トップスターの挨拶
「スカイステージ見なきゃ」
仕事から帰ってきたと同時に、机の上にあったテレビのリモコンを手に取った。
今日はちょうど「愛の岐路」が千秋楽を迎え、その様子がニュースで放映される予定だった。
千秋楽の様子は最後にトップスター「聖夜 椿」の挨拶で終わっていた。
「この公演中にはいろいろあって・・・」
真顔でそんなことを言っている。
真顔なのだからけっこう深刻なのだろう。
「ほほう・・・なにがあったんだ」と
私は真剣にテレビに集中する。
ただ、最後まで聞いてもその「いろいろ」にふれることはなかった。
全く事情が分からない私には
「いろいろって結局なんだったんだろう?」と、テレビの前で首をひねった。
◆
トップスターの挨拶はおもしろい。
人によってクセがある。
前に応援していた人はとにかく判を打ったようにいつも同じだった。
貸し切り公演でも千秋楽でも、とにかくおんなじ。
良く言えば、安定していて失敗する心配もない。
ただいつ聞いても同じだから、いつしかそこに期待はしなくなった。
いままでいろいろな宝塚のトップの挨拶を見てきたが、
思いのたけを切々とうったえる人
笑いがとれる器用な人
かみしめるように仲間思いの言葉を述べる人
元気いっぱい明るく劇場にさけぶ人
など、本当に個性いっぱいだ。
そしてこの「聖夜 椿」は変わっていた。
その後、幾度となく「聖夜 椿の挨拶」を聞くことになるのだが、
ある意味自由奔放、失敗を恐れず思ったことを言ってしまう。
目立つことが大好き!が全面に出ていて無邪気だ。
とにかく宝塚を去るその日まで、聞いていて飽きることが無かった。
私はこの日スカイステージで「聖夜 椿」の挨拶を初めて目にし、
「おもしろい人だな」
とテレビの前でつぶやいた。
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