが始まる

リベンジが始まる

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「これはリベンジになるかもしれない」

そう確信したのは前回のスターさんが退団して数年後のことだった。
私はまったく別の宝塚スターさんを好きになった。

当時すでにトップだった「聖夜 椿」

その後、およそ4年に渡りその人を応援し
退団まで見送ることとなる。

前回宝塚を好きになったときに
やりきれなかったことや思いを残していた私は
この人にすべてを賭けて自分自身にリベン

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宝塚スターを好きになるフェーズとは

宝塚スターを好きになるフェーズとは

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宝塚を最初に知った人は驚くことだろう。

だいたいどれか当てはまる。
私はとにかく化粧が濃いことが最初の印象だ。

最初に見たポスターを私はいまでも覚えている。
記憶の中で鮮明に残っているあの強烈な笑顔は一生忘れることはないだろう。

数年前の宝塚はいまの現代風宝塚と違い、全体的に濃かった。

現在はかなりライトになり、2.5次の世界観などで見慣れたこともあり抵抗感が少な

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ディープな世界へようこそー宝塚ー

ディープな世界へようこそー宝塚ー

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今思えば20歳のころの私があのスターさんを応援していたとき、まだ本格的に深い世界までのめりこむことはなかった。

言ってみれば、ライトにちょっと毛が生えたくらいのファンだ。

ファンクラブには入ったけどお手紙は渡したことがない。
なぜなら彼女は番手が上がってからお手紙を直接受け取らなかったからだ。
ファンクラブに入った当初渡せた頃はあったけれども、当時の自分には勇気がなか

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トップスターの挨拶

トップスターの挨拶

「スカイステージ見なきゃ」
仕事から帰ってきたと同時に、机の上にあったテレビのリモコンを手に取った。

今日はちょうど「愛の岐路」が千秋楽を迎え、その様子がニュースで放映される予定だった。

千秋楽の様子は最後にトップスター「聖夜 椿」の挨拶で終わっていた。

「この公演中にはいろいろあって・・・」

真顔でそんなことを言っている。
真顔なのだからけっこう深刻なのだろう。

「ほほう・・・なにがあ

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正統派男役と言われて

正統派男役と言われて

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「聖夜 椿」は正統派男役、と言われていた。
ノーブルな立ち姿やしぐさ、憂いを帯びるまなざしで圧倒的な人気らしい。



「この人を知りたい」

そう思い手にした歌劇をしげしげ眺め、読みふける。

つい先日観劇してから、椿のことが気になって仕方がなかった。

あの作品はコメディーだった。
あの人はおもしろいタイプなのかな。
そう先入観をもった私にとって、椿が「正統派男役」

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宝塚歌劇のお花代という謎システム

宝塚歌劇のお花代という謎システム

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贔屓が決まると、公演が無い時期というのはものすごくヒマだ。
毎日仕事から帰ってくるとスカイステージをポチっとつける。

月一回発売される歌劇とグラフは、友の会から郵送で送られてくる。
大抵到着したその日に大事なところは読み切ってしまうので、そのあとは一か月かけて隅々まで読み漁る。

グラフの付録でたまについてくるポスターは、保管用と飾る用が必要だ。
推し活がはじめての人に

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宝塚大劇場の入り待ち

宝塚大劇場の入り待ち

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宝塚大劇場のある阪急宝塚駅。
この駅に降り立つとなつかしい想い出がよみがえってくる。

ホームからチケット改札までの道のりにある地元銀行の看板。
今でも変わらない、ここでは現在絶賛売り出し中の若手スターが笑顔で迎えてくれる。
これだけでもタカラヅカに来た、という実感で胸がいっぱいになってくるものだ。

花の道を歩く。
道の両脇に立つ桜の木は、新緑を迎えみずみずしい葉っぱが

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大劇場前方席の世界 ー古参ファンAさんの場合ー

大劇場前方席の世界 ー古参ファンAさんの場合ー

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その人は開演15分前にやってきた。
私は緊張と不安のあまり、30分前の待ち合わせのところ45分前からこの門の前で待っていた。

これから開演の舞台チケットを今現在私は手にしていない。
「掲示板」で知り合った人に譲ってもらうためだ。

待ち合わせ時間である30分前からはもう心臓のドキドキがおさまらない。

「このままこなかったらどうしよう」

このあとの公演チケットも持って

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