宝塚大劇場の入り待ち
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宝塚大劇場のある阪急宝塚駅。
この駅に降り立つとなつかしい想い出がよみがえってくる。
ホームからチケット改札までの道のりにある地元銀行の看板。
今でも変わらない、ここでは現在絶賛売り出し中の若手スターが笑顔で迎えてくれる。
これだけでもタカラヅカに来た、という実感で胸がいっぱいになってくるものだ。
花の道を歩く。
道の両脇に立つ桜の木は、新緑を迎えみずみずしい葉っぱがキラキラ光っている。
いや、光っているように見えただけかもしれない。気分が高揚している時は、どんな景色もきらめいて見えるものだ。
この花の道、いつも私はどこを通ろうか一瞬迷う。
みんなが「花の道」という看板で写真を撮ったりしているのは、3つルートあるうち真ん中ルートのことだ。
ただ実際のところ、私はこの真ん中を通ったことは数えるほどしかない。
両脇にはお店が並んでいて、宝塚に関するものやグッズなどが売っている。
それをウロウロと見るのはほぼ終演後になるのだが、真ん中の道は少し段上がりになっていて、実際のところただめんどくさいだけだ。
とにかく入待ちなどで急いでいる場合は、大劇場がわの側道を小走りに向かう。
ファンクラブ活動をしない人たちは、のんびりおしゃべりしながら歩いている。そこを入待ち参加チーム(いま勝手に名付けた)は、サッカーのドリブル並みに綺麗にくぐり抜けていく。
一分一秒でも早く並ばなければという謎の使命感にかられているのだ。
◆
今日は初めて「聖夜 椿」の入待ちに参加する。
なにしろ大劇場を管轄する会への参加も、今回が初。
私はものすごい緊張していた。
知らない人たちの中に飛び込むこと。
椿のファンクラブのしきたりなどに無知なこと。
椿の入り姿を始めて拝めること。
良い席なので嬉しすぎて心臓が飛び出しそうなこと。
そして・・・
チケットがちゃんと受け取れるか不安なこと。
そう、実は私、チケットをこの時点で手にしていない。
掲示板という宝塚チケットを譲ってくれるサイトで約束をしただけなのだ。
「入口付近で待っています」と。
約束の時間は開演30分前。
まだまだ時間がある。
「本当に来てくれるんだよね」
私は不安と期待が入り混じって胃が痛くなりそうだった。
とにかくいまは入り待ちへ向かおう。
心配していてもしかたない。
急ぎ足で劇場の先にある楽屋口へと向かった。
◆
楽屋口へ到着すると、もうすでにファンクラブの行列ができ始めていた。
私はあわててその列に駆けこむ。
スタッフさんだろう、ワラワラと群がるファンたちに大きな声を張り上げて整列させている。
そのときピリッとしたその空気感を一瞬で感じ取った。
前に参加していたファンクラブとは少し雰囲気が違っていた。
でも郷に入っては郷に従えというだろう。
なにもわからないうちはとにかく号令どおりに動くしかなかった。
◆
どれくらい待ったのか。
周りの人たちは知り合い同士なんだろう。楽しそうに談話している。
悪いな、と思いつつ漏れ聞こえてくる話は、昨日の公演がどうだったなど聞き逃せない内容ばかりだ。
すると突然話がピタリとやむ瞬間が訪れる。
あとから思えばこの時スタッフさんが動き出したのだろう。
ほどなくして椿が車でスルっとやってきた。
スタッフがドアを開ける。
椿が出てくる。
そのまま歩いて楽屋口まで向かう。
立ち止まる。
ファンが行ってらっしゃいと声をかける。
行ってきますと言う。
手を振る。
以上、この儀式正味およそ3分。
いやたぶん3分くらい、と思う。
この3分のために足がしびれるほど待つ。
それまで生徒さんが行き来するたび、立ったり座ったり屈伸運動をする。
お年を召したかたにはかなりの重労働だろう。
それ以外の人にとってはいい運動だ。
到着してから中に入ってしまうまであっという間だ。
ただわかったことは、以前の贔屓とサービスの差はほとんどなかった。
公演前のあわただしい入り時間では、なにもできないのがあたりまえなのかもしれない。
逆になにか色々あったとしたら戸惑ったと思うので、ここはちょっとほっとした。
◆
さて、開演前にもうひと仕事。
チケットの受け取りだ。
私は足早にその場を去った。
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