遠い・・・遠かった ー宝塚初観劇ー
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劇場の近くに到着すると、思っていたより人が沢山いた。
私はこの人混みの中母親を探すのか・・・
と思ったらちょっとげんなりした。
「おーい!ここにいるよー」
母が劇場入口にあるチケット売り場のあたりで声を出して叫んでいた。
うはー、はずかしい(;´・ω・)
めっちゃ手を振っている。
20歳になったばかりの私にとって
アウェイで叫ばれるほどはずかしいことはない。
しかもこのあたりにたたずんでいる人たちは上品そうな人たちばかりで
声を出して呼んでいるのは母親だけだ。
「あ、ごめん。お待たせ」
私は近寄って母の耳元でこっそり言った。
はずかしい中でのそれがせいいっぱいだった。
◆
劇場の中に入ると座席表があった。
母「どこかなぁ・・・」
手にチケットを握りしめて、今日私たちが座る席を探している。
母「えーと・・・」
「あ、ここだ」
指を差した場所は座席表のずーーーと下。
もう枠からはみ出そうなくらい下だった。
母「2階席の・・後ろから数えたほうが早いね」
◆
席に着いてまわりを見渡すと、結構な座席数におどろいた。
私は舞台というものに全く慣れていないので、これが広いのか狭いのかはわからない。
でもとにかく席がいっぱいある。
そして二階席だというのに私たちより前にもズラーっと席があるのにもおどろいた。
「さーて・・・」
肝心な舞台を見ると・・・
遠かった。とにかく遠いのだ。
あのカーテンらしきものの向こうで繰り広げられる舞台。
厚ぼったいカーテンには仰々しい刺繍がしてあって
大層なものらしい。
刺繍で文字も入っているようだけど遠すぎて全く読めない。
とたんに不安が押し寄せた。
きっと遠すぎてよくわからないまま時が過ぎるんだろうな、
直感でそう思ってしまう。
なんとなくこれからの3時間、気が重くなる。
そして幕が開いた。
◆
休憩時間になるとなぜかみんな席を立って走っていく。
あんなに急いでどうしたんだろう。
そう思っていると母親はさっそく私に笑顔で話しかけてきた。
母「ねえ、どうだった?」
私「・・・うん、遠かった」
母「おもしろかった?」
私「そうだね」
興味がないわけではない。
舞台の内容も悪くはない。
ただ、よくわからないまま終わった。
演じている人たちの顔はほとんど見えなかった。
セリフがとにかく多い。
そして突然歌いだす。
ただ内容を把握することだけに集中して舞台は終わった。
ひととおり話をして「さて、とトイレでもいってこよっかな」
と席を立ちトイレがある方向に向かう。
そこで驚きの光景を目にすることになる。
めっちゃ並んでいるのだ。人が。
しかも女の人ばっかり。
あの休憩時間に入ったときみんな走っていったのは
トイレに並ぶためだったのだ。
ここで謎が解けた。
そして目の前にある行列の先には
最終地点にトイレがあったのだ。
あまりにもトイレまでの道のりが遠く
これがトイレにつながっている並びだと気づくのに数分かかった。
◆
私たちがトイレを終えるころには、もうすでに劇場内に音楽が流れていた。
耳を澄ませると「席にお戻りください」と言っている。
うひゃーーー!!!急がないとっ!
母親はあわててハンカチをガサガサ探している。
「あー、もういいからそのまま行こう!」
大慌てで私たちは席に戻る。
ただあまりにも悪い席のため、遅れて行っても誰にも迷惑をかけることなくすんなり座れたのはラッキーだったのかもしれない。
◆
ほんとに短い休憩をはさんで始まった後半はショーだった。
前半の水を打ったような静けさとうって変わり
いきなりにぎやかなステージだった。
私はさっきまで息をひそめてステージを見ることにつかれていたので
ほんのちょっとだけ安心した。
母は真ん中のトップスターが出てくると
身体がちょっとピクっとなり、よく見ると笑顔になっている。
そしてときおり手をグーにして前で重ねて祈るような姿勢になっている。
なにを祈っているのだろう。
まあ面白いから時々母も見ることにした。
ところで私はショーの序盤から気になる人がいる。
あの真ん中よりちょっと左側にいる人、なんだろう。
なんとなく動きが気になる。
その人が足を上げた。
手を伸ばした。
身体を揺らしている。
なんとなく気になって、いつの間にか目で追っていた。
そのうちソロで歌を歌いだした。
めっちゃうまい。
なんだ、歌もめっちゃうまいんだ。ふーん。
◆
幕が降りて舞台は終わった。
母親は上機嫌で歩いている。
とっても機嫌がいいのか「今日は天丼食べて帰ろう」と言った。
東京に住まいがある私にとって
東京宝塚劇場は何の気兼ねもなく行ける場所にあった。
「次のお休み、いつだったかな」
私はいつしか手帳を広げてスケジュールをチェックしていた。
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