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宝塚スターを好きになるフェーズとは
≪前回の記事はこちら≫
宝塚を最初に知った人は驚くことだろう。
女性が男性を演じている
化粧が濃い
セリフがおおげさ
劇場が少ないもしくは遠い
チケットが取れない
情報がほとんどない
好きな人がまわりにいない
ファンが女性しかいない(と勘違いされている)
だいたいどれか当てはまる。
私はとにかく化粧が濃いことが最初の印象だ。
最初に見たポスターを私はいまでも覚えている。
記憶の中で鮮明に残っているあの強烈な笑顔は一生忘れることはないだろう。
数年前の宝塚はいまの現代風宝塚と違い、全体的に濃かった。
現在はかなりライトになり、2.5次の世界観などで見慣れたこともあり抵抗感が少なくなった。
ネットの情報開示も大きい。
宝塚に関する事前情報が手に入れやすくなった。
ただしなにごとも「知らない世界」に踏み入れるのは勇気がいることだ。
その少しの嫌悪感と興味のはざまで
一歩を踏み出した人が次のフェーズを迎える。
◆
「どれが誰かわからない」
勇気を出して劇場に行くようになると次の難関がやってくる。
舞台上にいる演者がいったい誰なのかまったくわからないのだ。
かろうじて真ん中に立っている人には激しくスポットライトが当たる。
途中で不自然に歌を歌うし、セリフもおおげさで沢山しゃべる。
その横で楚々と寄り添っている女性役がどうも女性側の主演らしい。
「あー、あの二人がペアなのか」
それに気づける公演だったらもうけものだ。
実際のところ公演によっては誰が女性側の主演なのかわからないものもある。目立つ女の子役が2人いるのだ。
また主演の男性役の特定も迷う公演が過去にはあった。
主演が女性だったり(ベルサイユのばらや風と共に去りぬ)
主演が二人いたこともある(W主演や日替わり)
主演でさえもそうなのだから、したっぱの人となると全くわからない。
3番手くらいまではパンフレットを購入すると大きく載っているのでなんとなく想像できる。
重要な役回りを演じていたら「そうなんだろうなー」くらいは。
そしてショーになると女性を多くの従え
真ん中で踊るシーンが与えられていれば番手付きだ。
最後に羽を背負っていれば間違いない。
ここで挫折せず、自分のなかで「キラリと光るあの人」
を見つけられた人が次のフェーズへ行く。
◆
たった一人のスターさんを見つけるとき。
それは突然やってくる。
あの広い舞台の中で自分にとって
「目が離せない存在」ができるのだ。
決してスポットライトがあたっているわけでもない。
重要なシーンを任されているわけでもない。
セリフや歌があるわけでもない。
それでも一挙手一投足から目が離せない、そんな存在。
下級生や脇役を演じている上級生を好きになるファンは、鋭い観察力の持ち主だ。
優位な条件ではない中、自分の推しを見つけることができたのだから。
トップや主演をめざすクラスのスターさんに目が奪われるのはよくわかる。
劇団側もそれを狙って主演クラスに見せ場をいっぱい作っているのだから当然だ。
ただ、不思議なことに主演ならだれでも好きになるかというとそうでもない。
最初に見に行った宝塚の公演で好みのタイプを見つけることができた人はラッキーだ。
応援するスターさんを見つけるために遠回りをしなくてすむ。
大抵の人は、最初の違和感のフェーズを超えたあと、
各組をまんべんなく見て回るフェーズを迎える。
そしてその中の選ばれし精鋭ファンが
「たった一人」を見つけてディープな沼へどっぷりとハマっていくのだ。
◆
「たった一人」を見つけた人はその後、宝塚という秘密のベールに包まれた世界に魅せられていく。
それはまるでロールプレイングゲームでまだ見ぬ先を攻略したり
育成ゲームで課金しながらキャラを育てるように
多くの労力をかけて宝塚という沼にズブズブとのめりこんでいくのだ。
ここまでくると最終フェーズに突入だ。
◆
スカイステージを見て思い立った私は
その後上演中の東京宝塚劇場へ一人で向かった。
いま上演されているのは「愛の岐路」という
タイトルからは想像できないけどコメディーらしい。
まったく意味不明だけどしかたない。
主演の「聖夜 椿」も映像で見る限り好みではないけれど、
これもしかたない。
「まあなんとかなるでしょ」
とにかく行ってみようとチケットを手に入れた。
◆
舞台が終わり劇場を出るともうすっかり夕方になっていた。
「なんだか変なストーリーだったな」
そう今日の公演を振り返りながらの帰り道、
いつのまにか鼻歌を歌っている。
この鼻歌は「聖夜 椿」が歌っていた主題歌だ。
何度も繰り返し歌うから頭から離れない。
覚えやすいメロディーとキャッチ―なフレーズに
ついサビの部分だけリピートしてしまう。
「あの主演の椿って人、歌うまかったな」
そうつぶやいてレンガが敷き詰められた地面を眺めた。
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